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2010/06/30

ガールフレンド・エクスペリエンス

いわゆる”チェ・ゲバラ”2部作の興行的な失敗により、しばらく精神的に落ち込んでいたとされるスティーヴン・ソダーバーグ。こんな時、彼は原点回帰で自分の呼吸を整えるかのようにアーティスティックな作品を送り出してきた。

Thegirlfriendexperience_2 
ニューヨークを拠点に活動する高級コールガールが主人公だ。顧客はウォール街などで働くビジネスマンが多く、彼らの言動には先の金融ショックの影響が見て取れる。ただお金になるからというのではなく、何かカッチリした自分の理念を持って生きているようにも思えるこの女性。彼女の目線を通して、働くことの意味やお金の価値、人生の意味、貨幣を媒介に手に入れる愛の真偽といったものが“時代の空気”と共に浮かび上がってくる。ただし具体的なストーリーとしてではなく、あくまで静謐な映像美に漂う空気として。

ソダーバーグの映画にはかなりとっつきにくいところがある。が、そのとっつきにくさも彼が一部のファンから熱烈に愛されてやまない理由であることは『セックスと嘘とビデオテープ』以来おなじみだ。分かる人にしか分からないこの信号を、映像表現を介してキャッチ&リリースしつづけているかのような、この監督と観客の共存関係。

ただし『ガールフレンド・エクスペリエンス』から僕が感じたのは、ソダーバーグが明らかに悩んでいるということだった。ここで描かれるコールガールに、彼は恐らく自分自身を重ねている。観客をエンタ―テインすることは愛を交わすことにも等しい。でもそれがただの気持ちのいい表現だらけの快楽になっていないか?媚びになっていないか?押しつけになっていないか?映画監督たる者、観客のフラストレーションを快方へと向かわせる行為者でしかないのか?でも主人公(コールガール)の姿には彼女なりの生き方、闘い方、プライド、流儀が垣間見える。“満足させる側”としての葛藤が、『チェ』のあとだからこそ、より痛々しく、リアルに透けてみえてくる。

きっとこの主人公も「職業は何ですか?」と聞かれれば「アーティスト」と答える気がする。本作はそのまま現代におけるアートの定義としても問題提起をはらんでいるのではないか。

ちなみに、冒頭の場面で男女が“さきほど見た映画”について語っている。なにか架空の映画なのかと思っていたら、賞を受賞したとか、ワイヤーの上を渡るとか、ヤルのかヤラないのかどっちなんだ、とか。。。ああ、『マン・オン・ワイヤー』のことですか!

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2010/06/28

アウシュヴィッツ

これまでの流れはこちらをご覧ください。

あー、すみません、昨夏にアウシュヴィッツを訪問したときの記録が、途中で中断(挫折?)しておりました。「今年の夏に行こうかと思ってるんですが」とメールくださったNさん、ありがとうございました。あなたのおかげで再びきっかけを取り戻すことができました。

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アウシュヴィッツ博物館でもっとも衝撃的な展示物とされるものに、アウシュヴィッツ解放後に見つかったおびただしい数のトランク、メガネ、義足、人形、髪の毛がある。

続きを読む "アウシュヴィッツ"

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全米興行成績Jun25-27

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Jun25-27 weekend 推計

01 Toy Story3 (→) $59M
02 Grown Ups
(-) $41.0M
03 Knight & Day (-) $20.5M
04 The Karate Kid(↓)$15.4M
05 The A-Team (↓) $6.0M
06 Get Him to the Greek (↓) $3.0M
07 Shrek Forever After (↓) $2.87M
08 Prince of Percia: The Sands of Time (↓) $2.80M
09 Killers (↓)$2.0M
10 Jonah Hex (↓)$1.6M

*推計興収が僅差の場合、確定後にランキングが入れ替わる場合があります。

■アダム・サンドラーのコメディ、トム・クルーズのアクションがひしめき合うも、2週目の『トイ・ストーリー3』(拙ブログのレビューはこちらから)が引き続き圧倒的な強さを見せつけた。累計興収はすでに2億2660万ドルに達しており、早くも2010年公開作の興収ランキングでは第4位をマーク。更なる躍進が期待される。

*2010年興収ランキング(6月27日現在)
1位:アリス・イン・ワンダーランド($334M)、2位:アイアンマン2($306M)、3位:シュレック4($229M)、4位:トイ・ストーリー3($226M)、5位:ヒックとドラゴン($215M)

■と言いつつも、サンドラーの"Grown Ups"は全然悪い数字ではなく、初日の金曜も手堅い興収をマーク。しんみり路線に打って出た前作"Funny People"で充分な結果を残せなかっただけに、今回は振り切れたようにコメディー勝負。脚本も自身が手掛け、監督には『ビッグ・ダディ』でも組んだ盟友デニス・ドゥーガンを起用。「アダム・サンドラー神話はまだ健在!」と関係者を驚かせた。観客の半分以上は25歳未満、53パーセントが女性。ただし批評家の反応はイマイチ。ロッテン・トマトの支持も10パーセント台にとどまっている。製作費は7000万ドル。

*アダム・サンドラー主演作ベスト5
1位:ビッグ・ダディ($163M)、2位:ウォーターボーイ($161M)、3位:ロンゲスト・ヤード($158M)、4位:クリック($137M)、5位:NY式ハッピー・セラピー($135M)

■それに対して完全に風を読み切れなかったのが"Knight & Day"だ。

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2010/06/27

ハングオーバー!

