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2010/04/30

あの続編映画のこと

タイトルはもう忘れた(ことにしておく)。
シリーズ物としての既定路線も定まらぬうちから、場外へ大ジャンプしてしまった印象。観客も呆気に取られ、ついていく者、脱落する者、怒りだす者のそれぞれに分かれるだろう。この一色触発の予定不調和ぶりこそ奇才と呼ばれるに足る監督×脚本家の化学変化のありかたなのだろうが、それにしてはこの混沌という重い扉が歯車をカチッと合わせて気持ちよく押し開かれる瞬間は訪れず、我々はこの映画にことごとく裏切られ続けることになる。白黒つけるのがこの映画のテーマだが、ここでは自分の意見に白黒つけることなく、ただこっそり闇に葬り去ろうと思う。

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2010/04/29

「ニューヨーク・チルドレン」(BOOK)

2週間くらい格闘していた。女流作家クレア・メスードが2006年に著し、翻訳本は既に絶版になっている「ニューヨーク・チルドレン」(原題"The Emperor's Children")をようやく読了。
Children_2巻末のあとがきには「ロン・ハワード監督、ノア・バウムバック脚本で映画化が決定している」と記してあったが、最新情報によると、ロン・ハワードは製作へと退き、監督&脚本ともにバウムバックが手掛ける。『イカとクジラ』、「マーゴット・ウェディング」(未)、そして最新作"Greenberg"も好評なこの俊英監督だが、両親がジャーナリストという特殊な環境で育った経歴もあり、まさに彼にとって勝負の一作となることは間違いない。

作品は群像劇の形態をとる。かつて同じ大学で学んだ3人の親友男女(高名なジャーナリストを父に持つマリーナ、TV局ディレクターのダニエール、同性愛者のジュリアス)が、10年後の30歳になった時分でもなんとか友情を保ちつつ、それぞれのニューヨーク・ライフを送っていく。時代背景となるのは00年から01年にかけて。その間、オーストラリアからは野心に満ちた編集者シーリーが「革命を起こす」と言ってこの地に乗り込み、また南部の片田舎からは大学教育に失望した青年ブーティが新たな展望を夢見て、やはりこの地にやってくる。彼らは皆それぞれに人生の多感な時期を送り、裏切り、裏切られ、友情も愛情もほんのわずかなバランスのもとで崩壊寸前になりながら毎日をやり過ごしていく。そして、忘れもしないあの運命の瞬間が、この街に訪れる。。。

ハードカバーは600ページからなり、かなりの重厚感がある。皆がジャーナリスト(あるいは志望)なだけに、ストーリーは常に社会に対し歯に衣着せぬ目線でサバサバと展開するが、ラストの100ページでその文体は急激に湿度を帯びる。タイムリミットと共に弾け飛んだタガがすべての関係性をリセットするかのように、それぞれの胸中に変化と贖罪と絶望をもたらしていく。

ああ、これは映画でもきっと壮大な人間ドラマになるだろう。これまで人間が抱えた悶々たる想いをコミカルに紡いできたバウムバックだが、果たしてこのクライマックスの悲劇でいかに状況を揺さぶれるか。楽しみでもあり、不安でもある。彼にその覚悟がほんとうにあるのか。。。?

ちなみに現在までに候補に挙がっているキャストは、キーラ・ナイトレー(マリーナ)、リチャード・ギア(マレーナの父)、エリック・バナ(シーリー)。そしてミシェル・ウィリアムズがダニエール役に立候補しているという噂もあり、今後の進展が気になるところだ。

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2010/04/28

『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』

昨夏、念願叶ってアムステルダムを訪れた。
ゴッホ美術館にほど近い、懸案の国立美術館は。。。

やっぱり工事中だった。

Rijksmuseum_2『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』2010年8月公開より

04年の改装工事開始以来、ずーっと終わらない。この先、少なくとも2013年頃まで完成しないようだ。

なぜそんなに工事が長引いているのか?何が長引かせているのか?その裏側に密着して迫ったのがこのドキュメンタリー『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』だ。上の画像は作品のキーアートでもあるのだが、ご覧の通り、レンブラントの傑作「夜警」の面前で、美術館スタッフまでもが絶妙なる人物配置を成している。この二重構造、まさに時空の迷宮にでも入りこんだかのよう。

美術館側が提示した改装計画に対し、まずサイクリスト協会が噛みついた。なんで!?とお思いだろうが、実はこの美術館、アムステルダム南区へ抜けるための交通路をまたぐ門としても機能している。今回の改築設計ではその要所の真ん中にエントランスを設けようとしており、「そうすると通行スペースが狭くなるじゃん!」と自転車野郎たちが黙っていなかったのだ。

Rijksmuseum_amsterdam_3   
ちなみにオランダではどこの道でも自転車用の通行スペースが確保されている。歩行者がそこをウロウロしようものなら思いっきり「チリン!チリン!」とやられ、旅行者としてはすごく落ち込むことになる。つまりはサイクリストが束になれば、それほどまでの発言権を行使できるのだ。

問題はこれだけではない。他にも地区委員会、教育文化科学省らも黙っていない。スタッフ内部でも意見が分かれる。学芸員の斬新な発案に誰かが食いつき、ようやく軌道に乗ったかと思うと入札価格をめぐってまたひと騒動。スタッフがこう漏らす。「柱をたった一本動かすだけでも誰かが文句を言いだすんだ」。 そんなこんなで彼らはすっかり立ち往生してしまったというワケ。

果たしてこれはオランダ人の国民性なのか?それともリーダーシップの欠如?民主主義の弊害?意志決定プロセスの欠陥?答えはそのすべてであり、あるいは未だに工事中の美術館自身がその答えを赤裸々に体現しているとも言える。

あ、そうだ、もうひとつ印象的なセリフがあった。

「皆が思い思いに口を出し、結局は妥協の産物になってしまった」

この、当初の熱い想いがどんどん体温を失っていく感じ。組織に属する人ならば、誰もが一度は体感したことがある心境なのではないだろうか。本作を目の当たりにしながら、だんだんと他人事とは思えなくなる自分がいた。遠い国の難題として簡単に割り切れないもどかしさが、いつまでも体内に残りつづけた。

試写が終わったのが23時。悶々とした気持ちを抱えながら自宅へ戻り、さっそくアムステルダム国立美術館の公式サイトを開いてみる。すると・・・

Meisjehardhat
ハ、ハーイ・・・!
ヨハネス・コルネリス・フェルスプロンク作の「青い服の娘」が、いまではすっかり黄色い衣装に身を包み、せっせと労働中だった。姉さん、おつかれさまです!

 
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2010/04/27

ヒックとドラゴン

北米の週末興業成績ランキングにて1位へ再浮上を果たした"How to Train Your Dragon"。日本では『ヒックとドラゴン』という邦題で8月に公開となる。
Howtotrainyourdragon_2 
猫も杓子も3Dという時代が訪れているが、実はこの『ヒックとドラゴン』について言えば、オープニング成績はあまり芳しいものではなかった。たしかに鳴りもの入りで封切られた『アバター』やティム・バートン&ジョニー・デップの知名度が光る『アリス・イン・ワンダーランド』、それに血沸き肉踊る『タイタンの戦い』などに比べると、『ドラゴン』の第一印象には熱狂性の薄さがある。少なくとも3Dに“リアルなもの”を求める大人たちは、3等身のキャラクターたちが駆け回る3Dアニメという形態に時代の逆行感を抱いてしまうかもしれない。

この抵抗感はあくまで推測の域を出ない。しかし実際問題として、本作のオープニング興収を受けてドリームワークス・アニメーションの株価は8%下落した。ほんの一瞬ではあったが、市場は緊張し、3D映画の未来に影を投げかけた。。。

が、結論から言うと、『ヒックとドラゴン』は素晴らしい作品だった。試写しながらずっと「そうそう!この感じ!」と心の中で叫び続けていた。『アバター』以来すっかり忘れかけていた3Dの陶酔感をようやく取り戻せたような気がしたのだった。もっと言うと、ドラゴンにまたがって空を駆け回るシークエンスで思わず感極まって泣きそうになった。急降下する風圧が3Dメガネ越しにビュンビュンと吹きつけてくるかのようで、バーチャルな息苦しさすら覚えた。

Howtotrainyourdragon_5
自分たちの生活を守るために日々ドラゴンと闘わざるを得ないバイキングたち。その最大の勇者とも言える父の背中を仰いで育ちながらも、その能力が発揮できない青年ヒック。村人からも「あいつはダメなやつだ」と笑われる。そんなある日、彼は、翼を痛めた「謎のドラゴン」に遭遇する。ヒックが変わり者であるように、そのドラゴンも他とはちょっと変わっているようだった。変わり者のふたりは次第に心を通い合わせる。そしていつしか、ふたりは大空を駆けまわる友人となっていた。。。

ドラゴンは一言も言葉を発しない。その表情や仕草で感情を伝える。その表現力の豊かさ。さすが『リロ&ステッチ』の監督が手掛けただけある。そして圧倒的にアクロバティックなクライマックスを経て、エンディングに流れるのは、あの聞きなれた歌声。これは・・・アイスランドのバンド“シガーロス”のボーカル、ヨンシーじゃないですか!北欧つながりとはいえ、このドラゴンの疾走感と彼の歌声は神秘的なまでに相性が良く、またも心の中の陶酔が立体的に膨張していくのを感じた。
 
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『マン・オン・ワイヤー』より

Manonwire_2You have to exercise rebellion. To refuse to tape yourself to the rules, to refuse your own success, to refuse to repeat yourself, to see every day, every year, every idea as a true challenge. Then you will live your life on the tightrope.

