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2010/05/18

カンヌ前半戦

カンヌ映画祭も約半分が過ぎ、徐々に今年の収穫とも言うべき作品の名前が上がり始めているようです。各紙の評価を概観したところ、現在までのフロントランナーはこの3者か。

●カンヌ最高賞受賞作『秘密と嘘』や『ヴェラ・ドレイク』など質の高い人間ドラマを生み出してきた英国人監督マイク・リーは、"Another Year"で初老夫婦とその息子、そして友人を見つめた1年の月日を紡ぎだす。
Another_year

それぞれに仕事を辞め、さて平穏な生活を始めようかという佳き夫婦。だが、彼らのもとには呑んだくれて自暴自棄になった女友達が上がり込んできて、彼らもそれに引きずられるように翻弄されていく。。。と、実にシンプルなストーリーラインだけれど、そこにいぶし銀の職人技を見せつけるのがマイク・リーの本領。リーと気心の知れた、ジム・ブロードベントをはじめベテラン役者陣がまた素晴らしい、とのこと。

ほんのささやかな仕草にも心掴まれ、平凡な人々の孤独や哀しみを慈しみ深く掬い取った作品に仕上がっているそう。

●マハマット・サレ―・ハルーン(Mahamat-Saleh Haroun)が紡ぐ中央アフリカ、チャドの物語"A Screaming Man"は、タイトルとは裏腹に、寡黙で美しくも切実な作品に仕上がった。

Screaming_3   
内戦の続くこの地に建つ高級ホテルで、プール専属のインストラクターとして働く60代の男アダム。やがて彼は解雇され、後任として彼の息子が就くことになる。落胆と憤慨が入り混じり、ついには戦火の迫る中で息子を政府軍の兵士として送り出すアダム。そうして自分は元の仕事に返り咲いてしまう。この決断が後に彼を苦しめるとは知らずに。。。妻が浴びせる「あなたは変わってしまった!」との言葉に「ちがう!世の中が変わったんだ!」と答える姿が印象的だ。たしかに彼は最初から何一つ変わっていないのかもしれない。

●『バベル』(←拙ブログのレビューに飛びます)でカンヌ監督賞を受賞したアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの最新作"Biutiful"も評価が高い。

Biutiful
ハビエル・バルデム主演の本作は、バルセロナの闇社会を舞台に死にゆく父親の物語。不法移民を斡旋する商売に手を染める彼は、一方で死者と心を通わせる力も持つ。2人の幼い子供、精神に病をきたした妻、彼を頼る大勢の移民たち。彼は善き人間だが、完璧ではない。いつしか自らの死期を悟った彼は、残された時間の中、人として、父として、何らかの答えを手にしようともがくのだが・・・。

今回は長年組んできたギジェルモ・アリアガの脚本ではなく、複数のエピソードが同時進行する形式も取っていない。しかし各紙のレビュアーが口を揃えて言うのは、これまで以上に多様なテーマが入り組んで、この“たったひとりの主人公”の心の中を複雑に席巻しているということ。ほとんど説明的な描写がなく、観客には物事の詳細が与えられないまま、ほぼ印象によって推測していくしかない。

その方法論が、かねてよりイニャリトゥの言う「映画とは、人間の感情を伝えるべきもの」という指針を踏襲し、心を揺さぶる全体像を手にしている。会見で彼は、「これまでの作品で最も希望のある映画。何よりも“許し”がある」と語っている。

●北野武監督作『アウトレイジ』については拙ブログのレビューをご覧ください。

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