« 全米興業成績Feb.12-14 | トップページ | 2月14日~15日ツイート »

2010/02/15

アウシュビッツの門をくぐり・・・

屈強な体格をしたその専門ガイドは、30人ほどに膨らんだ英語ツアーを手慣れた調子でふたつに区切り(家族を真っ二つに分断された中学生くらいの青年が、慌ててガイドの手をくぐりぬけ両親の側へと滑り込んだ)、一方はあちらのガイドについて行きなさい、そして他方は僕のチームだ、と言い渡した。

館内ツアー参加者は皆、ヘッドフォンを着用している。いくつもの言語ツアーが交差するので、それぞれの周波数がツアー単位で設定されている。こうすればガイドも大声を張り上げずに、胸元のピンマイクに語りかけるだけで事足りる。

「それじゃ、出発しましょう」

「労働は自由をもたらす」と書かれた門をくぐると、路の脇に大きな樹木が生い茂っている。続いて、規則正しく建てられた木造遺構が目に飛び込んでくる。
37601087_1273369802_4      
一見どれもが同じに見える。かつてここで起こった歴史が刻まれたそのひとつひとつが、そのままの姿で歴史を語り、なおかつ内部を資料館として開放している。

空からは灼熱の太陽。

わがツアーは建物の中へ入っていく。陽光からしばしの逃亡。しかしその内部は薄暗い上に冷房もなく、外とおなじ蒸し暑さが続いていた。
37601087_1571683234_2 
ガイドはひとつのパネルの前に皆を立たせる。そこには英語とポーランド語でこのような言葉が書かれていた。

"Those who cannot remember the past are condemned to repeat it."(過去を忘れる者はそれを繰り返す)ジョージ・サンタヤナ

「我々はまずこの言葉からスタートしたい」とガイドが切りだす。「これこそ当博物館が発足以来、基本理念として掲げてきた言葉であり、今日みなさんと共に改めて確認していきたいことでもあります」

円を描くように広がった15人が、ガイドの説明に一様にうなづく。最初は文字や写真、パネルの展示が続く。たとえば、ヨーロッパのどれほど広大な地域からアウシュビッツの囚人たちが集められてきたのかを示すグラフ図。また彼らの送還された理由の内訳。

ソ連兵の捕虜。ポーランドやドイツの政治犯。同性愛者。ロマ・シンティ。ユダヤ人。他にも障害者や聖職者など。
37601087_2654133884

大きく掲示されたモノクロの写真の中で幼い男の子の目がこちらを見つめていた。ほかにも表情を奪われた人たちが、境界線の向こうから写真の前に立つ者だけに視線を送る。当時、この場所でシャッターを切ったのはナチスの腕章をした者だったのか、あるいは単なる仕事として機械的な記録撮影を任された者だったのか。

いずれにせよ僕らは、その“何者か”の目線を借りることで、当時の人々と対峙する。写真には何の感情も刻まれていなかった。憐れみもなければ、何かの決定的な瞬間を選び取ろうとする芸術的感性であるとか、同じ人間に対する親密な態度も存在しない。ただの乾いた記録である。

きっと歴史の教科書や資料集で眺めればいろんな感情が湧きあがっただろう。でもなぜか、ここでは何にも感じられなかった。僕の心は大切な物をすべて自宅に置き忘れてきたかのように“からっぽ”で、この写真も、撮った人間も、みんなからっぽだと想った。これじゃ何も写ってないのとおんなじだよ、と想った。

おかしいのかもしれないが、それが率直な感想だった。

|

« 全米興業成績Feb.12-14 | トップページ | 2月14日~15日ツイート »

アウシュヴィッツ訪問」カテゴリの記事

旅の記録」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/47571538

この記事へのトラックバック一覧です: アウシュビッツの門をくぐり・・・:

« 全米興業成績Feb.12-14 | トップページ | 2月14日~15日ツイート »