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2010/05/07

ザ・ロード(BOOK)

世界終焉の絶望的ランドスケープを、父子がゆく。。。The_road_2 

原因は分からない。それは突如として巻き起こった。生き残った父と幼い息子は、ショッピング・カートに荷物を詰め込み、まるで子連れ狼のごとく大陸を移動していく。腰元には一丁の拳銃。護身というよりは自殺用だ。あるいは最後のその瞬間が訪れるまでの護身用、と言ったほうが正確かもしれない。ときどき遭遇する人間はみな生き残るために心を捨てた者ばかり。奪い合い、傷つけ、そしてひもじさのあまり人肉を口にする者までいる。そんな中、父は幼子の健気な質問に答え続ける。この子がいなければ父は簡単に人間性など忘却できたのかもしれない。しかしいま目の前には息子がいる。だからこそ彼らは絶望的な世界の中でも“善き者”であり続けようとする。

「ぼくらは火を運んでいるんだ」

この一言が幾度も繰り返される。読者ははじめこの意味が分からないが、彼らの旅を通じて徐々におぼろげながらその意味するところが掴めてくる。これは父から子へと受け継がれていく“生命の授業”と言えるのかもしれない。人間の寄る辺が余すところなく消滅してしまった世界で、人間は何を目撃し、いかに苦しみ、何を神に問いかけ、そして身近な者へ何を伝えていこうとするのか。ずっと父親の視点に肉薄していたはずの語り口がやがて幼子によって牽引されるとき、誰もが本作をただのSF黙示録とは思わないはずだ。これはおそらく、誰もが体験する、とてつもなく身近な物語であるに違いない。

著者は現代の最重要作家のひとりとして数えられるコーマック・マッカーシー。高齢になって授かった幼い息子を見つめながら、ああ、この子が大人になるとき、世界はどうなっているだろうか、と想像しながら執筆にあたったようだ。映画化された彼の作品には『すべての美しい馬』や『ノーカントリー』が挙げられる。そして本作の映画版も昨年全米公開。6月末には日本でも封切られる。父親役にはヴィゴ・モーテンセン。彼の温かくも、息子のためなら冷徹にだってなれる激しさが、観賞後ずっと、心のなかに光と影を遺し続けている。

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