« 2010年2月 | トップページ | 2010年4月 »

2010/03/31

ブルーノ

Bruno_4英国ケンブリッジ大卒の喜劇人サシャ・バロン・コーエンは、これまで黒人文化かぶれの白人ラッパー“アリG”、カザフスタン出身ジャーナリスト“ボラット”、オーストリア出身でゲイのファッションリポーター“ブルーノ”というキャラを使い分けてきた。断わっておくが、ケンブリッジは何も変態ばかりを養成する地というわけではない。言わずと知れた最高峰学府、なおかつとても美しい街だ。が、結果的にモンティ・パイソンのメンバーや、アイザック・ニュートン、ヴィトゲンシュタイン、チャールズ・ダーウィンといった名だたる変態たちが巣立っている。なんて素晴らしいことなんだ。

60年代をリアルタイムに生きていない僕には、モンティ・パイソンが当時いかなる革命を巻き起こしたのか想像するしかない。思うに、都会の喧騒から離れたこの場所で(ロンドンから鉄道で1時間くらい)、若き彼らは自分や社会の限界を打ち破ろうと、また打ち破ることを恐れない自己を形成しようと奮闘したことだろう。彼らの強さとは、自己や周囲の価値を究極的に「ゼロ」か「それ以下」と判断しえたことに尽きるのではないか。

インテリぶりを微塵も感じさせないサシャ・バロン・コーエンからも、その強靭さは感じられる。大衆の好物、“アポなしリアリティ・ショー”のようなスタイルで綴られていく本作『ブルーノ』。これは事実なのか?虚構なのか?「ヒトラーに次ぐオーストリア出身の有名人になりたい!」などと野心みなぎらせるファッション・レポーター(バロン・コーエン)は、ひとつの大失態により業界から締め出しを食らい、そんなら世界で勝負だ!とばかり自己主張の国アメリカへ乗り込んでいく。側にはサンチョ・パンサのようなマネージャー(ゲイ)がひとり。ブルーノのケツの穴をずっと狙っている。Sacha01_2
ブルーノはどんな危険な立場に置かれても「最高の“キメ顔”きめれば、許してもらえるんでしょ?」的な空気の読めなさ(読まなさ)ぶりを貫き通す。アフリカで黒人の赤ん坊をお買い物しては「だってセレブはみんなやってるでしょ?」。中東の過激派グループ幹部には「有名になりたいから、ぜひ誘拐して!」。挙句の果てにはエルサレムの真ん中で挑発的なユダヤ教コスチュームに身を包み、周囲の緊張を暴動寸前にまで高めて、またもやキメ顔。

ちなみに、サシャ・バロン・コーエンはユダヤ人家庭に育ち、つい先日も伝統的な結婚式によってアイラ・フィッシャーと結ばれたばかり。そんな彼がメル・ギブソン(ユダヤ人社会と何かと衝突の絶えないお人)の写真を目にして「総統っ!」と敬礼してしまうのも、ギャグとはいえ、かなり武闘派の域に達している。

え?『ブルーノ』見たけど、なんにも心に残んなかったって?

それに気付いただけでも大したものだ。世の中のあらゆるものはイメージを身にまとっている。人々が目くじらを立てて怒るテーマほど、イメージは幾つもの層に塗り固められて、安易にリセットするのが難しい。でもこの世の“ホンモノ”って、いとも簡単に自らの存在価値を無色透明に帰してしまえるものなのではないだろうか。

僕はブルーノの不思議ちゃんぶりの中にその幻影を観たのだが。。。まあ、何かの間違いでしょう。

↓この記事が参考になったらクリックをお願いします

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/03/30

スカ―フェイスのリメイク(学芸会編)?

LAタイムズ経由で知った、この学芸会ビデオ。
リアル?それともフェイク?
いろんな意味で震撼せずにいられない、逸品です。

裏には有名クリエイターの存在があるとの噂も。
いったいなにを企んでるのでしょうか。。。?