いま、二日酔いで朦朧としながら書いている。キーを打つタッチも覚束ない状態だが、この映画のことを語るにはこれくらいのテンションが実はちょうどいいのかもしれない。二日酔いの映画である。結婚前夜の新郎を引き連れて、ラスベガスにて独身最後の馬鹿騒ぎが幕を開ける。。。かと思いきや、時間は一気に翌朝へ。戦場の如く荒れ果てたスイートルームには、昨晩の出来事を一切覚えていない3人のむさ苦しい男たちと、謎の赤ん坊、バスルームには虎。そして肝心の花婿は忽然と姿を消していた。結婚式までタイムリミット僅か。彼らは記憶を取り戻し、無事、親友を結婚式へと連れ戻せるのか!?

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2009年のアメリカ映画業界において『ハングオーバー』は間違いなく、いちばんの伏兵だった。その衝撃を測り知るには個人差のある感想をしたためるより動かぬデータを持ち出したほうが分かりやすい。ドル箱の有名出演者を擁するわけでもなく、製作費も3500万ドルと比較的安価。にも関わらず、米公開時の興行成績を振り返ると、公開2週目の『カールじいさんの空飛ぶ家』をいきなり首位から引きずり降ろし、米国内だけで累計興収2億7732万ドル(これは09年公開作のうち第6位の成績)、世界興収でも4億6700万ドルに達した。もちろんこれに匹敵するコメディ作品は他に存在しなかったわけで、世間の人気と評論家の支持をピタリと同調させた本作は、その極めつけとしてゴールデン・グローヴ賞<コメディ&ミュージカル部門>の作品賞を獲得した。

不況期には巨額の製作費を計上して会社ごと沈没する可能性をはらむよりも、安価でそこそこの利益を回収できるコメディこそ好まれる。そして要となるのは、やはりまず、脚本だ。執筆を担当したのはジョン・ルーカス&スコット・ムーア(『フォー・ウェディング』『ゴースト・オブ・ガールフレンド・パスト』)。彼らのプロットは本来ならばミステリーの要素で用いられることの多い「記憶喪失」「密室」「制限時間」の3要素を、コペルニクス的発想(すみません、これ、言いすぎですね)でコメディに応用してみせる。そこで巻き起こる化学変化はミステリーで不可欠の“謎解き”の楽しみさえ観客に放棄させるくらいの、言わば“笑っちゃうくらい”の荒唐無稽さ”だった。またその全てを成立させるのもラスベガスという幻想都市が持つ危険な魅力なのだろう。

この地を舞う妖精のごとく、中盤からマイク・タイソンが闖入するのも見どころのひとつ。もう少し演技が巧かったら。。。いや下手だからこそ絶妙なリアリティが生じているのかも。対するへザ―・グラハムの女優としての可愛らしさ&潔ぎの良さも相変わらずだ。こういうキャスティングの妙が後からググッと効いてくる。そしてもうひとり、唯一飛び道具的に用いられるミスター・チョウには注意が必要。というのも彼の登場シーンには誰もが不意をつかれ、先日のMTVムービー・アワードでは"WTF(What's the Fuck!?=なんてこった!)"賞に選出されてしまった。いやあ、バカだ。本当にバカすぎる。幸福なくらいに。

すべての幕切れに用いられるちょっとした趣向にも唸った。ここ最近目にした映画の中では最も巧妙で、かつ爆笑の締め方だった。コメディはやっぱりこうでなきゃ。

すでに『ハングオーバー2』のアメリカ公開も2011年5月26日に決定。監督&キャストは同じだが、脚本は『俺たちダンク・シューターズ』(原題は"Semi-pro")や『スタースキー&ハッチ』(監督は『ハングオーバー』と同じトッド・フィリップス)のスコット・アームストロングに交代している。

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2010/06/25

ザ・ロード

断わっておくが、これは観賞後に「ああ、面白かった!」とか「感動した!」とか、すぐに感情面で答えが出せるような映画ではない。むしろ観る者が一生かけて本作の1シーン1シーンを噛みしめていくような、そして我々が歳を重ねるごとにどんどん見方が変わていくような。。。とにかく『ザ・ロード』はそんな映画なのだった。

Theroad_00
地球の状況が一変した後の近未来。すでに人類の多くは死に絶え、何もない道を父子がトボトボと歩き続けている。辺りの寒さは徐々に厳しさを増し、このままでは冬を凌げないかもしれない。彼らは生き残るために少しでも温かい場所を求めて南へ向かう。そこで遭遇する、生きるためには手段を選ばぬ人々。垣間見る人間の暗黒面。そして“正しき者”の定義があまりに曖昧になってしまった世界。彼らが辿る“絶望”の陰影はあまりに深い。

「いいか、いざとなったらこの角度で口にくわえろ。失敗は許されないぞ」

ヴィゴ・モーテンセン演じる父親は息子に拳銃の引き金の引き方を教える。それはこの世界で生きるための過酷なまでの厳しさであり、なおかつ父が子に成しうる精一杯の優しさでもある。

しかし一方で、人間にとって死とは必ず巡りくるもの。年齢的にいっても先に老いるのは父親の方で、いつしか息子に別れの言葉を告げるときがやってくる。旅立った瞬間からカウントダウンは始まっている。彼らが同じ道を共に並んで歩ける時間は短い。だからこそ父は息子に「生きるすべ」を教える。いつ自分が逝っても、この子がひとりで歩いていけるように。絶望的な世の中でも決して“灯り”を失わないように。本作の"The Road"とは、彼らのたどる死への長い長い一本道でもあり、父から子へ受け継がれる“巣立ちの授業”でもあるかのようだ。