反骨精神を持たなくちゃ。規則に縛られるのを阻み、社会的地位を阻み、同じことの繰り返しではなく、毎日、毎年、あらゆるアイディアを真の挑戦として受け止める。そうすることで、人生は綱渡りになる。

フィリップ・プティ

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2010/04/26

全米ボックスオフィスApr.23-25

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Apr.23-25 weekend 推計

01 How to Train Your Dragon (↑)
02 The Back-Up Plan
(-)
03 Date Night (→)
04 The Losers(-)
05 Kick-Ass (↓)
06 Clash of the Titans (↓)
07 Death at a Funeral  (↓)
08 Oceans (-)
09 The Last Song (↓)
10 Alice in Wonderland (↓)

■今回の興収ランキングは元気がない。ハリウッドにおける年間最低レベルの盛り下がり。逆に『アバター』DVD&ブルーレイは元気だ。さきほど入ってきた速報によると、北米での売り上げ枚数は4日間で670万枚に昇り、そのうち270万枚がブルーレイ、400万枚がDVDとのこと。総売り上げは1億3000万ドルに達し、これを単純に割り算すると1枚20ドル以下で購入していることになる。さすが日本と違って安いですね。ちなみに『アバター』の北米における19週目の劇場興収を押さえておくと、週末3日間で95万ドル。累計では7億4640万ドルほどに達している。

■先週、興業収入の「推計(現地時間の日曜日に発表」では1位と発表されながらも、その後の「確定(月曜日に発表)」で大逆転された『ヒックとドラゴン』。翼を痛めても何度も舞いあがろうとする映画そのままに、5週目にして意地を見せて2度目の首位を奪取。推計興収は1500万ドルで、国内累計は製作費の1億6500万ドルをちょっと越えた1億7800万ドル。筆者も先週行われた完成披露にて拝見しましたが、これが素晴らしかった。。。『アバター』以来、忘れかけていたあの陶酔感をようやく想いだせました。おそらく、本作がランキング上位に留まりつづけるのはある程度のリピーターに支えられているからではないでしょうか。

■2位にはジェニファー・ロペス主演のロマ・コメ"The Back-Up Plan"。推計興収は1225万ドル。3位にはこれまた"Date Night"が1060万ドルを売り上げて先週と同位置に踏みとどまった。累計では製作費の5500万ドルを上回り、6347万ドルに達している。4位はコミック原作、ハミ出し者揃いの凄腕チーム・アクション映画"The Losers"。"Kick-Ass"は5位へランクダウン。累計を3500万ドルとし、これまた製作費の3000万ドルを少し上回った程度。ちなみに監督のマシュー・ヴォーンは製作費の一部を自費で負担している。これで破産することはなくなったか。

■いよいよ日本でも封切られた『タイタンの戦い』(4週目)の累計は1億4560万ドル、8週目のアリス・イン・ワンダーランド』は3億2740万ドルとなった。

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2010/04/25

ヒットマンズ・レクイエム"In Bruges"

ベルギーにお立ち寄りの際はぜひ足をお運びください。ブルージュへ。

Inbrugesr_2
世界に名高い劇作家マーティン・マクドナーが映画界に進出するのは時間の問題だった。「ピローマン」「ウィートーマス」などで観客に衝撃と動揺を与えてきた彼。その舞台世界を一度でも体感すると「これが映像ならばどう表現されるだろう?」と想像の翼を広げずにはいられなくなる。

Mcdonagh_2

しかしここまで待ち望まれて、なおかつ世界中で絶賛された映画"In Bruges"が、まさか日本で未公開の憂き目を見るとは思わなかった。本作は『ヒットマンズ・レクイエム』という邦題でレンタルDVDのみ取り扱われているようだ。

主人公は歳の離れた二人の殺し屋レイとケン。ロンドンでひと仕事終えたばかりの彼らは、使った拳銃をテムズ河へ捨て、いまやボスの命令で中世から続く美しい水の都ブルージュに身を潜めている。 旅行者のごとく観光スポットめぐりを楽しむケンとは対照的に、レイはどうも心が落ち付かない。夜になると薄暗い灯りの中、霧が立ち込め、ブルージュの街並みはひときわ幻想性を増す。さらには街角からは映画撮影中のドワーフ(小人)までもが現れる始末(ほとんど夢の世界のようだ)。アルコール、美しい女性との出逢い、ドラッグ、小人の戯言。そこに突如ボスからの非情な電話がもたらされる。それは先の仕事でしくじったレイを殺せ、という指令だった・・・。

Inbruges2_3

ジャンルとしては「コメディ」に分類されることが多い。一昨年のゴールデングローブではこのカテゴリーにてコリン・ファレルが主演男優賞を受賞。しかし実際にはジャンルを大きくはみ出す異色作だ。マクドナーらしい血なまぐささを盛り込みながらも、絶体絶命に陥った各々のやるせない表情には思わず笑いがこぼれ、それでいて人生の悲哀すら感じさせる作り。コリン・ファレルも太眉をつり下げて、情けない表情を絶やさない。

特にこの十数世紀も荘厳な光と闇を讃えてきたブルージュの街並みはまるで一つの舞台装置のようでもあり、あの世とこの世の境目でさまよう登場人物たちの魂を、溜息に揺れる蝋燭の炎のごとく、意味ありげにひっそりと祝福してくれる。はたして彼らにとってブルージュは、人生の終着地となるのか、それとも新たな出発地となりうるのか。すべての答えは、壁際にたたずむガーゴイルのみぞ知る。

出演者&監督がアイルランド、北アイルランド、それにイングランドと何やら独立運動の血なまぐささを彷彿とさせるような配置になっているのも気になる。直接的には触れていないが、記号レベルで何らかの意図があったと考えても不思議ではない。

ちなみに、本作には『ハリー・ポッター』俳優が4人出演している。ヴォルデモード役のレイフ・ファインズは当然として、マッドアイ・ムーディ役のブレンダン・グリーソン、フラー・デラクール役のクレメンス・ポージー、そしてキアラン・ハインズ。キアランは最終作で初登場となる重要人物を演じるが、それが何者であるかはネタばれになるのでここでは明かさない。

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「ウィ―・トーマス」の原題は「イニッシュモアの兵士」。どちらも英語版です。

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2010/04/24

ボーダー

これは映画界にとって事件だ、・・・少なくとも、そうなるはずだった。
Righteouskill_2

デ・ニーロとパチーノの共演といえば、想いだされるのは『ゴッドファーザーpart2』。しかし正確にはふたりの登場人物の生きた時代は異なっていて、同一のシーンでの共演は皆無だった。つづく『ヒート』ではギャングVS刑事の文字通りの火花散る対決となったが、これもまた対決モノの宿命として両者が同じフレームの中に収まる瞬間はなかなか訪れず、ようやく夢叶うのはわずか1シーンのみ。それも切り返しのショットが多く、実質的にふたりが向き合う時間はほんの僅かだった。

Heat_2 これは『ヒート』のワンショット。銃撃戦にも増して、「待ってました!」とファンを熱狂させるシーンでした。

配給会社の倒産などで先行きが危ぶまれた"Righteous Kill"は結局、邦題を『ボーダー』として公開されることになった。デニーロ&パチーノがベテラン刑事役として揃い踏み。もちろん今度は二人も最初から同じフレームに並んで収まっている。

クレジット的にはデ・ニーロが先だった。物語の主軸を担うのも彼。勤続30年、悪を追い続けた彼が連続殺人事件の犯行を自供する映像と共に進んでいく。被害者はみな法の裁きを逃れた悪人ばかり。まさにタイトル通りの「正義の殺人」とでも主張するかのように、現場には常に韻を踏んだ犯行声明カードが残されていた・・・。

『インサイド・マン』で注目されたラッセル・ガーウィッツが脚本を手掛けており、前作を彷彿とさせるプロットの仕掛けに唸らされる。が、本作を味付けしたジョン・アヴネット監督の演出が、ダークな作風をダークなままに押し殺し、映画としてのカタルシスを薄めてしまっているのが残念でならない。逆に言うと、アヴネットが主演のふたりを意のままに操れなかった、ということなのかも。

ただ、クライマックスにかけて、なぜか刑事モノと言うよりもパチーノがこだわりを見せるシェイクスピア劇のような様相を垣間見せるのに笑ってしまった。多分、きっと、みんなパチーノに気を使ったな。「ラストに良いシーンが用意してあるんです!あなたにピッタリのシーンが!」って口説き落としたな。。。

映画としてのクオリティうんぬんよりも、この奇跡的瞬間を映画史的にどう位置付けるか。あるいは、稀代の名優といえども演技をしてお金を稼がねばならない、だってそれがビジネスですから、的な割り切り型として受けとめるか。まあ、いずれに転んだとしても、すっかりオジイチャン化したふたりの小ジワが可愛らしくもある作品でした。若手刑事を演じるジョン・レグイザモ&ドニー・ウォルバーグ(マーク・ウォルバーグの兄)が、御大を間近で仰ぎ見ながら(気を使いながら)演技している様も、ちょっと微笑ましい。

