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2010/03/21

ホワイト・オン・ライス

White_on_rice_2ホワイト・オン・ライス』という映画の存在を知ったのはもう2年くらい前になる。日本語ペラペラのアメリカ人監督が「在米日本人を主人公に『男はつらいよ』をめざした」コメディと聞き、正直、最初は「大丈夫なのか?」と思った。スシ、カブキ、ニンジャ、サムライ…。さぞや間違った日本観がお目見えしていることだろうな、と覚悟した。

でも本作を実際に見始めて5分くらいすると、これがデイヴ・ボイル監督から日本への熱烈なラブレターだということが分かる。なにせ、この映画は在米日本人の家族が「メイド・イン・アメリカの時代劇」をテレビ観賞し、その違和感を楽しむシーンで幕をあけるのだ。この、文化のフィルターを2枚ほど挟みこんだ感じ。なるほど、ここには知ってるようで知らない日常が広がっている。僕らは「不思議の国のアリス」の穴を覗きこむかのように、アメリカのなかの日本人社会という特殊な世界へ紛れ込んでいく。

主人公はハジメという男性(その名前からジミーと呼ばれる)。彼は妻と離婚したばかりで、傷心に暮れながら妹夫婦の自宅に居候している。すっかり大人なくせして、恐竜が大好き。しかも一生懸命になるとすぐに周りが見えなくなるタイプ。そんな矢先、ハジメは義兄の姪ラモナと再会を果たす。彼女の成長ぶりにすっかり心奪われた彼は、いつしか奇妙な行動を取りだすのだが…。

Nae01dsc_0433_2おっと、ストーカーの映画ではない。もちろんやり方よってはそういう物語に仕立てることも十分可能なのだろうが、ハジメを演じる渡辺広さん(『硫黄島からの手紙』を観た方なら、誰もが「ああ、この人!」と思うだろう)はそういう際どいキャラをうまく中和させる魅力を持っている。そうだな、いわば“男アメリ(?)”といった感じ。

また、ハジメと子供部屋をシェアするはめになる、まだ幼い甥“ボブ”のキャラクターも重要だ。この子はハジメと真逆で、子供になりきれない子供という設定。恋愛にひた走るハジメを随所で助けてくれる頼もしい知恵袋である一方、なかなか周囲に言いだせない悩みを抱えている。

本作はそうやって子供部屋に暮らす歳の離れた双子のような二人(ほんとうは甥&伯父)を中心に、アイデンティティ確立めざして奮闘する成長モノとして機能していく。あれ?ここまで突きつめていくと、これはもはや僕らの良く知るジャンルの映画だ。

Whiteonrice2_3僕は本作に黒沢清監督の『トウキョウソナタ』と似た面を感じた。そして黒沢監督が世界の映画祭を回るうちに、数々のインタビュアーから「我が国もトウキョウも変わらないんだと知りました」と告げられたというエピソードを思い出した。

本作も同じ。特殊なのは糸口であって、内容としては世界中で抱擁されうる共通のテーマを宿している。見知らぬ世界はいつしか、よく知った家族の肖像に見えてくる。それが映画のちからというもの。

面倒見のいい妹役には、『硫黄島からの手紙』とデヴィッド・リンチの『インランド・エンパイア』のクライマックスでその存在感を印象付けた裕木奈江さん。母であり、妹でもある役どころをとても柔軟に演じており、彼女がそこにいるだけで一本芯が通ったように家族のバランスが不思議と安定していくのを感じる。

夫を演じる高田澪(たかだ みお)さんはもともとニューヨークで音楽家として活動していた方らしい。さすがに演技では賄えない空気感というか、この国で長らく格闘されてきた、良い意味の“疲労感”が身体から滲みでる。そんな彼が劇中で実際にバイオリンを奏でるシーンがある。幼い息子ボブも音楽的才能を受け継ぎ、知らないうちにピアノを弾きはじめる(子役が本当に弾いている)。

彼らが音を奏ではじめると、これまで家庭内に吹きだまっていた日本語なまりの英語の響きが、一転する。音楽の響きとは、なんと軽やかに文化の壁を越えて浸透していく存在なんだろう。。。

それはそうと、

この『ホワイト・オン・ライス』にはロスで女優修行を続ける友人、高綱草子(Takatsuna Kayako)さんが出演している。

ベニシオ・デル・トロやマーク・ラファロといった有名俳優を輩出する名門ステラ・アドラー(ロバート・デ・ニーロの先生)演劇学校で学び、今ではSAG(Screen Actors Guild)会員の高綱さん。日本で彼女に会うと実演者ならではの視点で俳優の演技について論じてくれ、これは僕に全く欠如している視点なので、いつも大変勉強になる。

彼女の出演シーンに笑った。ハジメに「交際相手にどうかと思って」と紹介される“背の高すぎる女の子”として怒涛のごとく現れ、笑って、立ちまわって、それからブチ切れて帰っていく。文字通り、嵐のような場面だった。演技に出すぎた部分が全くないのに、トータル的にこのシークエンスをひとりで掻っ攫ってしまったかのような印象。うーん。飛び道具、というか、職人芸。

2年ぶりに話を聞くと、高綱さんは現在カリグラフィー・アーティストとしても活躍しており、その素晴らしい「書」の数々は彼女のブログからも体感できる。『ホワイト・オン・ライス』に冒頭の登場する劇中劇(間違った時代劇)にも彼女の書が使用され、激烈な字体で「待ち伏せ ambush」と現れたときには、思わずタランティーノ劇場がはじまったかのようなこそばゆさ&高揚感が全身を貫いた。爆笑。これは監督の狙いどおりでしょう。

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