↓この記事が参考になったらクリックをお願いします

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

息もできない

問題。ゴダールが1959年に発表した『勝手にしやがれ』の英語タイトルは?
答えは本作と同じ"Breathless"。
Breathless02_2
そのタイトルに誇張はいっさいない。まさに2時間の暴力、愛情、笑い、激情の波状攻撃。そのすべてが容赦なく相俟って、ほんとうに息ができなくなる。感情を解さない獣のように生きる暴力まみれの借金取りサンフンと、彼に臆することなく向かってくる高校生ヨニ。暴力で幕をあける本作は、ふたりの主人公の出逢いさえも鉄拳制裁で、片方が仕掛ければもう片方も黙ってはいない。彼らはそうやって感情を剥き出しにしてぶつかりあうことで何か新しい関係性が芽生えゆくのを感じる。それはギリギリのバックグラウンドを生きるふたりにとって束の間の休息地のよう。

本作にとって暴力とは、会話であり相槌である。バシッとかドスッという音が聞こえないシーンはないほど。でもそうやって、いったんあらゆる感情を締め出して原始的な世界へ回帰することで、あらためてゼロから紡がれゆく愛情とも友情とも取れぬ赤裸々な感情の息吹が純粋に胸に沁みわたる。それらはまるで、人間がはじめて覚えた言葉を口にするかのように不器用で、不細工だ。しかし神々しい。Breathless01_3

聴くところによると、監督・主演を務めたヤン・イクチュンは、家族に借金し自宅を売り払ってまでこの映画の製作資金を捻出したという。しかも現場ではリハーサルなしの本番一回きり。俳優やスタッフに強いられた緊張感は計り知れない。そうしたビジネスの域を越えた生々しさ。この男の生態系(寝て、食べて、吐き出して、息をする)の一部とも言うべき映画の獰猛さ、なりふりの構わなさに、僕らは掛け値なしで翻弄され、魅せられるのだろう。

試写のときに隣の席に座っていた中年男性がえぐえぐ言いながら嗚咽したいのを必死にこらえる姿を思い出した。彼も明らかに息ができない状態に陥っており、その状況もふくめて明らかに会場全体が映画の一部と化していた。いまの日本映画にここまで突き抜けたストーリーが描けるだろうか。描くべきストーリーを見いだせるだろうか。あるいはその勇気を持ち合わせているだろうか。それに見合う作品と言えば、最近だと『愛のむきだし』『イエローキッド』くらいしか思い出せない。

↓この記事が参考になったら押してください

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/03/29

アーマード 武装地帯

Armored02_2俳優再生工場へようこそ。かつて観客に強烈な印象を与えたことのある俳優たちは、その影響力ゆえ後のキャリアで苦悩することになる。でもそんなとき、彼らにとって『アーマード』は自分が映画の「部品」であったことを思い出させてくれる安息の場所として受け止められたに違いない。マット・ディロン、ジャン・レノ、ローレンシュ・フィッシュバーン。並みいる俳優たちがここでは皆、横一線。現金輸送中に襲撃を受けたと自作自演し、4200万ドルに昇る大金をせしめようと画策する武装警備員を演じている。イラク派兵での苦い記憶を持つ彼らが「完璧だ。抜かりはない」と打って出た作戦中に、新入りのタイ(コロンバス・ショート)が心変わりしたことから事態は急激なるアクションへ・・・。銃撃ではビクともしない輸送車には米軍を思わせる凛々しい「イーグル」マーク。それに挑みかかるかのようにもうひとつの象徴も登場する。それがタイの弟が自宅に描く不気味な「フクロウ」の絵。
Owl_2それは「勇気を奮い立たせる鷹」に比べ、どんな状況でも自分を冷静に見つめる守護神のようにも思えてくる。ここら辺のドラマの盛り込み方はさすがに巧い。2500万ドルの低予算では描けるアクションにもやや限界が見えるが、これは脚本コンペで6000本の応募作から選ばれた才能ジェイムズ・V・シンプソンと、次回作に『プレデターズ』を準備中のニムロッド・アーントル監督、そしてオーラを葬り去った俳優たちの“試金石”として楽しむべき作品だろう。

↓この記事が参考になったら押してください

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

全米ボックスオフィスMar.26-28

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Mar.26-28 weekend】

01 How to Train Your Dragon (-)
02 Alice in Wonderland (↓)

03 Hot Tub Time Machine (-)
04 The Bounty Hunter (↓) 
05 Diary of a Wimpy Kid (↓)
06 She's Out of My League (↓)
07 Green Zone (↓)
08 Shutter Island (↓)
09 Repo Men (↓)
10 Our Family Wedding (↓)