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2010/04/22

プレシャス

今年のアカデミー賞で助演女優賞と脚色賞を受賞した『プレシャス』。それはハードな境遇から力強く立ち上がろうとする主人公の名前でもある。Precious_3サンドラ・ブロックが主演女優賞オスカーを受賞した『しあわせの隠れ場所』は人種や宗教や政治理念を越えて“手を差し伸べること”の尊さを訴えたが、『プレシャス』は黒人社会の中で自らの意志で“這い上がること”の重要性を発信する。とりわけ黒人映画の祭典"Black Reel Awards"で最優秀作品賞に選ばれたこと、そして独立系映画の祭典"Independent Spirit Award"で最優秀作品賞を受賞したことは、本作が裏オスカーとも言うべきこの国の文化的地位を築き得たことを示している。

よく黒人の色の度合いはチョコレートに例えられる。ハル・ベリーやビヨンセなどはまだ薄めのブラックだが(それゆえ白人層のウケもいいということも言われる。哀しいことだが)、一方『プレシャス』の主演ガボレイ・シドベはビター・チョコレート。作品自体もかなり黒人社会のディープな部分に踏み込んだ内容だ。

主人公は巨漢の少女。今現在、彼女の胎内には父親の子が宿っている。それは幾たびにもわたる性的虐待による結果だった。彼女は読み書きができない。学校の授業にもついていけない。父親はとうに自宅から消え失せた。代わりに鬼のような母親が居座っている。一日中何もしない母親。給付金をむしり取って気のままに生きている。そして、ある日、プレシャスはフリースクールの存在を知る。何かが変わることを期待して踏み込んだその場所で、仲間を得て、先生を得て、彼女は少しずつ変わっていく・・・。

こうして文字に起こすと気の滅入るような内容だが、リー・ダニエルズの描く映像は極めてシャープ。決して不快感を伴わず、停滞せずに澱みなく流れる。一日中カーテンを閉め切った部屋は真っ暗闇ではなく、逆に陽光がろ過された黄金色のようにも映る。その映像の一端を担うプレシャスの脳内逃避(妄想癖)も、彼女が地に足をつけて這い上がっていくに連れその影を薄めていく。

カメオ出演のマライア・キャリーとレニ-・クラヴィッツも脇役とはいえ絶妙な存在感で華を添える。こんな役を引き受けるとは何とも心憎い。マライアに関してはもはや彼女かどうかさえ気がつかないほどだ。『プレシャス』はかくも素晴らしい才能が幾重にも合わさって、ビター・チョコレートの境界線を魔法のように消し去っていく。オプラ・ウィンフリー&タイラー・ペリーという強力布陣が製作を担っているのも本作の存在感を広める原動力となっている。

そして極めつけなのがこの人。

Monique_2
鬼、悪魔、モニーク様。プレシャスの母親役として、助演女優賞オスカーをはじめ、賞レースでおびただしい数の栄冠に輝いた。その勝因を一言で述べると「とにかく妥協がない」のである。立ち上がろうとする主人公の背中にのしかかり、這い上がろうとする足にしがみつく。彼女がいるだけで重力5倍。酸素も薄まる。まさに主人公に憑りついた悪魔のような存在。この傍若無人さには観客もかなり苦しめられるが、でもどうだろう、次第に「これはすごい」と驚嘆のほうが増してくるのではないか。悪が強いと他が団結する。主人公と観客との共感力が強まるのも、ひとえにモニーク様のお陰と言っていい。

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『プレシャス』の原題は少々長くて、"Precious: Based on the Novel "Push" by Sapphire"。つまり、サファイアによる原作"Push"の映画化なんだよ、ということを注意書きのごとく入れざるをえないほど、この原作は黒人文化の中で影響力を持った作品と言える。ちなみに、Black Reel Awardsの昨年の受賞作は『キャデラック・レコード』、その前年は『ドリーム・ガールズ』でした。

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2010/04/21

アウトレイジ

ここ数年、作り手としての生みの苦しみをそのまま体現するかのような異形の作品を手掛けてきた北野武。TVではあんなに人気者なのに、映画となると観客の好き嫌いがはっきりと分かれてしまう。「おれの映画は客がはいんなくて困っちゃうんだ」とはよく聞かれる彼の弁だが、さて、カンヌのコンペティションにも出品の決まった『アウトレイジ』は彼にとって久々のヤクザもの。さきほど海外のサイトをチェックしてみたが、"Yakuza"という言葉がそのまま使われ、「キタノがホームグラウンドに帰ってきた」的な紹介が大半を占めている。

冒頭、おびただしい数の黒塗り自動車&強面の男たちが横一線に並ぶ様が映しだされる。まるで兵士だ。守るべきもののためなら平気で命さえ差し出す兵士たち。彼らの代表選手でもあるかのように、有名俳優たちが横一線に揃い踏みする。はたしてこの映画が幕を下ろす頃、この中の何人が生き残っているだろうか。。。

バトルロワイヤルは、子弟暴力団の親分のひとことで開始を告げる。

「お前のシマでヤツラになめられてるんじゃねえのか?」
「はあ、すみません・・・」

この案件への対応をめぐり、ヤクザ社会の下請けの下請けへと仕事が回ってくる。ひとことで言えば「手っ取り早くケンカをおっぱじめろ」ということなのだが、互いのメンツやプライドもあるので、相手の出方の裏の裏を読んで、自分の立ち位置を決めなければならない。なんともまどろっこしい不条理感が漂う(いかにもベケットの国、フランス人が好きそうな題材だ)なか、事はわらしべ長者的にどんどんスケールを増していく。しかもヤクザ社会の兵隊となると、犠牲も多い。覚悟を決めて向かってくる者、逃げ出す者、最後まで平然と佇む者、ほくそ笑む人々。腕っぷしの強さや度胸など何の役にも立たない。

北野作品としてなにか革命的なことに取り組んでいるわけでもない。どのシーンにもハイライトと言うべき感情のうねる場所はなく、しかし逆にいえば、どこのシーンも均等に緊張感が割り振られ、その同じ歩幅で整然とした語り口が不気味でさえある。おびただしい数のキャラクターの誰もがこの映画の部品として機能し、誰がメインを掻っさらうわけでもなく(ビートたけし自身も、本作ではひとつの部品にしか過ぎない)、この戦いで生き残る可能性は、まさに神のみぞ知る。その意味では「誰が生き残るか分からない」=「ふところの伺い知れない」キャスティングは注目に値する。こんなタヌキ俳優たちをよく集めたものだ。

また、そのときの状況により自在に変化していくと言われる北野組の撮影現場(「おれ、どんどん変えちゃうからさ」という発言をこれまで何度聞いただろう)において、これまた映画の中では一部品にしか過ぎない加瀬亮の存在感を監督自身が面白がり、いくつか出番が増えた、という話も伝え聞く。ガス・ヴァン・サントの新作にも出演する加瀬。『アウトレイジ』では澱みのない英語を操る希少なインテリ極道を演じる。あと、個人的には元ジョビ・ジョバの坂田聡が前半部で面白い役どころを演じている。中堅俳優としては異例のカット抜きの多さから、彼に関しても北野監督が現場で「おもしろいな」と感じたであろうことは想像に難くない。

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「全思考」は北野武の“死や生”そして“映画”についての考え方が熱くもなく冷たくもなく、適温で綴られていて、ああこの人、こんなこと考えて生きてるのか。。。と唸らされる一冊です。随所に挟まれる北野武御用達の料理屋主人の告白録がまた味がある。世界中からやってくるキタニストへの北野流もてなし方や、気がつくと汚れたトイレをゴシゴシ掃除してたりする彼の奇妙で誠実な人柄に、TVや映画とは違ったまた別の一面が見えてきます。

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2010/04/20

全米ボックスオフィスApr.16 -18

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Apr.16-18 weekend 確定

01 How to Train Your Dragon? Kick-Ass (-)
02 Kick-Ass
How to Train Your Dragon (↑)
03 Date Night (↓)
04 Death at a Funeral (-)
05 Clash of the Titans (↓)
06 The Last Song (↓)
07 Tyler Perry's Why Did I Get Married Too? (↓)
08 Hot Tub Time Machine Alice in Wonderland (↓)
09 Alice in Wonderland Hot Tub Time Machine (↓)
10 The Bounty Hunter (↓)

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2010/04/17

アリス・イン・ワンダーランド

あのティム・バートン世界が、おとな向けの暗黒度をちょっと薄めて帰ってきた。けれどこの「薄めて」というのはあくまで映画のレイティングを垣根低くするためのものであって、実際には彼の持ち味は強烈に押し出され、なおかつ、それらはこどもたちへのメッセージともなって温かく胸に迫る。

Aliceinwonderland_2
日本公開となる本日までに、全米興収3億2050万ドル(世界興収7億8500万ドル)ほどを売り上げている本作。製作費はティム・バートン監督にとって過去最大となる2億ドル。『チャーリーとチョコレート工場』の1億5000万ドルと比べても、抜きんでた企画であることが分かる。

おそらくこれが『アバター』以来の3D体験という方も多いのではないか。詳しいレビューは拙ブログの過去記事をご覧いただくとして、とりあえず観賞前に知っておきたいのは、3Dカメラによって撮影された『アバター』とは違い、『アリス』はまず2Dで撮影され、それを後から3Dへと変換したものだということ。なので同等のレベルを期待してはいけない。なお、ティム・バートンは「3D変換のことを考えて、撮影はきちんと測って行った」そうで、決して行き当たりばったりの3D製作ではないことを協調している。

今後、様々な形態の3D作品が世に出回ってくるが、さてあなたはこの『アリス』の3D、どう評価する?

