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2010/04/09

第9地区

■そういえば、学生時代の授業で担当教授が語っていたのを思い出した。ケープタウンには第6地区というものがあり、アパルトヘイト時代、そこに住んでいた人々は強制的に移住させられてしまった、と。

■映画『第9地区』の舞台はアフリカ、ヨハネスブルク。突如、市民の上空に飛来し、そのまま立ち往生してしまった巨大宇宙船から、おびただしい数の“招かれざる客”たちが救助され、そのままタイトルが示す特別区に居座ってしまう。それから30年余り、当地はすっかり犯罪と暴力にまみれたスラム街と化し、当局はエイリアンの強制移住に乗り出すのだが。。。

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■本作が「6」の記憶を遺伝子として持ち合わせているのは当然だが、同じアフリカ生まれのニール・ブロムカンプ監督は決してそれを直接的に示唆することはない。製作陣もそろって「アパルトヘイトについて語りたいのではない」と言う。なるほど彼らが目指す先は純然たるエンターテインメント。しかし、そうやってあえて触れないからこそ、「宇宙人と人間」というファンタジックな関係性は返ってテーマの抽象度を高め、どこの国においてもあてはまる、普遍的"exile"な物語となりえている。ストーリー的に『アバター』を想起するひとも多いだろう。片方は遠い惑星にその舞台を置き(ファンタジー)、もう片方はこの地上での真っ向対決を挑んだ(リアリズム)といった様相だ。

■ピーター・ジャクソン率いるVFX工房WETAが手掛ける、製作費3000万ドル級の低予算にしては驚くべき精緻さと大胆さを兼ね備えた特殊効果も“異様なる背景”として機能する。ジャクソンにおいては、自身の監督作『ラブリー・ボーン』があまり振るわなかったのに、製作を務めた本作は絶大なる支持を受けたのだから、非常に微妙な心境であることは察してあまりある。

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■とかく本作がアカデミー賞作品賞候補にまでのし上がった成功の理由は、「観なければ始まらない」ことにある。ドキュメンタリーの手法を貫きながらも、同時にエンタテインメントでもある。社会派でありながらSF、アクションでありながらヒューマンドラマ。あらゆる場面に2つ以上のジャンルが融合し、手っ取り早く「一言で」本作を断定すると、もう片方の意味がすっぽり抜け落ちてしまう。それくらい語り口が新しい。

■その意味でも、僕がいま手にしている宣伝チラシの「『インディペンデンス・デイ』であり、『ブレード・ランナー』であり、『シティ・オブ・ゴッド』でもあり、『E.T.』」という文言は、かなり的確に本作を言い得ている。何より『シティ・オブ・ゴッド』が入っているのがいい。

■あと、ロボット・アニメの定番ともいえる「ロボ、膝からガクリと地に落ち、コックピットがガバッと外れる」という描写がなんとも忠実に映像化されているのも嬉しい限り。世の男子諸君の体感バロメーターはこの瞬間に沸点に達するのではないだろうか。

■ただし、僕が試写した時の体験談を加えておくと、上映中、高年のご夫婦が「もう観てられない」とばかりに席を立った。ちょうどそこはかなりグロテスクなシーンでもあった。本作はそういうバイオレンス描写にも手を抜かない。エイリアンの特殊造型にしてもわざと観客の不快感を煽るデザインとなっている。これはこれでリアリズムに徹する意味合いがあるのだが、そういうのが苦手な方々はくれぐれもご注意を。

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