■3D映画が単独でボックスオフィスを牽引する時代は終わり、いよいよ同時期に3Dがしのぎを削る時代へ。

■『アバター』がTOP10圏外へ放り出されたのを合図に(今週11位)、今後の3D情勢を占う意味でも重要な鍵を握る第2ラウンドが幕を開けた。まずは全米4000館以上で封切られたパラマウントの3Dアニメ『ヒックとドラゴン』が推計4,330万ドルを売り上げて首位を獲得。全米の各メディアに掲載されたレビューの評価は軒並み高く、もう少し数字が伸びるのではと期待されたが、4週目の『アリス・イン・ワンダーランド』にまだ勢いが残っていたせいか、昨年同時期のパラマウント3Dアニメ『モンスターVSエイリアン』のオープニング興収と比べて1600万ドルほど低い滑り出しとなった。

■今週末にはワーナーから『タイタンの戦い』が到着。当初の2D版から急遽3D版へとコンバージョンされたこの作品が3D戦線にいかなる勝負を仕掛けるのか、注目が集まる。そしてなお『アバター』はリピーターを増やし、TOP10圏外ではIMAXで絶賛上映中の"Hubble3D"が存在感を見せている。関係者も「3Dスクリーンが全然足りてない」とこぼす有様。本当にいったいどうなっちゃうんだろう。

■前回より350ほど館数を失った『アリス・イン・ワンダーランド』は、推計1,730万ドルの興収をあげ、2位の座を確保。それでもなお劇場あたりのアベレージでは5000ドル以上を維持しているので、まだまだ勢いは衰えていない。現在までの国内累計は2億9,300万ドル、世界興収は6億5600万ドル。先週試写して参りましたので、その感想の方はこちらで。

■3位に初登場"Hot Tub Time Machine"は、タイトルから分かる通り、スキー・リゾートの露天風呂がタイムマシンとなるハチャメチャなコメディ。ジョン・キューザックをはじめとするダメダメな面々が1980年代へと投げだされ、混乱しながらもそれぞれに再出発を図ろうと奔走する。週末3日間の興収は1,365万ドル。MGMの担当者は「うーん、良くはないが・・・悪くもないかな」とコメントしている模様。ほんと、そのとおりだ。

■今週のサプライズは『バウンティ-・ハンター』(2週目)が何とか踏みとどまっていること。各紙レビューでもあまり評価が芳しくないが、どんな人気の新作でも2週目は50%ほど興収下落が常なのに、本作の下落率は40%ほど。推計1240万ドルを稼ぎ、累計を3900万ドル弱とした。製作費4000万ドルまであと一歩。

■んなわけで、来週は3D嵐が吹き荒れそうな上、黒人層に大人気を誇るタイラー・ペリーの最新作が登場。ここ数年、初登場1位が定着していた彼の作品VSその他3D作品との戦いも見逃せない。

↓この記事が参考になったら押してください

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/03/26

アリス・イン・ワンダーランド

やはりティム・バートンの世界だった。ルイス・キャロルが著した「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」から約13年後、19歳に成長したアリスは、年齢、性差、階級など、数々の人生のプレッシャーにさらされ、白うさぎの懐中時計のカチコチに追い立てられるかのように穴のなかへ。その逆ベクトルに乗せて堰を切ったように3D世界を膨張させていく。『アバター』が繰り返される侵略史の中で人間の姿を浮き彫り(3D化)にしたように、3D技術は『アリス』でもそれなりに存在理由を明確化させているわけだ。

Rabbit_6

続きを読む "アリス・イン・ワンダーランド"

| | トラックバック (0)

2010/03/22

桃まつり~うそ~

渋谷ユーロスペースにてレイトショー公開中の『桃まつり~うそ~』。11人の女性監督たちが「うそ」をテーマに撮り上げた短編作品集だ。全作品を拝見したなかで、僕の心を鷲掴みにしてくれたのが、玉城陽子監督の『1-2-3-4』だった。

Film_ott_01_3ブルースのカウントを取るかのようなタイトル・コールと共に、4人の男女の10年史が語られる。それぞれがアートを志し同じ屋根の下で生活を共にしていたあの頃。そして思い描いていた絵とはだいぶ違うものになった今現在。

短編のキャパシティを越え、どんどんバックグラウンドが広がり、たった25分のうちに映画のタイムマシン機能が10年間の移ろいをしっかりと根付かせる。

過去と現在との邂逅に、さりげなく弾き語りが持ち込まれるのも絶妙だ。そのギター音が鳴り響くとき、同時に役者の表情を克明にとらえゆくカメラワークにも注目。

誰にでも10年前と、10年後の場所がある。理想と現実がある。街がどんどん変わっていく中で、想いを置き去りにした場所がいくつもある。

『1-2-3-4』を観て、無性にあの場所に帰ってみたくなった。今どうなってるのか、とても怖いけれど。そして今から10年後、またこの映画を観る時の印象は大きく変わっていると思う。