対して『アバター』に足りなかったストーリー性はどうか、というと、これがルイス・キャロルの世界を知っていればいるほど面白い。「ああ、こんなキャラがいたな」という感動よりも、ジョニー・デップasマッド・ハッターに代表されるみたいに、「あのキャラをよくぞこんなに膨らませた」との驚きのほうが大きい。そしてバートンはそれらの要素をちゃんと自分の作品系列へと引水し、自分のこどもたちに語り聞かせるみたいに温かく、力強く提示する。

Madhatter ジョン・テニエル作画によるマッド・ハッター。

個人的なことを打ち明けると、この映画の中でのアリスは、我が家の95歳になるおばあちゃんとまったく同じセリフを口にした。それに対する家族のことばもほとんど同じもので、それが本作では巡り巡って拡がっていく。ティム・バートンではお馴染みのテイストとはいえ、僕はこのシークエンスにふいを突かれ、面食らってしまった。そして作り手としての彼がどうしてここまで力強くも肯定的な映画を作れるようになったのか、それはやはり彼がいま孤独ではなく、愛する家族と共にあることの現れなのかな、とも感じた。

そして、確信は持てないまでも、マッド・ハッターのキャラ造型に昨年急逝したあの人物へのリスペクトを感じてしまうのは僕だけではないはずだ。

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2010/04/16

カンヌ映画祭ラインナップ発表

Cannes_2■5月12~23日に開催される第63回カンヌ国際映画祭のラインナップが発表された。下記に全作品を掲載するが、まずは時間がない方のためにチェックしておきたいポイントをいくつか挙げておきたい。

■オープニング作品はリドリー・スコット監督作『ロビン・フッド』。こちらは賞などには絡まない。同監督のカンヌ参戦は3度目。77年に『デュエリスト』で新人監督作品賞を受賞し、91年には『テルマ&ルイーズ』がアウト・オブ・コンペにエントリー。

■映画祭の対応をめぐってゴタゴタも起きている。主催者側が開催期間中のレッドカーペット&記者会見のビデオ取材を禁止した(これは独占契約を交わしている放送局への配慮なのだが)ことに抗議して、AP、ロイターをはじめとする有名通信社がこの日のラインナップ会見への出席をボイコット。さきほどサイトをチェックしたが、この日の会見内容は一切報じていない。主催者側は「映画祭の開始までにはボイコットが解かれるよう、問題解決に取り組んでいきたい」としている。

■コンペティション部門には13カ国から16作品が勢ぞろい。日本人からは北野武の最新作『アウトレイジ』が参戦。マイク・リー、アッバス・キアロスタミ、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、イ・チャンドンら巨匠陣としのぎを削る。またフランスからは俳優のマチュー・アマルリックが監督作を引っ提げて参戦。『ボーン・アイデンティティ』のダグ・リーマンもコンペで新作を披露する。開催間近になってケン・ローチの新作"Route Irish"もエントリー。

■『アウトレイジ』のレビューはこちらから。

■『リング』の中田秀夫がイギリスせ製作した"Chatroom"が「ある視点」部門にエントリーされている。同部門にはジャン=リュック・ゴダールや、102歳になるマノエル・ド・オリヴェイラの新作も。

■コンペ入り確実視されていた“伝説の巨匠”テレンス・マリックの"Tree of Life"(ブラッド・ピット、ショーン・ペンらが出演)はまだ完成に至っていない模様。もしも間に合えば、追加発表としてエントリーされる可能性あり。主催者側も製作サイドをそれを望んでいる印象。

■審査委員はティム・バートンを筆頭に、ベニチオ・デル・トロ、ケイト・ベッキンセール、ビクトル・エリセ、シャクール・カプール、他。なお、フランス政府と映画祭は、イランで収監中のジャファール・パナヒ監督の釈放を訴える意味をこめて、開催期間中も彼の審査委員への着任を待ち続ける旨を発表している。

続きを読む "カンヌ映画祭ラインナップ発表"

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2010/04/15

オーケストラ!

冒頭から驚いた。フランス映画だと聞いていたのに、響いてくるのはロシア語じゃないか・・・?僕はどう間違ってロシア映画を観に来てしまたんだろう。。。

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いや、フランス映画で正しかったのだ。前半の舞台がロシアなだけ。ソ連時代に天才指揮者として名を誇ったアンドレイは、とある事件をきっかけにその座から引きずり降ろされ、いまや劇場の清掃人となっていた。今日も大ホールのリハーサル風景を遠くから臨み、あの頃を思い出して手を左右に漂わせる。

そんな彼に千載一遇のチャンスが到来。たまたま清掃中だった部屋のFAXが一枚の文書を吐き出したのだ。それは劇場専属オーケストラへの出演依頼。それも公演地はフランス・パリ。アンドレイはすぐさまその文書を持って逃走し、かつての仲間たちを前に驚きの構想をぶち上げる。「もうこんな生活は耐えられない。俺たちで楽団をつくり、乗り込もう!」

かくしてアンドレイの挑戦は、散り散りになったかつての楽団員ひとりひとりの消息を尋ねるところから始まる。いまや様々な職に就いて何とか生き延びている彼ら。タクシー運転手や党の幹部、ユダヤ系の商人、ポルノ映画の音響担当までいる。ほかにも資金集めにギャングや企業家などを引き込み、寄せ集めオーケストラは瞬く間に個性であふれかえる。この展開、どこかで見覚えがあるなと、ふと思い至ったのが、『七人の侍』だった。ジャンルは全く違うが、負け組の逆襲といい、仲間集めといい、骨格となる部分は大いに共通する。ひとつ違うのは彼らは刀でなく楽器で、ハートで聴衆をぶった切るところか。

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まあ、そんなこんなで、ようやく後半、パリへ!ここでもいろいろと問題がてんこ盛りで、楽団員があまりにむちゃくちゃなので、さきほどの『七人の侍』的な惹きの良さも薄れてしまうのだが(いや、それでこそのオリジナリティなのだ)、ここで登場する重要人物こそ、ソロ・バイオリン奏者アンヌ=マリー。

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いつも映画を観る前は資料を読まないので、「どこかで観た覚えが・・・」などと思ってたら、ああ、メラニー・ロランではないか。前作とあまりに違うので驚いた。彼女はフランス国立管弦楽団のヴァイオリン奏者のもとで3ヶ月間の訓練を経てこの役に挑んだという。

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もちろん、この『イングロリアス・バスターズ』の画像のバックで流れていたような、デヴィッド・ボウイは流れない。ラストを飾るのはチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35」だ。それも12分間の(映画としては異例ともいえる長めの)短縮バージョンとして、これが見事にアレンジされている。かつてエド・ハリスがタイトル・ロールを演じた『敬愛なるベートーヴェン』では交響曲第9番「合唱」付きの初演が8分間に短縮され、これもなかなか見ごたえがあったが、本作もそれに負けないほどの感情のうねりと回想とプロローグさえも盛り込んで、クラシック・ファンの心をつかむ演奏シーンに仕上がっている。

でも、何よりもうれしいのは、エンターテインメントの骨格として、どんな政治体制に翻弄されようとも決して挫けない、崇高な芸術家魂を迸らせていることだ。それらは綺麗ごとではなく、なりふり構わず、ただひたすらにがむしゃらなもの。どのキャラクターもそうやって真剣に生きているからこそ、観客はその姿に思わず笑ってしまうのだろう。人を本当に笑わせることの根底には大きな感動こそ必要なのだと、改めて教えられた。

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2010/04/14

17歳の肖像

『アバウト・ア・ボーイ』や『ハイ・フィデリティ』の、あの軽妙なタッチが蘇る。ニック・ホーンビーが脚色を手掛ける『17歳の肖像』は60年代初頭のオールドファッションなストーリーを小粋な会話でクスクスと魅せる英国映画だ。主演のキャリー・マリガンはサンダンスやトロントでの上映以来、映画の中で少女から女性へと変わりゆく様を「オードリー・ヘップバーンの再来!」とも評され、いち早くオスカー候補入りを確実視された。

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はじまりは唐突な雨だった。女子高に通う主人公ジェニーの前にひとりの男性(ピーター・サースガード)が現れる。うんと歳が離れた彼はデイヴィッドと名乗り、その知性とユーモアを絶やさない洗練された語り口で、いつしか彼女をめくるめく社交の世界へといざなっていく。口やかましかった両親も、これには「素敵なご縁!」とばかりに喜び顔。これは、まだ女性の社会進出が浸透していなかった頃のおはなし、なのだ。

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ジェニーもジェニーで、デイヴィッドへの想いを強めるにつけ、大学受験の夢を放り出し一途な愛の道を選びとろうとするのだが…。はたして彼女の人生はどうなる!?

