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2010/05/02

ペルシャ猫を誰も知らない

この熱気。無軌道ぶり。そして、純粋なる音楽への情熱。
視覚と聴覚を通して、イラン・アンダーグラウンド・ミュージックの血潮が流れ込んでくる。

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バフマン・ゴバディの過去の作品を知る人ならば、この『ペルシャ猫を誰も知らない』"No One Knows About Persian Cats"の作風に多少驚くことだろう。なにしろ本作の舞台はテヘラン。ゴバディが出逢った男女ポップス・ユニット(彼らの演奏は超うまいわけではないが、何とも心に響くのだ!)を主人公に、フィクションともドキュメンタリーともつかない不思議な臨場感を持った物語が勢いよく走り出す。彼らは自由の制限されたこの国に別れを告げ、ロンドンで音楽活動を始めようとしている。そして出国の前に偽装パスポート取得と、念願のアルバム制作と、一度きりのコンサートが出来ないものかと画策する。

そのためには臨時のサポートメンバーを探さねばならない。ポップス、ロック、ブルース、ヘビメタ、ラップ。彼らは便利屋のナデルにいざなわれ、テヘランのアンダーグラウンド・ミュージック界をくまなく巡りつづける。

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イランは10年前のおおらかさとは比べ物にならないくらいに変わってしまった。いまや音楽活動を続けるのにも当局の許可が必要なのだという。とくにMTVの影響をモロに受けたような軽音楽を演奏しようものなら、それが練習であっても近所の住民にすぐさま通報されてしまう。でもそんな状況でも自らの音楽を追究しようとする若者たちがいる。地下の秘密のスタジオで、防音装備に抜かりなく、すぐに停電する不安定な電力状況にも決してめげない。

そして彼らの音楽と同じく、この映画だって無許可で撮られたシロモノなのだ。バフマン・ゴバディが国を捨てる覚悟でたった17日で撮りあげたヴィヴィッドな音楽絵巻。登場バンドがひとたび音楽を奏でると、テヘラン市内で活写されたむせかえるほどの喧騒がダイナミックに切り貼りされていく。砂埃、ビルディング、大渋滞。どこの国、どこの街でも変わらない空、雲、夕日。それらを一言でMTV風、PV風ということも可能かもしれないが、僕にはその1カット1カットがゴバディからこの街への最後のラブレターとして映った。

この映画のエンディングも画期的だ。スタッフ&キャストのクレジットは下から上ではなく、右から左へと流れていく。それはあたかもすべての人間が横一線に平等であるのを示すかのようで、なおかつ楽譜に息づく音符をも思わせる。つまりは、そのすべてが連なって、映画という唯一無二のメロディーを生み出していたということか。

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