Theroadstill2_2 
原作者は『すべての美しい馬』『ノーカントリー』などで知られ、毎年ノーベル文学賞にいちばん近い存在と言われる米作家コーマック・マッカーシー。ピューリッツァー賞を受賞した本作は、マッカーシーが高齢になって生まれた愛息の寝顔を見つめているうちに沸々と湧きあがってきた想いに基づいているという。

彼の作品ではいつも「荒野」が人生を象徴するキャンバスのように延々と広がる。それは我々の暮らす物質文明から無駄な要素を(時には感情さえ)すべて消し去り、必要最小限の条件のもとに人間の本性をじっくり浮かび上がらせていく手法のように思える。荒野ゆえ、文体はひどく乾燥している。でもだからこそ、そこで微かな湿り気をもって生まれる愛情を、読者はこれまでにない感慨を持ってじっくりと噛みしめることとなる。(原作本については拙ブログの過去記事をどうぞ)

彼らが海に辿りつく時、ラストは唐突に訪れる。このときカラッポだった心の中に一気に感情が流れ込んでくる。そして打ち寄せる波の音にかき消されるように、およそ僕らが英語の授業でいちばん初めに習ったであろうごくシンプルな会話が、静かに、神々しく交わされる。

"Nice to meet you"

この言葉がこんなにも胸に沁みたのは初めてだった。

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2010/06/23

アデル/ファラオと復活の秘薬

表現者たる者、家庭を持つと作風が大きく変わる。彼らが自分の仕事ぶりを子供にも観てもらいたいと願うのは当然のことで、そうなれば内容も下手にテーマを深刻化させた問題作よりは、子供にも充分楽しんでもらえるストレートなものがいいに決まっている。勇気や愛情を散りばめた冒険ファンタジーはその打ってつけのジャンルといえるだろう。

そしてこの男、リュック・ベッソン。近年大量生産される彼のプロデュース作品は銃火器や麻薬といった危険な要素でハリウッドのアクション領域をどんどん浸食していったが、どうやら「お父さんの仕事だよ」と自慢できる監督作として『アーサーとミニモイ』シリーズのほかにもう一本、金の鉱脈を発見した模様。それが、『アデル/ファラオと復活の秘薬』だ。

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きっと子供たちも少し大きくなったのだろう。『アーサーとミニモイ』に比べると大人も充分に楽しめる要素に満ちている。なおかつベッソンが辿ってきた軌跡が少なからず表出しており、それは“カッコいいヒロイン”であったり、パリの観光大使を自認するかのような各名所の惜しみない登場といった面々に集約される。

舞台は20世紀初頭。女性冒険家アデル・ブラン=セックがエジプト王家の墓を目指すのには理由があった。とある事故により意識を失ったままの双子の妹を救うべく“復活の秘薬”を探しているのだ。立ちはだかる追手を交わし、燃え盛る炎の中を決死の脱出。ちょうどそのころ、ルーブル美術館では展示品の卵が孵化し、中から飛び出した怪鳥がパリ市民をつぎつぎとエサ代わりについばむ異常事態が発生。怖がる市民。頭を抱える警察。ファラオと恐竜、なんの接点もないふたつが結びつくとき、アデルはひとつの大きな賭けにでるのだが。。。

この映画に影響を与えたハリウッド映画を挙げなさいと問われれば、誰もが制限時間を充分に残して、『インディ・ジョーンズ』『ナイト・ミュージアム』『ジュラシック・パーク』『ハムナプトラ』と答えるだろう。まるでファミリー映画のデパートだ。それほど本作はこれまでハリウッドに一極集中してきたものを「フランスでも作れるんだよ」と軽々と見せつける。しかもハリウッド作ならではの胃もたれしそうなチカラ技をあえて回避し、わざとストーリーをあっちこっちへと飛ばして、そのパリ市内&エジプトを右往左往する語り口によって独特のリズム感を生みだしていく。

これは自身が様々なジャンルを横断し、その撮り方をマスターしているからこそできる所業なのだろう。トータルすると随分とやわらかな、そして自由な空気に満ちた映画に思えた。手に汗にぎる興奮よりも、思わず笑ってしまう賑やかさに彩られている。

そして、これが重要な舞台となるルーブル美術館。

Paris_2

この中で巻き起こる一大事が視覚的にも楽しいんだな、これが。

ルーブルといえば、有名(悪名高い?)なのは中央にみえるガラス張りのピラミッド。『ダ・ヴィンチ・コード』でもこれについて陰謀めいた裏事情が語られるが、観客はこの『アデル』で更なる驚愕の設立理由を目の当たりにすることになるので、お楽しみに。

ほかにも、本作には今年のカンヌで監督賞を受賞したマチュー・アマルリックが俳優として登場するのだが、観客の10人に8人は彼の存在に全く気づかないのではないか(僕も資料を読むまで分からなかった)。ぜひ目を皿のようにしてご覧いただきたい。

*こうしてブログ更新しているさなか、リュック・ベッソンの新たな監督作についての情報が飛び込んできました。彼は『エネミー・オブ・アメリカ』『ダイハード4.0』のデイヴィッド・マルコーニと共に執筆したタイトル未決定のラブストーリーを自らの手で監督する模様。今年の9月よりロンドン撮影開始。今度は子供らに「愛」について教える気なのかな。。。

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2010/06/22

英国産パペット・アニメ

英国産のパペット・アニメ大作"Jackboots on Whitehall"。どうやら『チーム・アメリカ』を彷彿とさせるかなりクセのある一品の模様。

時は第2次大戦真っ只中、ケント州に住む若者がナチス・ドイツ侵攻後のロンドンからウィンストン・チャーチルを救出し、ともに難攻不落のスコットランドへ。。。とくれば、主人公の声を演じるのはもちろん、ユアン・マクレガー。