原作となったのは44年生まれの女流ジャーナリスト、リン・リーバーによる自叙伝(つまり結論からいえば、ジェニーは見事に社会進出を果たしたのだ。映画では描かれないが)。よく「歯に衣着せぬ」とよく言われる彼女だが、70年代には"How to improve Your Man in Bed"なる本を著しセンセーションを巻き起こしてもいる。そんな感じなので本作では女子学生といえども、放課後にタバコはスパスパ吸ったり、名門校を出た担任にも「そんなのが女性の幸せだと思ってるんですか?」と啖呵を切ったり、人生にこわいものがなくなった瞬間を気持ちいいくらいに生き生きと描き切っている。

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や、それにしても、キャリー・マリガンやピーター・サースガードらばかりが取りざたされるが、脇を固める俳優も、お見事。とくに写真左の頑固なパパ役アルフレッド・モリーナの巧さときたら・・・。『スパイダーマン2』や『フリーダ』でもお馴染みの彼。そのコメディ・リリーフぶりが絶妙過ぎて、笑う、というよりも、ただただ陶酔してしまう。

また、担任の先生には『シックス・センス』でブルース・ウィリスの妻役を演じたオリヴィア・ウィリアムズ、校長先生にはすっかり英国映画界の重鎮ぶりを発揮しているエマ・トンプソン(彼女が脚本を担当するリメイク版「マイ・フェア・レディ」の主演にキャリー・マリガン?という噂も広がっている)。彼らはタイトルでもある「教育」を“与える側”として柔軟性の高い存在感を放っている。

そんな感じで、見どころを突きだすと止まらなくなってしまう。

監督にはデンマーク出身のロネ・シェルフィグ。彼女の代表作『幸せになるためのイタリア語講座』(←かなり初期に書いたレビューなので青臭いですが)も、ある意味“教育”がおとなたちを異世界へといざなう実に心地よいドラマだった。おすすめです

ちなみに、本作の製作にはオーランド・ブルームが陰で尽力した。というのも、当初資金集めで難航していた本プロジェクトに彼の名前が挙がるや否や、出資者が次々に意を決してゴーサインが出たのだそう。実際には彼は助演としてほんの一週間くらい名前を連ね、その後、製作が決まったのを見計らってドロップアウト。このとき出資者は「キャスティングに口を出さない」という事前契約によって、泣く泣く変更を了承せざるをえなかった。

この裏側で行われていた駆け引きについては想像するしかないが、もしかするとブルームが自分の知名度を貸してこの映画を軌道に乗せたのかも。青写真の段階で出資者を納得させるには、やはり出演者の顔触れが強い影響を及ぼしますからね。

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ニック・ホーンビィの手掛けた作品といえば、『アバウト・ア・ボーイ』は当然として、『ハイ・フィデリティ』も人気が高く、それからコリン・ファース主演の『ぼくのプレミア・ライフ』という知る人ぞ知る作品と、それがアメリカ版に脚色された『2番目のキス』も、ファレリー兄弟の監督作とは思えないくらい、爽やかに笑えます。
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2010/04/12

ホワイト・オン・ライスVol.2

アメリカで暮らす日系人家族の奮闘を描いたコメディ『ホワイト・オン・ライス』で父親タク役を演じられた高田澪(たかだ・みお)さんから直々にメールを頂きました。なんと、このブログのレビューを読んでくださり、ご自身のWEBサイトにも抜粋英訳して紹介してくださったとのこと。おそるおそる拝見して見ると、あら、ほんと!

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More review, "White on Rice"
By Atsunobu Ushizu on "I'll see you as Steven Seagal"(JAPAN)

-----And Mio Takada, who plays the role of father, was once a musician in New York, and maybe because of that, he has a kind of presence, which no acting could produce.
In other words, wonderful lassitude ooze out of him that represents years of his struggle accumulated inside of him.

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雨模様の週明けですが、一瞬で心が晴天になりました。
それはちょうど、『ホワイト・オン・ライス』を観たあとの気分のよう。

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全米ボックスオフィスApr.09-11

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Apr.09-11 weekend 確定4月13日6時現在

01 Date Night (-) Clash of the Titans
02 Clash of the Titans (↓) 
Date Night
03 How to Train Your Dragon (→)
04 Tyler Perry's Why Did I Get Married Too?(↓) 
05 The Last Song (↓)
06 Alice in Wonderland (↓)
07 Hot Tub Time Machine (↓)
08 The Bounty Hunter (↓)
09 Diary of a Wimpy Kid (↓)
10 Letters to God (↓)

 
Datenightposter_3■1~3位までが接戦である。各スタジオによる推計で順位発表されてはいるものの、現地時間の月曜日以降に発表される興収確定で逆転もありうる。そして現地時間の月曜午前に興収が確定しました。推計の1位&2位は逆転し、『タイタンの戦い』はV2達成。

■まあ、ただ3D全盛期にこいつらが満を持して殴り込みをかけたのだけは確かだ。『40歳の童貞男』のスティーヴ・カレル&SNLでのサラ・ペイリンのスケッチでもお馴染みティナ・フェイというコメディ界の2大巨頭が夫婦役を演じる"Date Night"が、オープニング3日間で推計2710万ドルを売り上げ、週末興業(暫定)NO.1を獲得した。興収2520万ドルを売り上げ、2位となった。57パーセントが女性客、60%が25歳以上。

■日々、仕事に家事にと大忙しの夫婦が、あの頃のロマンティックなひとときを想いだそうと繰り出したデイト・ナイト。しかし彼らが見ず知らずの他人の名を語ってしまったことで、思わぬドラマティックな夜が暴走しはじめる。監督は『ナイト・ミュージアム』シリーズのショーン・レヴィ。ちなみにティナ・フェイは『崖の上のポニョ』の英語吹き替え版でリサ(宗助のママ)の声を演じている。

■対する3D勢はどうか。まず『タイタンの戦い』の推計興収は先週比56%落ちの2687万ドル2660万ドルとなり、10日間の累計を1億1047万ドル1億1020万ドルとした。製作費は1億2500万ドルと言われているので、クリアは目前だが、どうも周囲からは「2D版のほうが映像が鮮明」との声が聞こえており、筆者も確かにそう感じた。ヒックとドラゴン』は変わらず3位。推計興収2535万ドルで、累計では1億3389万ドル。製作費の1億6500万ドルに到達するまであと2週ほどかかるか。■6週目のアリス・イン・ワンダーランド』は累計で3億1930万ドルに達した。

*『タイタンの戦い』レビューはこちら
*『アリス・イン・ワンダーランド』のレビューはこちら

■タイラー・ペリー監督作"Tyler Perry's Why Did I Get Married Too? "は10日間の累計を4852万ドル。■マイリー・サイラス主演"The Last Song"は12日間の累計興収を4240万ドルとした。蛇足ながら今回のランキングはどれも製作費を上回りそうなものばかりで、安心して概観できる内容だった。各スタジオともに財布の紐を引き締め、かなり注意深く製作している様子がうかがえる。

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2010/04/11

ローラーガールズ・ダイアリー

わかる!この感覚!
上映中、ドリュー・バリモアがあらゆる地方出身者の代弁者のように思えた。

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かつてドリューは、自身が俳優業のみならず製作までも手掛けるようになった理由を問われ、「俳優業だけだとすごく不安になる。だから自分に演じる場所を与えるために、また自分が演じたい役を演じられるように、製作にも挑戦しようと思ったの」と答えていた。そんな彼女がついに監督としても船出した。『ローラーガールズ・ダイアリー』は、『ウォーター・ボーイズ』で男子シンクロ、『フラガール』でフラダンスといったように、日本でもかなり定番かつありきたりとなった青春×挑戦モノ。田舎町に暮らすひとりの少女が、“ローラーダービー”という未知なるスポーツに魅せられ、運命に導かれるようにその渦中へと飛び込んでいく。

正直、展開は最初からわかりきっているし、海外各紙の星取り批評も「5段階中3」というのがいちばん多い。その評価は正当だと思う。そしてドリューだって第一作目から大傑作を作ろうなんて端から思っていない。むしろ「3」という平均点級の作風の中でどれだけ思いっきり遊べるか、跳べるかがこの映画の見どころなのであって、その意味で言うと、先の批評のどの文中にも「まことにもってドリューらしい」という言葉が添えられているのは彼女にとって成功を意味するのだと思う。

原題"Whip It"のwhipは、ローラーダービー中に“しなり”を効かせて前に飛び出すのを示す動詞である。その“飛び出す役目”を担うのが、主人公のエレン・ペイジ(『ジュノ』『インセプション』)。彼女のダサダサ少女ぶりときたら・・・

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なにか人生を突き動かすようなドキドキすることがしたいと、懸命に自分探しをする彼女。でもそのどれもが空回りしてしまう。このエネルギーの喪失感。みんなに振り向いてほしいのに、誰も相手にしてくれない虚しさ。また自分へのふがいなさ。カメラの前と後ろとで、エレン・ペイジとドリュー・バリモアの想いがピタリとシンクロしたとき、まるで小汚い妖精のようなローラーガールズが「ヒョー」とか「イエ―」とか言いながら乱入してくる。これがまさに運命の一瞬と思えるようなダイナミズムを主人公に与える。彼女はローラースケートを掲げ、「これだ!」と確信するのだ。

リング名ならぬ“ローラーガール名”は「ベイブ・ルスレス(ruthless/冷酷非情)」。そんな非情な名を背負ってリンクをひた走る姿がなんとも健気でいい。

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また、
これは故郷に対するラブレターのようにも思えた。バスの車窓から眺める、いつもと変わらぬ町の風景。お年寄りばっかりで、昼間っから酔いつぶれた人がいたり、イケてる店は一軒も見当たらない。

若いころは誰もが一度はこんな場所から抜け出してみたいと思うはず。そうやって彼女はローラースケートで、ロードムービーも敵わないくらいの距離を、延々と走りつづける。まるでそうすることで故郷から脱出しようとしているかのように。でも走れば走るほど、逆に故郷が胸に迫ってくる。故郷やそこの住人や家族のことが愛おしいと思う。

たぶん、この思いは地方出身者なら誰でも経験したことがあるんじゃないかな。幼いころから芸能界で生きてきて、それなりにいろいろ失敗もやってきたドリューが、これほど楽しく、繊細に僕らの想いを代弁してくれるとは驚きだった。

で、ドリュー自身もチームメイト役で登場する。えっ、あなたのやりたい役ってこんなのだったの!?
そのささやかな脇役ぶりがまた胸に沁みる。ま、おいしい役ではあるんだろうけど。

Whip It!

