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2010/04/10

ザ・ウォーカー

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なにも説明なく、暗黒の未来は幕を開ける。だだっ広く何もない荒野を、ひとり屈強な男が歩く。西へ、西へ。目的は分からない。彼自身も分かっていない。

夜が来れば食料となる獲物を探し、充電の切れかけたi-podでジョニー・キャッシュを聴き、そして一日の終りに一冊の本を開く。穏やかな心に満ち、男は束の間の眠りに落ちていく。

『マッド・マックス』『ザ・ロード』『トゥモロー・ワールド』が示すように、どうやら人類の前に立ちはだかる未来は暗い。でも暗いからこそ、そこに光を灯す存在こそが希望となり、またそれが同時に強大な権力性をもはらんでいく。邦題の『ザ・ウォーカー』とは、ひたすら歩き続けるデンゼル・ワシントンのことだが、原題"The Book of Eli"は彼が大事に持ち運ぶ“本”のことを指す。どうやら今回はその本こそが希望の光となり、なおかつ力の源と目されているようだ。

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書物のほとんどが燃やし尽くされた『華氏451』的世界で、ゲイリー・オールドマンだけが活力全開。ひとり本の魅力にとり付かれ、部下たちに“とある本”を探せと命じ続けている(それがデンゼルの持つ本なわけだが)。ムキになって咆哮する様は『レオン』のあのヤク中警部が蘇ったかのよう。最近、行儀のいい役が続くことに不満だったファンには、まさに待ち望んでいた狂気のはず。また彼の放った刺客の群れをデンゼルは瞬殺する。強い。そして、なぜ彼がこれほどまでに強いのかも、説明がない。

これまでの文中にどれほど「ない」を使用しただろう。『ザ・ウォーカー』はとにかく引き算のような映画だ。あらゆるものが否定され、スクリーン上に残った物はごくわずかしか存在しない。それがヒューズ兄弟の演出する黙示録的世界。彼らの絵づくりは、時としてカオスの中に芸術的な幻想性を創出するが、それがダイナミックな胎動として映画全体を突き動かしていくほどの効果は得られていない。それは彼らの前作『フロム・ヘル』の反省点でもあったはずだ。どこかこじんまりとしたまとまり方が彼らの弱点といえる。

そんなヒューズ兄弟がハリウッド版"AKIRA"の監督候補に挙がっているとの噂もある。『ザ・ウォーカー』のアメリカでの興業収入は現在までのところ9500万ドル程度。製作費は8000万ドルと報じられているので、決して失敗作とは言えないが、また完全なるブレイクとも言い切れない。闇を恐れぬ彼らの確固たるビジュアリティが、この先、殻を突き破ることを期待したい。

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