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2010/06/21

全米興行成績Jun18-20

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Jun18-20 weekend 推計

01 Toy Story3 (-) $109M
02 The Karate Kid
(↓) $29.0M
03 The A-Team (↓) $13.8M
04 Get Him to the Greek (→)$6.1M
05 Shrek Forever After (↓) $5.5M
06 Prince of Percia: The Sands of Time (→) $5.3M
07 Killers (↓) $5.1M
08 Jonah Hex (-) $5.09M
09 Iron Man 2 (→)$2.67M
10 Marmaduke(↓)$2.65M


*推計興収が僅差の場合、確定後にランキングが入れ替わる場合があります。

■ついに本命登場。全米4028館で上映の始まった『トイ・ストーリー3』(拙ブログのレビューはこちらから)が週末3日間だけで推計1億900万ドルを稼ぎ出す好スタートを切った。これはピクサー作品における前チャンピオン『Mr.インクレディブル』の7050万ドルを大きく上回る結果。金曜日にはアニメ史上最高額となる初日興収4100万ドルが飛び出し(2位『シュレック3』3842万ドル)、このまま週末興収でも新記録達成なるか、と色めき立ったが、結果、『シュレック3』の1億2160万ドルには及ばなかった。

■なお、同時期に封切られたメキシコ、アルゼンチン、中国などの国外興収4480万ドルをプラスすると、世界興収は1億5380万ドル。多くの国々では7月~8月の夏休みの目玉作品としての上映が予定されている。

■先週思わぬ伏兵ぶりで関係者を驚かせたベスト・キッド』は平日も安定した観客動員が続き、10日間の累計興収を1億625万ドルとした。製作費は4000万ドルほどというからその利益も計り知れない。一部の報道によるとソニーではさっそく続編製作に向けての検討が始まっているとか。

■一方、『特攻野郎Aチーム』は先週比46パーセントの1380万ドル。平均的な2週目興収は50パーセント落ちるので、案外底力が働いたかなという印象。10日間の累計を5000万ドル弱とした。

■DCコミック原作の"Jonah Hex"は8位と振るわず。死の淵からよみがえった賞金稼ぎが南北戦争の真っ只中に宿敵を追い詰めていくアクション・スリラー。主演はジョシュ・ブローリン。先日『トランスフォーマー3』から解雇通告を言い渡されたミーガン・フォックスも出演している。

なんとか9位に踏みとどまった『アイアンマン2』は国内の累計興収が3億ドルに到達。現時点での3億400万ドルは『アバター』(7億4944万ドル)を頂点とした歴代興収記録では33位に位置する。そしていよいよ『セックス・アンド・ザ・シティ2』はTOP10圏外へ脱落。相変わらず世界興収は順調だが、国内興収は製作費も賄えない9000万ドル。前作は1億5200万ドルも稼ぎ出しているので(製作費6500万ドル)、ちょっとガッカリ度の募る興行となった。

■週末3日間での全興収を合算すると1億9800万ドル。これはサンドラ・ブロック主演『あなたは私の婿になる』が好スタートを切った昨年の同時期に比べ31パーセント増となる。

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2010/06/20

トイ・ストーリー3

そもそも人間なんて薄情なものだ。幼い頃あんなに大事にしていたオモチャとの出逢いの場面なんて覚えちゃいないし、ましてや別れの瞬間なんてまったく意識したことがなかった。彼らは気がつくと手元にあって、そして互いにさよならも言わず、気がつくとそれぞれ別の道を歩んでいた。

Toystory3_2 
うーん、『トイ・ストーリー3』には唸らされた。もちろん「うまいっ!」の意味で。『ウォーリー』『カールじいさん』と大人の感情を激しく揺さぶるミラクルな描写を有したピクサー&ディズニーの真骨頂として、今回もやはり子供よりも大人にグッと圧力をかけてくる。テーマはごく簡単。「さよなら」なのである。

人生なんてさよならの連続だ。寺山修二のお気に入りの言葉を借りれば、さよならだけが人生だ。そして前作から11年ぶりのカムバックを果たすウッディ&バズにもその機会は平等にめぐってくる。というのも、ついに持ち主のアンディが大学進学を迎える。つまり、子供の時間はおしまい。ご主人様は一気に大人の階段を駆け上り、みんなはお払い箱になってしまうのだ。このことに気付いたときの、彼らが一気に青ざめ、あわて、おびえる姿が忘れられない。「来た。。。!ついにこの時が来てしまった!」 彼らを待つのは屋根裏行きか?寄贈か?それとも廃棄処分か?

いずれの道をたどるにせよ、今回も日常の中に驚くべきアドベンチャーとスペクタクルが出現する。そして新しい仲間も盛りだくさん。その中にはジブリ作品でおなじみのあのキャラも。他にもバービーは素敵なボーイフレンド(マイケル・キートンが声を担当)を見つけ、ビッグ・ベイビーは可愛らしさに哀愁を漂わせ、紳士的なピンクの長老グマは親身になってみんなの世話をしてくれる。。。かな?Lotso_2
このクマ、名前をロッツォというのだが、なかなかのクセモノで、きっと多くの観客の心をつかむこと間違いなし!

面白いのは、おなじみの面々が辿りつくその場所に、微かに(テーマではなく、あくまで設定上のブラックジョークとして)収容所のイメージを匂わせていることだ。これは僕の考えすぎなのかなと思っていたが、海外の絶賛評に目を通しているとやはりそのことに触れている人が少なからず存在した。マックイーンの『大脱走』、あるいはグアンタナモの記憶などもネタとして取り入れているのか。。。?