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2010/04/10

ザ・ウォーカー

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なにも説明なく、暗黒の未来は幕を開ける。だだっ広く何もない荒野を、ひとり屈強な男が歩く。西へ、西へ。目的は分からない。彼自身も分かっていない。

夜が来れば食料となる獲物を探し、充電の切れかけたi-podでジョニー・キャッシュを聴き、そして一日の終りに一冊の本を開く。穏やかな心に満ち、男は束の間の眠りに落ちていく。

『マッド・マックス』『ザ・ロード』『トゥモロー・ワールド』が示すように、どうやら人類の前に立ちはだかる未来は暗い。でも暗いからこそ、そこに光を灯す存在こそが希望となり、またそれが同時に強大な権力性をもはらんでいく。邦題の『ザ・ウォーカー』とは、ひたすら歩き続けるデンゼル・ワシントンのことだが、原題"The Book of Eli"は彼が大事に持ち運ぶ“本”のことを指す。どうやら今回はその本こそが希望の光となり、なおかつ力の源と目されているようだ。

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書物のほとんどが燃やし尽くされた『華氏451』的世界で、ゲイリー・オールドマンだけが活力全開。ひとり本の魅力にとり付かれ、部下たちに“とある本”を探せと命じ続けている(それがデンゼルの持つ本なわけだが)。ムキになって咆哮する様は『レオン』のあのヤク中警部が蘇ったかのよう。最近、行儀のいい役が続くことに不満だったファンには、まさに待ち望んでいた狂気のはず。また彼の放った刺客の群れをデンゼルは瞬殺する。強い。そして、なぜ彼がこれほどまでに強いのかも、説明がない。

これまでの文中にどれほど「ない」を使用しただろう。『ザ・ウォーカー』はとにかく引き算のような映画だ。あらゆるものが否定され、スクリーン上に残った物はごくわずかしか存在しない。それがヒューズ兄弟の演出する黙示録的世界。彼らの絵づくりは、時としてカオスの中に芸術的な幻想性を創出するが、それがダイナミックな胎動として映画全体を突き動かしていくほどの効果は得られていない。それは彼らの前作『フロム・ヘル』の反省点でもあったはずだ。どこかこじんまりとしたまとまり方が彼らの弱点といえる。

そんなヒューズ兄弟がハリウッド版"AKIRA"の監督候補に挙がっているとの噂もある。『ザ・ウォーカー』のアメリカでの興業収入は現在までのところ9500万ドル程度。製作費は8000万ドルと報じられているので、決して失敗作とは言えないが、また完全なるブレイクとも言い切れない。闇を恐れぬ彼らの確固たるビジュアリティが、この先、殻を突き破ることを期待したい。

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2010/04/09

第9地区

■そういえば、学生時代の授業で担当教授が語っていたのを思い出した。ケープタウンには第6地区というものがあり、アパルトヘイト時代、そこに住んでいた人々は強制的に移住させられてしまった、と。

■映画『第9地区』の舞台はアフリカ、ヨハネスブルク。突如、市民の上空に飛来し、そのまま立ち往生してしまった巨大宇宙船から、おびただしい数の“招かれざる客”たちが救助され、そのままタイトルが示す特別区に居座ってしまう。それから30年余り、当地はすっかり犯罪と暴力にまみれたスラム街と化し、当局はエイリアンの強制移住に乗り出すのだが。。。

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■本作が「6」の記憶を遺伝子として持ち合わせているのは当然だが、同じアフリカ生まれのニール・ブロムカンプ監督は決してそれを直接的に示唆することはない。製作陣もそろって「アパルトヘイトについて語りたいのではない」と言う。なるほど彼らが目指す先は純然たるエンターテインメント。しかし、そうやってあえて触れないからこそ、「宇宙人と人間」というファンタジックな関係性は返ってテーマの抽象度を高め、どこの国においてもあてはまる、普遍的"exile"な物語となりえている。ストーリー的に『アバター』を想起するひとも多いだろう。片方は遠い惑星にその舞台を置き(ファンタジー)、もう片方はこの地上での真っ向対決を挑んだ(リアリズム)といった様相だ。

■ピーター・ジャクソン率いるVFX工房WETAが手掛ける、製作費3000万ドル級の低予算にしては驚くべき精緻さと大胆さを兼ね備えた特殊効果も“異様なる背景”として機能する。ジャクソンにおいては、自身の監督作『ラブリー・ボーン』があまり振るわなかったのに、製作を務めた本作は絶大なる支持を受けたのだから、非常に微妙な心境であることは察してあまりある。

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■とかく本作がアカデミー賞作品賞候補にまでのし上がった成功の理由は、「観なければ始まらない」ことにある。ドキュメンタリーの手法を貫きながらも、同時にエンタテインメントでもある。社会派でありながらSF、アクションでありながらヒューマンドラマ。あらゆる場面に2つ以上のジャンルが融合し、手っ取り早く「一言で」本作を断定すると、もう片方の意味がすっぽり抜け落ちてしまう。それくらい語り口が新しい。

■その意味でも、僕がいま手にしている宣伝チラシの「『インディペンデンス・デイ』であり、『ブレード・ランナー』であり、『シティ・オブ・ゴッド』でもあり、『E.T.』」という文言は、かなり的確に本作を言い得ている。何より『シティ・オブ・ゴッド』が入っているのがいい。

■あと、ロボット・アニメの定番ともいえる「ロボ、膝からガクリと地に落ち、コックピットがガバッと外れる」という描写がなんとも忠実に映像化されているのも嬉しい限り。世の男子諸君の体感バロメーターはこの瞬間に沸点に達するのではないだろうか。

■ただし、僕が試写した時の体験談を加えておくと、上映中、高年のご夫婦が「もう観てられない」とばかりに席を立った。ちょうどそこはかなりグロテスクなシーンでもあった。本作はそういうバイオレンス描写にも手を抜かない。エイリアンの特殊造型にしてもわざと観客の不快感を煽るデザインとなっている。これはこれでリアリズムに徹する意味合いがあるのだが、そういうのが苦手な方々はくれぐれもご注意を。

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2010/04/07

タイタンの戦い

名だたるギリシアの神々をしても3Dの大波には抗しきれなかった。『アバター』革命の影響により急遽2Dから3Dへと変換作業が施された『タイタンの戦い』。それはアクションシーンを散りばめた、究極のホームドラマでもある。現在アメリカでも大ヒット中の本作3D版を試写した。

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とにかくギリシアの神々というのはやりたい放題だな、というのが率直な感想だ。とりわけ全知全能の神ゼウス(リーアム・ニーソン)は、ひと昔前の封建的なお父さん。人間から尊敬と愛のまなざしを受け取りたい・・・その一心で、反抗期にある人間どもに鉄拳制裁を加えていく。

その暴挙に人間側から反旗を翻すのがペルセウス(サム・ワーシントン)。実は彼は、ゼウスが人間の女性を騙して生ませた、半分人間、半分神の存在でもある。その事実をつきつけられ最初は戸惑うペルセウスも、徐々に運命を受け入れて・・・もういよいよ複雑な家庭事情。昼ドラの域。ただし厳密にいえば、本作がホームドラマに見えるのではなく、ホームドラマの原点こそがギリシア神話にあるわけだが。

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・・・という設定は案外どうでもいい。今回の3D試写はX-PanDだった。巨大モンスター・アクションに関してはルイ・ルテリエ監督にも『インクレディブル・ハルク』で培った経験があり、そのダイナミックな演出には見ごたえがある。幾度も登場する海の質感も、スクリーンのこちら側にあふれてくるような膨張感があり、2Dからの変換という負い目を跳ね返すだけの成果はあげられている。

ただ3D仕様にしたことで素早い動きや複雑な立ち回りに視覚が追いつかないこともままある。おそらく2D版のほうが鮮明に楽しめるのではないだろうか。そして全編を通して「ここで3Dでこう魅せる!」という明確かつ強靭なビジョンの乏しさが感じられた。人間の視覚はとにかく適応能力がハンパじゃなく、手の込んだ3D映像でも、ものの10分もすれば更なる驚きを欲してしまうもの。そこを埋め合わせるだけの牽引力はもう一歩か(予告編で登場するザック・スナイダー(『300』『ウォッチメン』)監督作『ガフールの勇者たち』に比べると色あせてしまう)。

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付け加えておくと、フランス人監督による息吹のせいか、本作に登場するクリーチャーはハリウッド映画ではお目にかかれない奇妙な造型をしている。もっとも印象深いのは「目のない魔女たち」。これを見て真っ先に思い出すのは『パンズ・ラビリンス』や『サイレント・ヒル』といったところか。