素晴らしい作品をありがとう。この監督の名前は忘れずにおこう。

1-2-3-4
監督・脚本:玉城陽子
制作・脚本・編集:金子裕昌、撮影:清水信貴、音楽:金谷有理
出演:樋口史、上馬場建弘、半田さち子、金谷有理
(25min. HDV 16:9)

↓この記事が参考になったら押してください

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

全米ボックスオフィスMar.19-21

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Mar.19-21 weekend】

01 Alice in Wonderland (→)
02 Diary of a Wimpy Kid (-)

03 The Bounty Hunter (-)
04 Repo Men(-) 
05 She's Out of My League (↓)
06 Green Zone (↓)
07 Shutter Island (↓)
08 Avatar (↓)
09 Our Family Wedding (↓)
10 Remember Me (↓)

■『アリス・イン・ワンダーランド』が3週目もNO.1を獲得。週末3日間の推計興収は先週比45%減の3,450万ドル。累計では2億6580万ドル。■まあ、『アリス』の1位は想定内として、今回驚いたのは"Diary of a Wimpy Kid"の意外な強さだ。ジェフ・キニー原作(和訳版のタイトルは「グレッグのダメ日記」)によるこのキッズ・ムービーは封切後3日間で推計2180万ドルを売り上げ、2位を獲得。早くも製作費の1500万ドルを回収した。

■これに競り負けたのはジェニファー・アニストン&ジェラード・バトラー主演の"The Bounty Hunter"。懸賞金のかけられたヒロインと、賞金稼ぎとなった元夫。追いつ追われつの裏側で組織の陰謀が・・・マーケティングしやすい作風にも思えるが、評価は意外と伸びず、週末3日間の興収は2100万ドルにとどまった。製作費は4000万ドルほど。

■4位にはジュード・ロウ主演"Repo Men"が初登場。誰にでも人工臓器が買える近未来、しかしその高額の費用支払いが滞ると企業から凄腕の徴収人(レポ・マン)たちが送りこまれてくる…という近未来アクション。製作費は3000万ドルほどだが、週末3日間の売り上げは600万ドル足らず。これはちょっと厳しい。。

■TOP10意外に視野を広げると、IMAXで上映のはじまった"Hubble 3D"が1館あたりの平均11,600ドルを売り上げた。本作は7人の宇宙飛行士たちがハッブル望遠鏡を修理すべく奮闘する様を描いたドキュメンタリー。ディカプリオがナレーションで参加。■昨年のトライベッカで高い評価を受けていたアンディ・ガルシア主演の家族ドラマ"City Island"も封切られ、1館あたり平均17,500ドルと高稼働。

■そして、たった3館で封切られた"Greenberg"が平均40,000ドルと、まさに針が振り切れたような状態。本作は『イカとクジラ』「マーゴッド・ウェディング」(日本では未公開)のノア・バウムバック監督が、奥さんのジェニファー・ジェイソン・リーによる原案を基に描くヒューマン・コメディ。主演はベン・スティラー。バウムバックは前2作とも素晴らしい内容だっただけに、今回は未公開とならないことを望みます。

↓この記事が参考になったら押してください

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/03/21

ホワイト・オン・ライス

White_on_rice_2ホワイト・オン・ライス』という映画の存在を知ったのはもう2年くらい前になる。日本語ペラペラのアメリカ人監督が「在米日本人を主人公に『男はつらいよ』をめざした」コメディと聞き、正直、最初は「大丈夫なのか?」と思った。スシ、カブキ、ニンジャ、サムライ…。さぞや間違った日本観がお目見えしていることだろうな、と覚悟した。

でも本作を実際に見始めて5分くらいすると、これがデイヴ・ボイル監督から日本への熱烈なラブレターだということが分かる。なにせ、この映画は在米日本人の家族が「メイド・イン・アメリカの時代劇」をテレビ観賞し、その違和感を楽しむシーンで幕をあけるのだ。この、文化のフィルターを2枚ほど挟みこんだ感じ。なるほど、ここには知ってるようで知らない日常が広がっている。僕らは「不思議の国のアリス」の穴を覗きこむかのように、アメリカのなかの日本人社会という特殊な世界へ紛れ込んでいく。

主人公はハジメという男性(その名前からジミーと呼ばれる)。彼は妻と離婚したばかりで、傷心に暮れながら妹夫婦の自宅に居候している。すっかり大人なくせして、恐竜が大好き。しかも一生懸命になるとすぐに周りが見えなくなるタイプ。そんな矢先、ハジメは義兄の姪ラモナと再会を果たす。彼女の成長ぶりにすっかり心奪われた彼は、いつしか奇妙な行動を取りだすのだが…。