そして本作はある意味、子供たちにとっては「おもちゃの気持ちになって考える」という絶好の機会になる。とりわけクライマックスのスペクタクルを目にすると、これまでごめんなさいっ!もう絶対おもちゃを大事に扱いますっ!と厳粛な気持ちに包まれることだろう。

よくぞここまで内容を洗練させられたものだ。悲哀&笑い、幸福な脱線と修復をなだれの如く繰り返しながら、登場するすべてのキャラにそれぞれの見せ場を与えて光り輝かせていく。この脚本構成、実に見事だ。

いったい誰が手掛けたのか。。。さっそく資料に目を通してみると、まず第一稿を『ウォーリー』のアンドリュー・スタントンが執筆し、それを本格的に血肉化していったのは。。。なんと!マイケル・アーント!!

Arndt
リトル・ミス・サンシャイン』で脚本賞オスカーを手にしたあの俊英が関わっていたのだ。そりゃ面白くならないわけがない。

僕らがこうして大きくなったのは、なにも親をはじめとする人間の力だけではない。幼いころ、寝ても覚めても一緒に側にいて、手にするたびに素敵な冒険へといざなってくれたオモチャの存在が寄与する部分も大きいのだ。

上映後、自分の幼いころの“お気に入り”はなんだったっけかな?としばらく想いに暮れてしまった。

彼らに心から「ありがとう」と伝えられた人は、世の中に案外少ないと思うのだ。

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2010/06/19

ソフトボーイ

この映画の舞台は佐賀県、牛津の町だという。話は違うが、夏目漱石が留学先の英国で綴った日記にはオックスフォードのことを「牛津」と翻訳して紹介する箇所がある(コーヒーを珈琲、ハリウッドを聖林と表したりするのと同じですね)。『ソフトボーイ』を観た後にあらためて漱石の文章に触れると、彼の言う学術都市がにわかに水色の残像に彩られた風景として浮かび上がってくるかのよう。

本作は水色のユニフォームを着た部員たちが全国大会を目指す映画だ佐賀県内にソフトボール部がひとつも存在しないことに気付いた生徒が、「俺らが作れば全国大会に行ける!」と、やや強引な創部プロジェクトに打って出る。そして実際に彼らは紆余曲折を経てまんまと全国大会へと出場してしまう。これは事実に基づく物語だという。

牛津高校だけに掛け声も独特だ。

「うしづ~~ファイッ!」

「モーッ!」

これまでの人生で一度も何かに全力で取り組んだことのない高校生が、汗と涙と怒号と根性を激しくぶつけあった青春叙事詩。。。あ、それは東宝の『ルーキーズ』だった。これに対して東映はオルターナティブな戦法に打って出た。この『ソフトボーイ』はとてもマイペースな青春スポーツ映画だった。まあ、『ルーキーズ』が全国大会だとすると、『ソフトボーイ』は地方大会、いや草野球大会スケールといったところか。でも、そこにこそチカラ技ではなく日常の延長線上で観客と映画とを出逢わせるリアリティがある。

嬉しいことに、やがて本作は青春とか根性とは全く違った次元のテーマを浮かび上がらせる。つまり、誰もが同じステージで頂点を目指す必要はないのだ。彼らが数多くのスポーツの中から「ソフトボール」を見つけ、選び取ったように、重要なのは、いかにして自分の能力を発揮できるステージを見つけ出すか、ということなのだ。

非常に練り込まれた脚本だなと感心した。足場がなくフラフラ漂っているように思えて、実はこの時代の空気をしっかりと捉え、芯がしっかりしている。『ソフトボーイ』の作り手たちは実は驚くほど足腰の柔軟な敏腕選手たちなのかもしれない。

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2010/06/18

闇の列車、光の旅

南米大陸にはまだまだ語り尽くせぬ物語が眠っているようだ。『闇の列車、光の旅』は遥かホンジュラスからアメリカまで、列車の背中に運命を託した青年と少女の長い長いロードムービーである。

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心を鷲掴みにされるとはこのことだ。多くのロードムービーは解放感にあふれ、旅や出逢いの醍醐味に満ちている。しかしここでは息苦しくひしめきあった命がけの脱出劇が刻まれている。

暴力が蔓延し、貧困が生活を圧迫し、未来の展望はなかなか見えてこない。そんな暗闇のトンネルをささやかな閃光が貫くように、一本の列車がゆっくりと走り抜けていく。車内、車外にはおびただしい数の乗客たち。皆それぞれに新生活を夢見て決死の旅に身を捧げている。誰かが言う。「無事に目的地までたどり着くのはこの中の5パーセントにも満たないだろう」。そこには家族と共に故郷を後にした少女の姿があった。そして地元のギャング団から追われたひとりの青年の姿も。ロミオとジュリエットのごとく出逢ったふたりの距離は、いつしか少しずつ縮まっていくのだが。。。

『シティ・オブ・ゴッド』や『そして、ひと粒のひかり』を彷彿とさせる“激しさ”と“静謐さ”が絶妙な匙加減で登場人物の運命を彩っていく。米国内でも不法移民の問題が度々取りざたされる中、キャリー・ジョージ・フクナガ監督は実際に列車に乗り込み、人々と言葉を交わして共に旅をし、その生々しい現実を脚本に落とし込んでいったという。