また、キャストもリーアム・ニーソン&レイフ・ファインズという夢の競演あり(実生活では親友らしい)。北欧の名優マッツ・ミケルセンを重要な役どころに起用したり、ジェイソン・フレミング、それに『アバウト・ア・ボーイ』のぶちゃむくれ少年だったニコラス・ホルトが清廉な顔だちで登場したりと、何かとヨーロッパびいきなキャスティングで目を楽しませる。彼らが十分にアピールタイムを持てさえすれば、『七人の侍』趣向でもう少し面白みが上乗せできたのでは、というのは高望みしすぎだろうか。

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ルテリエ監督も大ファンだというハリー・ハムリン&レイ・ハリーハウゼンによる81年版『タイタンの戦い』。ストップモーションで動くモンスターたちは、3D時代となった今でも変わらぬ大切な手づくり感を思い出させてくれる。リメイクを提案されたルテリエは「あまりに恐れ多い」と拒否したものの、もう一度オリジナルを見直し、「オマージュという形でいま僕らにできることがあるかも」と創作に着手したとか。

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2010/04/06

モリエール、恋こそ喜劇

東京では3月初頭に封切られた『モリエール、恋こそ喜劇』。Bunkamuraルシネマでの上映もいよいよ終盤に近付いてきた。

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本作を観ながら思った。フランス人の対抗心たるや計り知れない、と。

たしかに、
『恋におちたシェイクスピア』のような作品を見せられると、人々は「それなら我が国も!」と母国の劇作家を候補に立て対抗心を燃やすことだろう。ロシアはチェーホフだろうか、ギリシアならアイスキュロス? アメリカならテネシー・ウィリアムズにアーサー・ミラー? アイルランド生まれでフランスで没したオスカー・ワイルドって手もあるし、日本の代表選手としては18世紀生まれの鶴屋南北ってのもありかも。

しかしどんな才人を擁しても、シェイクスピアと時代的に釣り合いが取れるのは、17世紀フランスのモリエールをおいて他にはいない。そして本作『モリエール、恋こそ喜劇』は、『恋におちたシェイクスピア』と同様、彼が後世に残した名作群のヒントを散りばめたような創作エピソードで綴られる。

才能が開花する以前の若きモリエール(ロマン・デュリス)が徐々にその片鱗を垣間見せていく様はスーパーヒーローのエピソード1みたいで楽しい。でもこの映画が「シェイクスピア映画の呪縛(というか対抗心)」から脱し、観客の心をグッと鷲掴みにしはじめるのはこの男が本領を発揮してからではないだろうか。

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その御仁こそ、フランスの名優ファブリス・ルキーニ。消臭剤のような名前だ。

彼が演じるのは、大成功した商人にも関わらず、「貴族になりたーい!」と高望みをする憎めない男だ。僕にはこの物語の中盤からまさに彼を中心に世界が動き出したかに見えた。

若きモリエールには金はないが才能がある。しかしルキーニ演じるこのエセ貴族は、金は湯水のごとくあるが中身はスッカラカン。なんとか自分を取り繕うことで精いっぱい。でもその立ち居振る舞いは、お調子者で、人間味にあふれている。そんな彼が貴族社会に指をさして嘲笑され続けた挙句、とんでもない大立ち回りを披露するシーンがある。これがあっぱれというか、完全に目を覚まされるというか。本作はこういうフツ―の人間にちゃんとスポットライトを当ててくれるのだ。

ちなみにルキーニはセドリック・クラピッシュ監督作『Paris パリ』でも歴史学の教授として登場。

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数多くの人気俳優が入り乱れる群像劇に、歴史の観点で繋がりを付与していく重要な役どころを担っているのだが・・・ほんとうに、権威に彩られた人間とその悲哀を醸し出すなら、彼の右に出る者はいない。

もっと時間を逆流させて、さらに若返らせると・・・

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あまり変わってないような。今後はフランソワ・オゾンの新作が待機中。あまり多作とは言えない彼だけに、その持ち味がじっくり堪能できる『モリエール』は貴重な作品だ。

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2010/04/05

全米ボックスオフィスApr.02-04

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Apr.02-04 weekend 推計】

01 Clash of the Titans (-)
02 Tyler Perry's Why Did I Get Married Too? (-)

03 How to Train Your Dragon (↓)
04 The Last Song (-) 
05 Alice in Wonderland (↓)
06 Hot Tub Time Machine (↓)
07 The Bounty Hunter (↓)
08 Diary of a Wimpy Kid (↓)
09 She's Out of My League (↓)
10 Shutter Island (↓)

Photo_2   
■混戦模様の週末ボックスオフィス。まずは2D版を急遽3D版へと変換しジェームズ・キャメロンらから暗に揶揄されているワーナーの大作『タイタンの戦い』が1位を獲得。
本作の封切は木曜20時~(米での新作封切は通常、金曜日)だったのだが、この日は初週興業を展開中のヒックとドラゴン』や未だ勢力を保っている『アリス・イン・ワンダーランド』などとの関係上、数に限りのある3D対応スクリーンを自由に使用することがままならず、ほぼ全国的に2D版での上映となった。そして金曜からの一般興業では「3777上映館の約半分にて、少なくとも1スクリーンは3D仕様」というやや窮屈な感じでの再スタートを切ることに。それでも大人たちはやはり3Dアニメよりも3Dアクションに強烈に惹かれたらしく、週末の興収は推計6140万ドル(木曜の20時~24時までの興収はこれに含まれない)。製作費のまだ半分にしか満たないが、十分インパクトのある数字と言えよう。

■2位には米国のアフリカン・アメリカン層に絶大なる人気を誇るタイラー・ペリー監督がジャネット・ジャクソンを主演に招聘して送る"Tyler Perry's Why Did I Get Married Too? " ここ最近は手掛けた作品が常に1位を獲得する常勝監督として知られていたが、さすがに黒人コミュニティの結束力も3Dには勝てず。ただし推計興収の3000万ドルはいつもの彼の作品と同程度の額。かなりの固定ファン層がいつもと変わらぬ足取りで劇場へ足を運んだことになる。ただし、3位の『ヒックとドラゴン』の興収も2920万ドルとかなり接近していることから確定後の順位変動もありうる。

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▲今回の作品とは違うが、タイラー・ペリーは“マディア”というお婆さん役(画像)で主演するコメディ・シリーズでも人気。親による虐待や、ホームレスとして街を彷徨い歩くなど、かなりのタフな人生を歩んできたタイラーだけに、その分、マイノリティや弱者の視点にも立ち、温かい物語を紡ぐ。最近ではオプラ・ウィンフリーと共に製作を手掛けた『プレシャス』(リー・ダニエルズ監督作)で脚光を浴びた。

■『ヒックとドラゴン』は10日間の累計を9200万ドルとした。先週末の成績を受けての落胆からドリームワークス・アニメーションの株価が8%下落するなどのニュースもあったが、それでも興収面では先週からの下げ率が33%と、かなり踏ん張りを見せている(通常は50%ほど下落するものなのだ)。製作費は1億6500万ドルなので、反省点も踏まえた海外の伸びにも期待したい。対して水曜日より封切られたマイリー・サイラス主演"The Last Song"は推計1620万ドルを売り上げ、5日間の累計では2560万ドル。製作費2000万ドルを早々と超えてきた。『きみに読む物語』や"Dear John"で知られるニコラス・スパークスが原作&脚本を担当している。

■5週目の『アリス・イン・ワンダーランド』はついに興収3億ドル越え達成。『バウンティー・ハンター』も国内興収分だけで製作費をカバーし、累計5000万ドルほどにまで到達している。

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2010/04/04

ハート・ロッカー再訪

アカデミー賞作品賞を獲得した『ハート・ロッカー』を再見。

Thehurtlocker_2普段は映画の二度見など滅多にしないが、戦地を渡る歩くジェームズ二等軍曹と同じく、ぬるま湯のような映画ばかりと接していると『ハート・ロッカー』の限界越えの緊張感にもう一度触れたくなる。これはこれで観客側に蔓延した深刻な中毒症状と言えるのかもしれない。

『ハート・ロッカー』のアメリカ公開は昨年6月26日。その興業的幕開けとしてたった4館で封切られ、のちに上映館を532にまで増やしたものの、興業成績ランキングで10位以内に入ることはなかった。製作費は1200万ドル~1500万ドルと言われ、米国内での興収は最終的にそれを僅かに上回った1600万ドル近辺。この数字は記録が残っている分の歴代オスカー受賞作としては史上最低額と言われている。

本作は映画の描く虚構とはいえ、人々の目線を、机上の空論ではなく戦場そのもの&兵士の精神状態へと肉薄させた点で評価できる。そこは「戦争賛成、反対」では割り切れない世界。第一、兵士たちは銃の照準やビデオカメラといったレンズ越しにしか敵の姿を確認できない。「戦争とは何か?」という疑問は現場に行くほど混沌とした答えしか導きだせないのではないか。
Hurtlocker02_3
いや、そんな教科書的な書き方はやめよう。

僕の中で『ハート・ロッカー』は正直、戦争に対する新しいビジョンを打ち出すほどの斬新さはもちえていない。特筆すべきは究極的にサスペンスとアクションに尽きる。キャスリン・ビグローの演出はドキュメンタリー・タッチでいくのかと思いきや、いざ爆弾処理シーンに至ると、編集とカメラワークがストイックなデッドヒートを繰り広げ、まるで性的興奮が盛り上がるかのように、ひとつの絶頂に向かってギリギリまで緊張感を持続・膨張させていく。