Nae01dsc_0433_2おっと、ストーカーの映画ではない。もちろんやり方よってはそういう物語に仕立てることも十分可能なのだろうが、ハジメを演じる渡辺広さん(『硫黄島からの手紙』を観た方なら、誰もが「ああ、この人!」と思うだろう)はそういう際どいキャラをうまく中和させる魅力を持っている。そうだな、いわば“男アメリ(?)”といった感じ。

また、ハジメと子供部屋をシェアするはめになる、まだ幼い甥“ボブ”のキャラクターも重要だ。この子はハジメと真逆で、子供になりきれない子供という設定。恋愛にひた走るハジメを随所で助けてくれる頼もしい知恵袋である一方、なかなか周囲に言いだせない悩みを抱えている。

本作はそうやって子供部屋に暮らす歳の離れた双子のような二人(ほんとうは甥&伯父)を中心に、アイデンティティ確立めざして奮闘する成長モノとして機能していく。あれ?ここまで突きつめていくと、これはもはや僕らの良く知るジャンルの映画だ。

Whiteonrice2_3僕は本作に黒沢清監督の『トウキョウソナタ』と似た面を感じた。そして黒沢監督が世界の映画祭を回るうちに、数々のインタビュアーから「我が国もトウキョウも変わらないんだと知りました」と告げられたというエピソードを思い出した。

本作も同じ。特殊なのは糸口であって、内容としては世界中で抱擁されうる共通のテーマを宿している。見知らぬ世界はいつしか、よく知った家族の肖像に見えてくる。それが映画のちからというもの。

面倒見のいい妹役には、『硫黄島からの手紙』とデヴィッド・リンチの『インランド・エンパイア』のクライマックスでその存在感を印象付けた裕木奈江さん。母であり、妹でもある役どころをとても柔軟に演じており、彼女がそこにいるだけで一本芯が通ったように家族のバランスが不思議と安定していくのを感じる。

夫を演じる高田澪(たかだ みお)さんはもともとニューヨークで音楽家として活動していた方らしい。さすがに演技では賄えない空気感というか、この国で長らく格闘されてきた、良い意味の“疲労感”が身体から滲みでる。そんな彼が劇中で実際にバイオリンを奏でるシーンがある。幼い息子ボブも音楽的才能を受け継ぎ、知らないうちにピアノを弾きはじめる(子役が本当に弾いている)。

彼らが音を奏ではじめると、これまで家庭内に吹きだまっていた日本語なまりの英語の響きが、一転する。音楽の響きとは、なんと軽やかに文化の壁を越えて浸透していく存在なんだろう。。。

それはそうと、

この『ホワイト・オン・ライス』にはロスで女優修行を続ける友人、高綱草子(Takatsuna Kayako)さんが出演している。

ベニシオ・デル・トロやマーク・ラファロといった有名俳優を輩出する名門ステラ・アドラー(ロバート・デ・ニーロの先生)演劇学校で学び、今ではSAG(Screen Actors Guild)会員の高綱さん。日本で彼女に会うと実演者ならではの視点で俳優の演技について論じてくれ、これは僕に全く欠如している視点なので、いつも大変勉強になる。

彼女の出演シーンに笑った。ハジメに「交際相手にどうかと思って」と紹介される“背の高すぎる女の子”として怒涛のごとく現れ、笑って、立ちまわって、それからブチ切れて帰っていく。文字通り、嵐のような場面だった。演技に出すぎた部分が全くないのに、トータル的にこのシークエンスをひとりで掻っ攫ってしまったかのような印象。うーん。飛び道具、というか、職人芸。

2年ぶりに話を聞くと、高綱さんは現在カリグラフィー・アーティストとしても活躍しており、その素晴らしい「書」の数々は彼女のブログからも体感できる。『ホワイト・オン・ライス』に冒頭の登場する劇中劇(間違った時代劇)にも彼女の書が使用され、激烈な字体で「待ち伏せ ambush」と現れたときには、思わずタランティーノ劇場がはじまったかのようなこそばゆさ&高揚感が全身を貫いた。爆笑。これは監督の狙いどおりでしょう。

