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2010/03/30

息もできない

問題。ゴダールが1959年に発表した『勝手にしやがれ』の英語タイトルは?
答えは本作と同じ"Breathless"。
Breathless02_2
そのタイトルに誇張はいっさいない。まさに2時間の暴力、愛情、笑い、激情の波状攻撃。そのすべてが容赦なく相俟って、ほんとうに息ができなくなる。感情を解さない獣のように生きる暴力まみれの借金取りサンフンと、彼に臆することなく向かってくる高校生ヨニ。暴力で幕をあける本作は、ふたりの主人公の出逢いさえも鉄拳制裁で、片方が仕掛ければもう片方も黙ってはいない。彼らはそうやって感情を剥き出しにしてぶつかりあうことで何か新しい関係性が芽生えゆくのを感じる。それはギリギリのバックグラウンドを生きるふたりにとって束の間の休息地のよう。

本作にとって暴力とは、会話であり相槌である。バシッとかドスッという音が聞こえないシーンはないほど。でもそうやって、いったんあらゆる感情を締め出して原始的な世界へ回帰することで、あらためてゼロから紡がれゆく愛情とも友情とも取れぬ赤裸々な感情の息吹が純粋に胸に沁みわたる。それらはまるで、人間がはじめて覚えた言葉を口にするかのように不器用で、不細工だ。しかし神々しい。Breathless01_3

聴くところによると、監督・主演を務めたヤン・イクチュンは、家族に借金し自宅を売り払ってまでこの映画の製作資金を捻出したという。しかも現場ではリハーサルなしの本番一回きり。俳優やスタッフに強いられた緊張感は計り知れない。そうしたビジネスの域を越えた生々しさ。この男の生態系(寝て、食べて、吐き出して、息をする)の一部とも言うべき映画の獰猛さ、なりふりの構わなさに、僕らは掛け値なしで翻弄され、魅せられるのだろう。

試写のときに隣の席に座っていた中年男性がえぐえぐ言いながら嗚咽したいのを必死にこらえる姿を思い出した。彼も明らかに息ができない状態に陥っており、その状況もふくめて明らかに会場全体が映画の一部と化していた。いまの日本映画にここまで突き抜けたストーリーが描けるだろうか。描くべきストーリーを見いだせるだろうか。あるいはその勇気を持ち合わせているだろうか。それに見合う作品と言えば、最近だと『愛のむきだし』『イエローキッド』くらいしか思い出せない。

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