そしてもう一方のギャング団についても入念な取材を重ねた。実在する組織をモデルに、その統治形態やネットワーク、敵対組織との抗争の模様についても。その期間、約2年。この執念が実ったかどうかは作品を観れば一目瞭然。フクナガ監督はサンダンス映画祭でも監督賞を受賞し、その名を一気に世界へと知らしめた。ちなみに、お気づきのとおり、彼は日系アメリカ人だ。そして本作はガエル・ガルシア・ベルナル&ディエゴ・ルナらのサポートのもとアメリカとメキシコの合作として製作された。国境なんてモノともしない。映画の製作過程からして、これはとてつもないロードムービーだったのだ。

日本で暮らしていると、本作のような暮らしにはとてもじゃないが想像が及ばない。この映画を知ることで、知らない世界にまたひとつ手が届いたような気がする。それはあくまでバーチャルな体験でしかないのだが、少なくともキャリー・フクナガ監督のような新たな才能の出現により、これらの地域の人々と世界中の観客とが映画という針で穴をあけたような“視点”を介して繋がった。これはひとつの達成と言えるのだろう。

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2010/06/15

サバイバル・オブ・ザ・デッド

『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)を皮きりにゾンビ映画というジャンルを無心になって開拓してきたジョージ・A・ロメロ監督。このカリズマも今年の2月で御歳70を迎えた。

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水木しげるが悪趣味な貸し本漫画家として長らく後ろ指さされたのと同様、ロメロのことを未だ下劣なバイオレンス・ホラー監督として不快感を露わにする人も多いだろうが、この42年間で彼が開拓してきた方法論は他のホラー作者と一味違い、それはひとえに「ゾンビを通じて社会を見つめる」という定点観測機能にある。ホラー要素を抜きにして映画を見つめると、それは驚くほど“社会派”なのだ。

そもそも『ゾンビ』("Dawn of the Dead")からして大量消費時代の象徴たるスーパーマーケットでゾンビVS人間のコミカルな攻防が繰り広げられ、最近の『ランド・オブ・ザ・デッド』では巨大な格差社会の底辺と頂点との対決が描かれ(デニス・ホッパーが頂点側の人間として味わい深く登場)、そして『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』ではなんとまあ、Youtube時代における同時多発的なゾンビ襲来を人々がどのように伝えていくか、がタイトル通りのビデオ日記のように綴られていく。まるで“ゾンビ”をアイコンに、ロメロ自身の文明観を綴るエッセイ・シリーズのようにも見える。

今回の『サバイバル・オブ・ザ・デッド』は、もうタイトルからしておかしくなっている。本来ならば「生き残るべき」は人間であって、デッド(ゾンビ)ではないはずだ。舞台は前作から一転してネットの世界など姿も見せない隔絶された島社会。そこで代々因縁の対決を繰り広げてきたふたつの勢力が「ゾンビを殺すか、生かすか」で大モメする。片方はゾンビウィルスの拡大を防ぐべく、家族でも友人でも子供でも感染者はすぐに始末する。もう片方は「彼らを二度も死なせる必要はない。教育次第では従順なゾンビになる」と言う。なるほど後者のアイディアは画期的だ。でもここに落とし穴がある。結局彼らが陥るのは、首に鎖をつけてゾンビの自由を奪うという、見せかけだけの寛大さなのだった・・・。

ちょっとだけ時代が遅かった。これを大統領選のときに発表していたら反響も大きかったろう。それにしても彼の描く世界観は時代の瞬間風速を突くとともに、普遍性をも突いている。そして観客にはだんだんとゾンビがただの生ける屍には思えなくなっていく。彼らは相変わらず手を突き出して「あー、あー」と向かってくるだけだが、その姿に投影されるのは、流行、時代性、概念、価値観において、指さされた方向へと惰性で群がっていく一般大衆である。

しかし進展もある。劇中、登場人物がゾンビの行動を見てこう叫ぶのだ。

「見た!?今のゾンビ、車を運転したぜ!そうか、彼らは学習するんだ!」

「惰性で群がる者たち」が明らかに知恵をつけ始めている。彼らはいつしか自分の足でしっかりと立ち、軽快なステップで歩を進める習性を獲得するかもしれない。そして自らの頭で考え、答えをだす。

そのときにはもう、青ざめた表情もすっかり生気を取り戻しているかもしれない。   

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2010/06/14

全米興行成績Jun11-13

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Jun11-13 weekend 推計

01 The Karate Kid (-) $56.0M
02 The A-Team
(-) $26.0M
03 Shrek Forever After (↓) $15.8M
04 Get Him to the Greek (↓)$10.1M
05 Killers (↓) $8.1M
06 Prince of Percia: The Sands of Time (↓) $6.6M
07 Marmaduke (↓) $6.0M
08 Sex and the City 2 (-) $5.5M
09 Iron Man 2 (↓)$4.5M
10 Splice(↓)$2.8M

■温故知新か、リサイクルか。注目の80年代リメイク対決に予想を覆す結果が飛び出した。ジャッキー・チェン&ジェイデン・スミス主演の新生『ベスト・キッド』(オリジナルは1984年に製作)が、推計興収5,600万ドルという高数字を叩き出し、首位を獲得。製作費は4000万ドルというからこれはかなりの利益が見込める。また客層に関しては25歳未満が56パーセントを占めるという。

The_karate_kid_photo2_8
■リニューアル版の舞台は北京。ハラルド・ズワルト監督(『ピンクパンサー2』)が従えたスタッフは560名を越え、そのほとんどが英語を解さない者ばかりだったという。師匠役ジャッキー・チェンは、かの有名なミヤギ氏ではなく、「マンションの管理人ハンさん」として登場。また彼のもとに弟子入りするジェイデン・スミスは『幸せのちから』でも注目を集めたウィル・スミスの実子だ。ウィル&ジェイダ・ピンケット・スミス夫妻は本作のプロデューサーも務めている。