↓この記事が参考になったらクリックをお願いします

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/03/20

ミシェル・ゴンドリー

ただいま最新作『グリーン・ホーネット』と格闘中のミシェル・ゴンドリー。

先日、彼の口からビョークとの3Dコラボ(IMAX用の40分ほどの"a scientific musical"になるらしい)について発言がなされたばかりだが、ほかにも企画は目白押し。30年以上も教師として暮らしてきたシュゼッテ叔母さんとその息子の関係をドキュメンタリー形式で浮き彫りにした"L'epine dans le coeur(The Thorn in the Heart)"は世界の映画祭を巡業中だし、彼の『僕らのミライヘ逆回転』(原題"Be Kind Rewind")のコンセプトにも通じる著作"You'll Like This Film Because You're In It"(みんなで作っちゃおう、実践編、的な内容)をベースにした映画"The We and The I"も構想中。さらにはエレン・ペイジを主演に想定したタイムトラベル物も脚本開発中だという。

続きを読む "ミシェル・ゴンドリー"

| | トラックバック (0)

2010/03/18

エンタ―・ザ・ボイド

こんなTOKYO、観たことある?Market_poster_etv_3

続きを読む "エンタ―・ザ・ボイド"

| | トラックバック (0)

2010/03/17

マイ・ライフ、マイ・ファミリー

フィリップ・シーモア・ホフマン&ローラ・リニ―主演の"The Saveges"が「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」というタイトルでDVD化された。ジョージ・クルーニー主演の『マイレージ、マイライフ』をもじっているのは明らかだが、このネーミングからも同系映画の置かれた脆弱な輸入情勢が想起できる。海外では高評価を受けた本作も、ひとたび日本で「劇場未公開」のレッテルを貼られてしまっては、尚のこと“二番煎じ”に乗っかって生き残るしか術がない。

Savages_2 
しかしこれだけは言える。女性監督タマラ・ジェンキンスは、ちょっと映画を観なれた人ならば誰もが今後彼女に注目せざるを得ないことを納得させる力を持った逸材である。

続きを読む "マイ・ライフ、マイ・ファミリー"

| | トラックバック (0)

2010/03/15

全米ボックスオフィスMar.12-14

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Mar.12-14 weekend】

01 Alice in Wonderland (→)
02 Green Zone (-)

03 She's Out of My League (-)
04 Remember Me (-) 
05 Shutter Island (↓)
06 Our Family Wedding (↓)
07 Avatar (↓)
08 Brooklyn's Finest (↓)
09 Cop Out (↓)
10 The Crazies (↓)

■ライバルなど存在しなかった。『アリス・イン・ワンダーランド』の圧勝。興収は先週より50%近くダウンしているものの、週末3日間の推計では6,200万ドル。これにより10日間の累計は2億860万ドルとなり、たった2週で『チャーリーとチョコレート工場』の北米興収(2億650万ドル)を越えたことになる。製作費も2億ドル近辺とみられており、まずはビジネスとしては成功かと。しかし本作はスタジオと劇場チェーンが劇場公開-DVDリリースの間隔を最短3カ月と設定している国も多く(ひとえにDVD売り上げ不振を打開するための苦肉の策だが)、ディズニーが端から『アバター』とは真逆の“短期決戦”に意を固めているのは明白。3ヶ月間、どのような興収推移を辿っていくのかに注目が集まる。

■マット・デイモン&ポール・グリーングラス監督という“ジェイソン・ボーン”シリーズの強力タッグが送るイラク戦争下のサスペンス・アクション『グリーン・ゾーン』は初登場2位。推計興収1450万ドル。製作費が1億ドルもかかっている大作なだけに、手痛い出だしとなった。イラク戦争ものといえば先週『ハート・ロッカー』がオスカー受賞を果たしたばかりで、その影に隠れてしまった感がある。撮影監督は『ハート・ロッカー』とおなじバリー・アクロイド。

■3位以下は興収が1000万ドルに届いていない。ジェイ・バルチェル主演のコメディ"She's Out of My League"は推計960万ドル。ロバート・パティンソンが心に傷を抱えた青年を演じるラブストーリー"Remember Me"は推計830万ドルで4位。先日ディカプリオが来日会見を行ったばかりの『シャッター・アイランド』は5位へ。推計興収810万ドルとほぼ勢いは失われたが、累計ではめでたく1億ドル越えを果たした。

■たった1館での封切ながら先週、驚愕の4万ドル台のアベレージを叩き出したアニメーション作品"The Secret of Kells" は1万ドル前半へ落ち着いた。これに対し『アリス・イン・ワンダーランド』はアベレージ1万6000ドルの売り上げ。量でも質でもアリスのひとり勝ち、というわけだ。

