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2010/03/17

マイ・ライフ、マイ・ファミリー

フィリップ・シーモア・ホフマン&ローラ・リニ―主演の"The Saveges"が「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」というタイトルでDVD化された。ジョージ・クルーニー主演の『マイレージ、マイライフ』をもじっているのは明らかだが、このネーミングからも同系映画の置かれた脆弱な輸入情勢が想起できる。海外では高評価を受けた本作も、ひとたび日本で「劇場未公開」のレッテルを貼られてしまっては、尚のこと“二番煎じ”に乗っかって生き残るしか術がない。

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しかしこれだけは言える。女性監督タマラ・ジェンキンスは、ちょっと映画を観なれた人ならば誰もが今後彼女に注目せざるを得ないことを納得させる力を持った逸材である。

離れて暮らす老いた父、レニー・サヴェージが深刻なアルツハイマーに陥っているとの連絡が、その子どもたちジョンとウェンディの元に飛び込んでくる。親子の間にはもう何十年も交流がなかった。もちろんそれには理由がある。幼い頃、父は家庭内で暴力を振るった。あの頃の記憶は、いまでも二人の心に影を落としている。

父はその後、新たな女性と一緒に暮らしていた。ただでさえ気性の激しいレニー・サヴェージは、アルツハイマーの進行でますます手におえなくなった。そして老齢の連れ合いが死去すると、最終的な保護責任は数十年の隔たりを越えて、ジョンとウェンディのもとへ委ねられた。

かくしてさまざまな思惑を抱えたサヴェージ家の面々の、
ちょっぴりおかしくて奇妙な介護生活が、幕を開けるのだが・・・。

この映画の見どころは、ジョンとウェンディという途方にくれる兄妹だ。ふたりとも中年真っさかり。ジョンは大学で戯曲について教鞭を取り、ウェンディは劇作家をこころざしながら臨時雇いのオフィス・ワーカーとして働いている(会社の備品、使い放題だ)。二人とも恋人はいても結婚に踏み切ることはない。表には出さないが、幼い頃に受けた心の傷が無意識レベルでどっかに引っかかっているのかもしれない。

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いまやアメリカのインディペンデント映画界を支える立場となったフィリップ・シーモア・ホフマンとローラ・リニーは、突如舞いこんだこの“再会”に悩み、心に抱えていた根本的な問題と向かい合っていく人間を哀愁たっぷりに体現する。

時おり病的なまでに勝気な態度 をとるウェンディと、時おり内気過ぎる側面を覗かせるジョン。父レニーの咆哮が響きわたる一方、思いのほか穏やかな邂逅の時間が流れていく。

ひとつ注目したいのは本作の根底に流れる“戯曲”というテーマだ。奇しくも兄妹どちらもがそれぞれ戯曲に真向かう人生を歩んでいる。ある種の人々は自らの原体験をフィクションのなかへと織り込もうとする。そうやって人生を俯瞰することで、自らのトラウマを葬りさる儀式を続ける。すべてがそうだと言うわけではないが、少なくとも兄妹にとって戯曲とは、自分らの過去を救済する術。戯曲=人生でさえある。

だからこそ、終わり近くにウェンディが口にする"That's it !?"というセリフは僕らの胸を激しく突き動かす。おそらく彼女が取り組み続けてきた戯曲の世界に比べ、現実の人生はあまりにあっけないものだったのだろう。その光景に不意を突かれた表情が生々しく描かれ、この点を見逃さなかったタマラ・ジェンキンスの才能にやられた!と思った。

加えて、ベッドに横たわっても相変わらず無軌道な父には、かつての暴力的な“父”と、聞き分けの悪い“子供”の姿が同居している。世話する側のジョン&ウェンディについても同じことだ。家族は互いに「子であり、親である」という“両義性”によって、かつての悪夢を少しずつ、少しずつ取り除いていく。

『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』“The Savages”はストレートな介護ドラマではない。むしろ介護というどこか“タイムマシン的”なシチュエーションが、数十年に及ぶ時間の隔たりをじっくりと溶解させていくヒューマン・ドラマである。

"Tha's It!?"で終わりかねない人生。でも、だからこそ、温かく祝福したいと思いませんか?

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