■一方、苦汁を舐める結果となったのは往年のTVドラマの復活版『特攻野郎Aチーム』だ。

Ateam_3_3
『ナーク』『スモーキン・エース』など手堅いアクションを手掛けてきたジョー・カーナハン監督だが、今回は各紙のレビューもそれほど好意的な言葉は少ない。製作費は9000万ドル~1億1000万ドルと言われており、スタジオ担当者はロイターやAPにて「口コミで評判を広めていければ」と語っている。製作はリドリー&トニー・スコット兄弟。リドリーの監督作『ロビン・フッド』は今週ちょうどTOP10圏外へ脱落したところ(11位)で、製作費2億ドルに対し米国内興収はちょうどその半分(9960万ドル)しか上げられていない。財政状況、大丈夫か?

■過去3週に渡りTOPに君臨した"Shrek Forever After"は3位へ後退。累計興収は2億1000万ドルに到達した。セックス・アンド・ザ・シティ2』は8位へ退き、累計興収も製作費の1億ドルまでは今一歩及ばないものの、国外の売り上げでは今もかろうじて1位を死守している。これは世界同時公開の強みと言えるだろう。9位の『アイアンマン2』は期待されていた累計興収3億ドルにはあと一歩届かなかった。月曜日中にはゴールするかも。

■Hollywood.comによると、ボックスオフィス全興収の合計は1億5300万ドルとなり、『ハングオーバー』が2度目の首位を獲得した昨年の興収結果よりも11パーセント上昇している。

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2010/06/12

ザ・コーヴ

「日本のとある入江で、イルカの殺戮が行われている!」。かつて「わんぱくフリッパー」などのTV番組でイルカの調教師を務めたリック・オバリーが仲間と共に日本へ旅立つ。その実態をこの目で確認し、映像に記録するために。。。筆者は昨年の東京国際映画祭でこの作品を観た。現在、日本公開が検討されているバージョンとは少々異なるらしいが、大方において内容に変わりはないはずだ。

はっきり言おう。アカデミー賞でドキュメンタリー部門のオスカーを受賞した『ザ・コーヴ』は、イルカ漁の反対派、賛成派に関わらず、日本人としても見ておいて損はない。第一、我々は「日本の文化」と呼ばれるものについて知らないことが多すぎるし、たとえ「入江」で行われていたことが血なまぐさい惨劇であったとしても、それを「文化」と位置づける以上、日本人には知る必要がある。

そしてもう一点、クジラ漁にしろイルカ漁にしろ、日本は世界中の反対派からモリで突っつかれることが多いが、それらの主義主張に貫かれた『ザ・コーヴ』を通して、日本の観客は彼らの巧みな戦略を目の当たりにすることになる。僕は「反対でも賛成でもどっちでもいいさ」的な腑抜けた人間でしかないが、もしあなたがイルカ漁に賛成、日本の文化には口出しさせないぜ、という主義主張の持ち主ならば、この映画をよく見て、それに対抗し得るだけの戦略を生み出す“踏み台”として利用すべきだ。何も怖がる必要はない。

 
そもそも本作を見た限りでは「なぜイルカやクジラを殺してはいけないか?」という究極的命題は解決しない。主要人物たるリック・オバリー氏について言えば、TV番組製作の現場で過労死させてしまったイルカへの贖罪からこの運動へと身を投じた、との説明がある。イルカとの交流の途上でオバリー氏は彼らが感情を持つことを実感したという。そして一匹のイルカが見せた最後の瞬間は「自ら生きることをあきらめ、息絶えたように思えた。つまり自殺だった」そうだ。なるほど、このエピソードだけとってみても伝わる人には伝わるのだろう。でも恐らく、日本では「個人の価値観の問題では?」と一蹴されてしまうかもしれない。

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2010/06/09

クレイジー・ハート

日本公開の可能性が半ば消えかかっていた中年音楽映画が、『ハングオーバー』と同じく主要映画賞の受賞に助けられ、映画の主人公さながらの見事な復活劇で日の目を見ることとなった。

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本作で落ちぶれたカントリー・シンガーを体現したジェフ・ブリッジスはアカデミー賞やゴールデン・グローヴ賞の主演男優賞をはじめおびただしい数のトロフィーを手にした。神様が人間に、たった一度だけ最高のスポットライトを用意してくれるとすれば、それは彼にとってまさに今しかあり得ない。赤の他人にこんなこと言われても当人は困惑するだろうけど、長い俳優キャリアを歩んできたブリッジスだからこそ、その姿は映画の主人公と絶妙に重なって胸に迫ってくる。

かつては幾つかヒットも飛ばしたカントリー・ミュージシャン。いまや田舎の小さなステージをどさ回りし、アルコールでベロンベロンになりながら、昔話にでも浸るかのように演奏を披露する。かつては妻と子供もいたらしい。でも今はひとり。事務所の社長からは「新曲を書け!」と促され、その重責から逃げるようにアルコールを煽り、今日もまたベロンベロンの状態でステージに立つ。そんな彼にもとに、ひとりの女性が取材に訪れる。ふたりは互いに惹かれあっていくのだが。。。

もしも本作が「~受賞!」の冠を煽ぐことなく目の前に置かれたら、僕は正当な評価を下すことができただろうか(ひとことで地味とは決して言うまい)。それほど独特の温度と感触を持った映画である。きっと大学生のころの自分がこの作品を目にしてもサッパリ共感できなかったと思う。30代を越え、40代に差し掛かった頃から、『クレイジー・ハート』は各々の観客の心の中でムクムクと姿を現すのではないか。ジェフ・ブリッジスが全身で体現した弱さ、儚さ、周囲への不信、疎外感、孤独。若さだけではどうにもカバーできなくなった時、人はどうやって道を歩き続けられるのか。何を支えに歩き続けるべきなのだろうか。