■なおランキングには登場していないが、北米で既にDVD販売されている『ハート・ロッカー』は、このオスカー・シーズンに劇場へと返り咲いている。週末3日間の興業収入は828,000ドル。累計興収は1570万ドルとなり、製作費と言われる1500万ドル(一部では1200万ドルともいわれる)をようやく超えたあたりだ。どっちに転んでも史上最低興収のオスカー受賞作としての地位は変わらぬようだが。

↓この記事が参考になったら押してください

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/03/08

全米ボックスオフィスMar.05-07

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Mar.05-07 weekend】

01 Alice in Wonderland (-)
02 Brooklyn's Finest (-)

03 Shutter Island (↓)
04 Cop Out(↓) 
05 Avatar (↓)
06 The Crazies (↓)
07 Percy Jackson & The Olympians (↓)
08 Valentine's Day (↓)
09 Crazy Heart (↑)
10 Dear Johnm (↓)

■アカデミー賞雑感から。サンドラ・ブロックによる史上初のオスカー&ラジー同時受賞(対象作品は違うが)、キャスリン・ビグローによる女性監督として初めてのオスカー受賞(作品賞&監督賞)、脚色賞&外国語映画賞でのまさかのサプライズなど、エポック・メイキングなことだらけ。

■『ハート・ロッカー』は昨年のこの時期、インディペンデント・スピリット・アワードにもノミネートされたが、当時はそれほど騒がれなかった。2009年後半になってようやく機が熟したという感じ。社会、政治、流行。何事にもタイミングが大きくかかわってくる。

■たしかに『アバター』は誰もが認めるこの不況下最大の産業的快挙であり、その対極にあったのが「予算は少なくともアイディアとガッツで乗り切れる!」というまさにインディペンデント・スピリットの権化のごとき『ハート・ロッカー』の存在だった。そして今回の結果だけをみると、アカデミー会員はその総意として、1万本に1本の奇跡よりもあらゆる映画のなかに平等に宿る根源的な精神にこそ微笑みを贈ったことになる。

■ちなみに『ハート・ロッカー』はオスカー受賞作としては史上もっとも累計興収の低い作品となった。これは候補発表の際には大方の劇場上映を終え、DVD販売へと切り替わっていたせいである。

■さて、肝心の北米興業収入ランキングである。こちらも波乱が起こった。ティム・バートンの3D絵巻『アリス・イン・ワンダーランド』が当初の予想を大きく上回り、オープニング3日間で推計1億1,630万ドルを売り上げた。『アバター』のオープニング週末興収が7,700万ドルだったことからも、肝心なのはこの勢いが今後どれほど持続するかに尽きる。製作費は2億ドルと報じられている。

■リチャード・ギア、ドン・チードル、イーサン・ホーク、ウェズリー・スナイプスそろい踏みのクライム・サスペンス"Brooklyn's Finest"は2位。偶然にも昨日の日曜洋画劇場で放送された作品は同じアントワン・フークア監督作『ザ・シューター/極大射程』でしたね。推計興収は1,350万ドルと『シャッター・アイランド』とほとんど差がないことから、興収確定後の順位変動もあり得る。『シャッター~』は今週中に1億ドル超えか。

■"Cop Out"は先週比50%近く下落し、推計興収945万ドル。10日間の累計興収は3000万ドルと、製作費をギリギリ回収できた段階だ。同じく先週公開の"The Crazies"も製作費2000万ドルを超えて10日間の累計興収は2741万ドル。

■アカデミー賞にて惜しくも作品賞、監督賞を逃した『アバター』だが、累計興収は尚もあがり、7億2,000万ドルまで到達。商売的、技術的には間違いなく本作がNO.1だ。

■ちなみに、1館あたりのアベレージ興収では『アリス・イン・ワンダーランド』が31200ドルと高稼働ぶりを見せつけた。これはもう超えられないと思いきや、ランキングのずっと下に登場した"The Secret of Kells"がアベレージ4万ドルの数字を叩き出した。たった1館での限定公開とはいえ、アカデミー賞長編アニメ部門のサプライズ候補入りの影響は大きい。

↓この記事が参考になったら押してください

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/03/03

世界初の映画版アリス

アリスといってもティム・バートンの3D版のことではない。1903年に発表されたセシル・ヘップワース&パーシー・ストウ版のことだ。ルイス・キャロルが原作を発表してからわずか37年後、しかも映画誕生からたった8年後に、こんなにも魅力的な映像世界が生まれていたなんて。