面白いのは、主人公が爆弾処理班であるがゆえに、本作で仕掛けられた爆発物はほとんど「未遂」で解体されることだ。このあたり、まるでひとりの人間の中でうごめく自我とその制御本能との駆け引きを擬人化しているようでもある。そして暗喩的に描かれる限り、これは不謹慎でも何でもなく、ひとりの人間のありのままの姿として機能し得る。そして溜まりたまっていたものが暴発するかのように、ラストでは…。

ちなみにアカデミー賞なんて米映画界の総選挙みたいなものだ。大々的なキャンペーンも目白押し。たしかに『ハート・ロッカー』は確かに2度見したくなるほど優れた映画だが、オスカー獲得に至っては『アバター』に対抗しうる唯一の候補として流れが出来上がっていった感が強い。何よりもバランスを重んじるアカデミー協会の総意として、3D勢力に対するインディペンデント、男性主権に対するフェミニズム、占領される側の『アバター』に対する進駐する側の『ハート・ロッカー』という具合に、ふたつセットで負荷を相殺している要素が多数見受けられる。

そろそろ『ハート・ロッカー』をエンタテインメントとして評価したい頃合いだ。タイトルも"The Heart Rocker"で良いじゃん。映画は低予算であればあるほど、作り手の誤魔化しのきかない真価が発揮されるもの。世界中の多くの若手監督たちはこの映画を観ていろんな演出方法を学んだろうし、世界との闘い方、世界の驚かし方、そしてビグローみたく困難に屈しない精神力を培うためには何よりもまず“強靭な二の腕”こそ必須とされることを、身に沁みて学んだと思うのだ。

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2010/04/03

月に囚われた男

10年とは言わない。ものの数年後、本当にありえそうな未来―。

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地球の資源がとっくに枯渇した時代、月に埋蔵されるエネルギー源をめぐり、ひとつの企業が大規模な採掘事業に着手する。
そして数年後、いまや作業は機械化され、月に滞在する現場の人間はたったひとり。順調に思えたその孤独な単身赴任だったが、3年の任期切れまであとわずかという頃、思わぬ事態が彼の周囲を覆い始める。。。

英国では「09年最大の収穫」とも謳われた異色のSFミステリー。監督のダンカン・ジョーンズに関して「デヴィッド・ボウイの息子」という肩書が必要なのはもはや日本くらいなものかもしれない。

アメリカのSF映画に比べ、イギリスのそれらは製作費の少なさから観客の目線をそらすかのように、妙に哲学的になったり、宇宙船内を真っ白に染め上げて細部の粗を飛ばしたり、逆にどーでもいいところにリアリティを持たせたりする。キューブリックの『2001年 宇宙の旅』などはその典型だが、つまりはこの国にはそんな独自の陣地戦でもって特異なSFジャンルを開拓してきた歴史がある。

しかしそれにしても静かだ。このSFは静謐すぎる。なにしろ主なキャストがサム・ロックウェルただひとり。MoonあとはHAL2000を想わせるロボットが登場(ケヴィン・スペイシーが声を担当している)。思わぬ助演男優ぶりを発揮する。

シンプルなんだけどストイックに未来を見据えた斬新なストーリーラインが魅せる。サム・ロックウェルのシュールなひとり芝居は痛々しいやら、哀しいやら。いくつもの伝説的SF作品へリスペクトを捧げたディテールの凝り方も楽しい。それにミニチュアとCGを絶妙に融合させた月面でのメカニカル・シークエンスは、現実と虚構のちょうど中間域の、可愛らしいミニカーがひた走るような感覚が目を楽しませる。

おそらく本作のタイトルでレビューを検索したところで、物語の核心に迫っているものはほとんど見つからないはずだ。この映画の魅力に憑りつかれると、中盤くらいで明らかになる謎について誰もが口を閉ざし、まだ観ぬ人々へ「知りすぎない方がよい」と告げずにいられない。それが本作を賞賛する最良の方法に思えてしまうのだ。

ちなみに本作の原題は"Moon"。邦題の『月に囚われた男』には、監督の父デヴィッド・ボウイの主演作『地球に落ちてきた男』へのオマージュの意味が込められています。

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2010/04/02

SRサイタマノラッパー2

「一生大切にしたくなる」 そんな安易かつ率直な言葉でしか片づけられない映画が年に1、2本ずつくらい増え続け、やがて僕の脳内は借金がかさんだみたいにそれらの記憶で一杯になるだろう。それでもなお今の想いは、もう、プロポーズにも似たこの言葉でしか、片づけられないのだ、メーン!

というのも、イマジカでこの映画を試写。

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『SRサイタマノラッパー2 ~女子ラッパー☆傷だらけのライム~』。ほんの軽い気持ちで観に行ったのに、早くも歴史の証言者になった気分だ。情報に敏感な映画ファンはすでに第1弾が口コミで評判を高め異様なヒットを記録したことをご存じだろう。今度の舞台は群馬だ。主人公もガーリーだ。かつて高校時代に自分の夢や希望をライムに刻んで歌う楽しさを知った5人の女子たち。いまや20代後半になって、出口の見えない冴えない暮らしを送る彼女らが、再び等身大の想いをフリースタイルでぶちまける。

まさにエミネム主演の『8マイル』in GUNMA。あるいはヒップホップ映画の傑作『ハッスル&フロウ』featuring女子ラッパー。

ここには豪華なステージなど存在しない。彼女たちのラップはお世辞でも上出来とは言えないし、最初はどこか違う国の言語を無理して着込んだような、ぎこちない印象を受ける。でもこれが、いつの間にか心地よく耳に響いてくる不思議。うまくなくったって想いが伝わることもある。いや、むしろそのぎこちなさやズレこそがリアルな生活臭を生み出し、行間を読むかのように彼女たちの想いが流れ込んでくる。物理的なステージなど存在しなくていい。ここでは日常そのものがステージであり、ひとりひとりの人間がパフォーマーなのだ。

とくに噂で聞いてたラスト5分(10分?もう時間を忘却した)の長回しは圧巻だった。これこそ壮絶なるラップバトル。日常との闘い。よくもこんなシーンを創出できたものだ。もはや演技やパフォーマンスを楽しむといった次元ではなかった。スクリーン上で巻き起こるうねりをつぶさに体感する勢いだった。しまいにはボロボロ泣けて、メガネをかけずに観る3D版『アバター』みたく、スクリーンが滲んで歪んで見えた。けど想いは分厚くドカンと伝わってくるんだよな。

ほんとうに素晴らしい映画は、視覚効果など使わなくとも、観客の心に立体的なインパクトを与えるもの。まさにその典型のような作品だった。SAY HO~!

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2010/04/01

シャッター アイランド

そこに袋とじがあったからだ―
原作本を手に取った理由はそれ
に尽きる。

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結末部分を袋とじで防御した装丁の魅力には勝てず、ついつい原作本を手にしてしまった。つまり、映画『シャッター アイランド』は僕にとって行き先の分かりきった航海だった。あるいは、一度上演された舞台の再演、映画のリメイクのようなもの。あの原作世界を巨匠マーティン・スコセッシはどのように描くだろうか。僕のなかで既に出来上がったイメージを、彼は覆すことができるだろうか。

正直、期待はしてなかった。そもそもスコセッシなんて昔とった杵柄で生き残ってる眉毛の太いおじいちゃんのように感じていた。でもすぐさま前言撤回。僕は本作に、ここ数年で最も挑発的なスコセッシを見た。

50年代、閉ざされた島を覆い尽くす暗く湿った圧迫感。立ち込める霧。汽笛。不気味な精神科病棟で暮らす、気のふれた人々。逃げ出した患者。謎の灯台。微かな表情で多くを語る登場人物たち。そして、第二次大戦中の、ダッハウ強制収容所の記憶―。スコセッシの発言を借りれば、これは実際に彼が市井で触れてきた時代(戦後~冷戦)の空気であり、極度のパラノイアに彩られた記憶だという。
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ストーリーやオチだけに気を取られるのは勿体ない。ぜひこの息苦しい島に詰め込まれた圧倒的な音と映像の洪水に注目してほしい。霧の白にはじまり、そこに色と音をコラージュするかのように、次々と鮮烈な記憶のイメージが挿入されていく。

また本作は専属の作曲家を雇わず、選曲制になっている。なかでも本作で幾度も表情を変えながら繰り返されるマックス・リヒター(『戦場でワルツを』)の"The Nature of Daylight"という楽曲が哀しみの情感に拍車をかけ胸を締め付ける。かとおもえば、コントラバス(?)の音色が汽笛とシンクロする趣向や、中盤では現代美術家ナム・ジュン・パイクによる不気味な音のコラージュ(←かなり心臓に悪いです。真夜中にひとりきりで聞かないように)にさえ身をさらすこととなる。

ちなみに『シャッター・アイランド』のテーマは、陰と陽の関係のごとく、この翌週公開の『アリス・イン・ワンダーランド』にも繋がっている。それぞれに独立独歩の映像作家ティム・バートンとスコセッシ。描かれる時代も「19世紀」と「50年代」と隔たりがある。が、両者とも、それぞれの手法で“狂気”の意味を現代人へ投げかける。

僕らは無自覚のうちに、とんでもない狂気の時代を生きているらしい。

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