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2010/02/25

しあわせの隠れ場所

サンドラ・ブロックがアカデミー賞主演女優賞候補となるどころか、本作自体も作品賞候補入り。とはいえ、個人的に『しあわせの隠れ場所』という邦題はちょっと考えすぎな気もするのだ。原題はかなりスッキリと"The Blind Side"。冒頭、このタイトルが何を示しているのかをアメフトのVTRで紹介してくれる。なるほど、クオーターバックがボールを持って走るとき、彼の“死角(ブラインド・サイド)”となる部分を守る、その縁の下の力持ち的なポジションこそがチームの勝敗に大きく影響してくるのだ。そして“死角”とは人生の至るところに現れ、我々の人間性に試練を与えるもの。これはキリスト教の「隣人愛」を意識せずにはおられないテーマを秘めたヒューマン・ドラマだ。

とある理由により宿なしの放浪生活を送る黒人の高校生マイケル・オアー。着てるものはいつも同じ。巨体を揺らし雨の中をトボトボ歩く彼の姿を白人一家は見過ごせなかった。思いついたらすぐに行動せずにはいられない性格のリー・アン(サンドラ・ブロック)は臆することなく声をかけ、彼を自宅へと招き入れる。自分たちが当たり前のように持ってるものを彼は持たない。我々に出来ることはなにか…。いつしかオアーはこの家族となり、神より与えられし才能とチャンスを生かし、その“体格”と“保護本能”によって高校アメフト界の花形選手となっていく…。

アメフトファンに知られたNFL新人選手マイケル・オアー。彼にまつわる実話となればスポーツ物として男性客が大半を占めるはずだが、本作は全米公開時に多くの女性客を動員した。その理由にはサンドラ・ブロックの存在感があるのだろう。実生活と役柄とが絶妙にマッチした彼女の“飾らなさ”。どんなに深刻な状況でもユーモアひとつで周囲を和らげる才能。恵まれない者に施すという、下手すればそこに他者からの不本意な目線が付随しかねない役柄を、サンドラ姉さんはその演技ひとつであまりにさりげなく体現してしまった。隣人に対して無関心ではいられない彼女の行動は、傍から見ても全くもって正しいし、そのチャンスを見事に生かして才能を伸ばしていくオアーの人生を、本作は穏やかながらも力強い人間ドラマとして描いている。

この映画の8割はとてつもなく感動的だ。そのうねりを堪能しつつも、僕らがあと2割くらい頭の片隅で踏まえなければならないのは、「もしもこれを黒人の観客が観たならどんな気分になるだろうか」ということだと思う。これが実話だったとしても、である。

たとえば『僕らのミライへ逆回転』のなかでジャック・ブラックが『ドライビング・ミス・デイジー』のワンシーンを再現するとき、モス・デフは「俺はこのセリフは口にできない!」と怒ってしまう。このシーンに触れた人の多くは、白人の施しにより黒人にチャンスが与えられるというハリウッドの伝統芸がいかに無意識のうちに世界中へと散布されてきたことか思い知らされたことだろう。

あるいは究極的にいえば、この『しあわせの隠れ場所』で施される側の人間としてアジア人、それも日本人をイメージしたとき、素直に「ありがとう」と言えるだろうか。

作品を批判しているのではなく、本作はそうやって幾つもの立場をシミュレーションしながら世界中の観客が自らをあてはめていくべき物語なのだと思う。そうすることで上から目線や狭い意味ではない、本当の隣人愛というものがより鮮明に浮かび上がってくるのではないだろうか。

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