Guardianの記事によると、現存していたフィルムは1963年以降、BFI(British Film Institute)の管理下に置かれ、近年になって痛みの激しかった部分をデジタル技術で復元していく作業が進められていた。全12分のうち取り戻せたのは8分にしか過ぎないが、それでもオリジナルに近い質感をこれほど味わえるのは奇跡に近い。

BFIは英国図書館で開催中の「アリス展」(もちろんこれは『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)の公開に合わせてのものだ)にて本作をプレミア上映。加えて、BFIはこれを人類の共有財産といわんばかりにYOUTUBE上であらゆる人々に向けて無料公開している。

はたしてティム・バートン版はこの1903年版を超えられるのだろうか?

↓この記事が参考になったら押してください

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/03/01

全米ボックスオフィスFeb.26-28

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Feb.26-28 weekend】

01 Shutter Island (→)
02 Cop Out (-)

03 The Crazies (-)
04 Avatar (↓) 
05 Percy Jackson & The Olympians The Wolfman (↓)
06 Valentine's Day (↓)
07 Dear John (↓)
08 The Wolfman (↓)
09 Tooth Fairy (↓)
10 Crazy Heart (↓)

■『シャッター・アイランド』が先週比46パーセント減の推計2,220万ドルを売り上げV2達成。10日間の累計は7,500万ドルとなり、製作費8,000万ドルまであとわずか。筆者も先週試写したばかりなのだが、孤島という“閉じた世界”で絵画のごとく点描されていくスコセッシのダークな映像美に心底圧倒された。今後、スコセッシ監督は日本の鎖国時代を舞台にした「沈黙」(遠藤周作)の映画化も予定しており、あらためて彼は『ギャング・オブ・ニューヨーク』のような大風呂敷を広げたものより、空間、空気ともに“閉じた世界”でこそ才能を発揮する監督なのだと実感した次第。などと巨匠に対して偉そうな言葉を口にしてみる。

■初登場"Cop Out"は2位発進。『ダイハード4.0』に飛び道具的出演を果たしたケヴィン・スミス監督がブルース・ウィリス&トレーシー・モーガンを主演に描くNY市警バディ・ムービー。といってもケヴィンらしく、ここで扱われるのは現金でも宝石でもなく、プロ野球カードなのだ。週末3日間の売り上げは推計1,860万ドル。

■3位は1973年発表のジョージ・A・ロメロ監督作『ザ・クレイジーズ』のリメイク版"The Crazies"。ブレック・アイズナー監督は05年までディズニーCEOを務めたマイケル・アイズナーの息子でもあり、映画監督としては『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』で初登場NO.1を獲得している(このときは製作費が1億ドルを超過しており、親の七光りとも言われたものだが、今回の製作費は2,000万ドル程度に抑えてある)。週末3日間の売り上げは1,650万ドル。

■順位は落ちても記録は更新。4位の『アバター』はついに北米興収7億ドル達成。いよいよアカデミー賞授賞式も日曜(日本時間では月曜)に迫ってきたが、ご存じのとおり、本国ではオスカー大本命『ハート・ロッカー』のプロデューサーが業界関係者へ向け「あの5億ドル大作ではなく、本作を支持して!」と記したメールを一斉送信し、これが「協会員への直接的アピール、および特定候補者(作)に対する揶揄」という禁止事項に触れることから大問題へ発展。会員による投票締め切りは火曜日17時となっており、この事件によって『アバター』にもオスカー受賞への道が開けてきた、とする見方もある。

■オールスターキャスト映画『バレンタインデー』は3週目にして1億ドル突破。製作費も5000万ドル程度と報じられており、このコストパフォーマンスの高さは新たなジャンルとして定着していきそうだ。その代わり出演者ブッキングは大変そうだけど。

■ランク外では、先週桁違いの劇場売り上げアベレージ(一館あたり45,750ドル)を記録したロマン・ポランスキー監督作"The Ghost Writer"が尚も好調。先週よりも43館劇場数を増やし、いまだ2万ドルを超えるアベレージをキープしている。それに続きアベレージ18,900ドル近くを叩き出したのが、たった9館で限定公開のはじまった仏映画"A Prophet"。本国では仏版アカデミー賞にあたるセザール賞の作品賞を獲得したばかり。アカデミー賞では外国語映画賞候補として、カンヌ最高賞受賞作"The White Ribbon"(ドイツ)との対決に注目が集まる。

↓この記事が参考になったら押してください

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

« 2010年2月 | トップページ | 2010年4月 »