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2010/05/26

あの夏の子供たち

映画人にとっては他人事とは思えない、かなりシビアな物語だ。

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パパは映画会社の社長。映画の配給のほかに、ワールドワイドな映画製作も手掛けている。北欧では一筋縄ではいかない奇才が撮影を必要以上に長引かせ、韓国からは新作スタッフが大人数でロケハンにやってくる。刻一刻と変わりゆく製作状況。その逐一が彼のもとへ報告される。だから四六時中、携帯は手放せない。初めの方こそ敏腕社長のように見えた彼だが、どうやら経営は火の車らしい。資金繰りもうまく行かず、その場しのぎでなんとか明日へと希望を託す。彼を突き動かすのはもはや映画作りの理念のみ。。。

うーん、映画人たちが自ら描き込む“映画作りの現場”ゆえ、その徐々に首を絞められていく感覚はあまりに生々しく痛々しい。

そんな彼も自宅に戻れば善き父親だった。娘たちが彼を出迎えてくれる。その屈託のない天使のような笑顔が彼に活力を満たしてくれる。本作は、父親と娘たち、そして母親の目線に交互に寄り添うことによって、たとえ厳しい現実に身も心も削られるストーリーであろうとも、なんとかその視座を真夏の陽光、子供たちの笑い声、無邪気さゆえのファンシーな世界観へと傾け、観客の目を巧みに惹きつけていく。

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本作に人生の答えを求めても何も出てきやしないし、ましてや本作は不況を生き抜くための応援歌などでは一切ない。悲劇は確実に、突如としてやってくる。家族はそれに耐えねばならない。どうにかしてでも、涙をこらえて、必死に生きていかねばならない。

正直、後半の展開には眩暈がした。81年生まれの女優出身監督ミア・ハンセン・ラブはなぜこんな物語を描こうとしたのか?前後半でストーリーに破たんはないか?そしてこのラストはラストに成り得ているのか?次々と疑問が溢れ出す。

そして、笑っても、怒っても、哀しんでも、結局はこの映画の放つ不思議な磁力に惹かれてしまう。本作の魅力はそこなのだ。事態は何も進展しないのに、絶望と同じくらい、希望の息吹を感じる。結果として本作は、昨年のカンヌで「ある視点」部門の審査員特別賞に輝いた。

僕にはこの映画が、すべての映画人たちの遺言であり、なおかつ、その意志を受け継いだ新しい世代の覚醒のように思えてならなかった。

あの、髪をチュルチュルさせた長女は、いつの日か、自分の手で映画を撮ろうと思い立つのではないだろうか。そしていま私たちがこうして目にしている『あの夏の子供たち』こそ、成長した彼女が撮り上げた自伝的作品なのではないだろうか。。。フィクションとは分かっていても、この深い余韻は観賞後の深読みを誘う。

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よくぞこんな映画を日本に届けてくれました!『あの夏の子供たち』を配給するのは、クレスト・インターナショナル。最近では『サン・ジャックへの道』『夏時間の庭』など、珠玉の、そして実に変化球の効いた家族映画を丁寧に配給・宣伝する手腕が印象的です。この手のジャンル好きなら、こういう配給会社名で映画を探してみるのも効果的かも。
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