この映画には誰一人として悪者が登場しないどころか、誰もが彼の才能を信じている。事務所の社長だって心から彼を発奮させたいと願っているし、大物ミュージシャンに伸し上がったかつての弟子(誰が演じているかはお楽しみ)も、昔のわだかまりを洗い流し、いまや自分をバネにして彼に再起を遂げてもらおうと協力を惜しまない。

つまり、可能性を信じていないのは主人公ただひとり、なのだ。その状況を彼も充分理解している。分かっているのに踏み出せない“もどかしさ”。自分の性格をよく知る善き人々が与えてくれるチャンスに巧く乗れない頑なさ。ゴールはもうすぐそこなのに、何かが邪魔してしまう。でもだからこそ、そんな心境を乗り越えて生まれてくる歌は、いぶし銀の魅力に包まれ、とても素直な優しさに満ちていた。

その歌詞はまるで反射鏡のよう。きっと観客のこれまでの人生をも投影し、感謝や贖罪、哀しみや希望といった様々な思いを去来させてくれることだろう。

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2010/06/08

パリ20区、僕たちのクラス

丸2年である。カンヌ映画祭のパルムドール(最高賞)受賞作が日本公開を迎えるまでにこれだけの月日が経過した。洋画を取り巻く景気の状況は、それほどまでに製作と公開に時差を必要としているのか。

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ただし、『パリ20区、僕たちのクラス』はそれほど待たされた甲斐のある素晴らしい作品だった。あのとき審査委員長だったショーン・ペンの賛辞はウソではなかった。セレモニーの壇上には生徒役の若者らが大挙して上がり、皆が映画とは180度ちがう無邪気な笑顔で受賞を祝福しあっていた。

どこにでもありそうな学校。クラス。そして生徒たち。冒頭で、担任の国語教師(この映画の原作者でもある)がコーヒーを一杯グイと飲み干して学校へ出勤、いや出陣する。そこはまさに生徒VS教師の決闘の場。毎日が個性と個性のぶつかり合いで、さきほど笑っていた生徒が、今はご機嫌を損ねてプイと他所を向く。しっかり手綱を引いていないと、どこにだって火種は生じる。そして教師も聖人君主というわけではない。うっかり言ってはならない一言を口にすることもある。ほんの些細な質問と答えが大議論へと変貌する。そこに、それぞれの家庭の事情、肌の色、民族の問題も透けて見えてくる。ここは言わば、ひとつの世界だ。日々うねりゆく大海原が無限に広がっている。

金八先生というわけでなく、中学生日記というわけでもなく、ただ開始のチャイムが鳴り響けば生き物のように一体化してうごめく“クラス”の存在がある。ここで醸成される空気は、クラスメイトそれぞれの表情、セリフ、仕草によって血肉化され、終始ダイナミックに対流しつづける。まるで演技とは思えない。その場の臨場感で観客を巻き込んでいく圧倒的な勢いがある。大したストーリーラインもないのに、130分間があっという間に過ぎて行った。

一見、無秩序。だが、全体を統合すると、その無秩序さえも包含して、母親の胎内のごとき安心感も見えてくる。彼らがいくら無茶をやったって、ここでは罰せられることもなければ、ギリギリの境界線を越えるまで追放されることもない。学校、そしてクラスという名の要塞が、彼らを守ってくれる。だからこそ教師とも全力でやりあえる。もう二度とは戻ってこないこの瞬間を、かれらは10年後、20年後、どう想い返すだろうか。

小生意気、かつ生き生きとした子役たちを見ながら、改めて学校という特殊な場所の記憶が懐かしく想いだされた。あそこは確かに、ある意味、聖域だったのだ。

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そう、この著者、フランソワ・ベゴドーこそ、本作の要たる国語教師なのだ。髪はちょっと薄いが、凄く顔立ちのいい人で、上映中は中堅の俳優さんかと思っていた。彼がテンパると額の筋がくっきりと浮き出て、すごくリアルだった。。。ちなみにパリを舞台にした18本の競作集『パリ、ジュテーム』では、ホラーの帝王ウェス・クレイヴン監督がパリ20区のペール・ラシェーズ墓地を舞台に面白い短編を紡いでいます。

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2010/06/07

MTV AWARDSのハイライト?

昨晩行われたMTV MOVIE AWARDS。

今年のプロデューサーは、泣く子も黙る、この人でした。

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全米興行成績Jun 04-06

先週までの復習は各自こちらで行ってください。

【Jun.04-06 weekend 推計

01 Shrek Forever After (→) $25.3M
02 Get Him to the Greek
(-) $17.4M
03 Killers (-) $16.1M
04 Prince of Percia: The Sands of Time (↓)$13.9M
05 Sex and the City 2 (↓) $12.6M
06 Marmaduke (-) $11.3M
07 Iron Man 2 (↓) $7.7M
08 Splice (-) $7.4M
09 Robin Hood (↓)$5.1M
10 Letters to Juliet (↓)$3.0M

■過去17年のうちで最も興収の低迷した米メモリアル・デイ後の週末。小粒の新作が多数登場するも、どれも知名度、評判ともにパッとしない。『ハングオーバー』がギリギリ『カールじいさん』に競り勝った1年前の興行ドラマに比べると冷え込みを感じる結果となり、ハッキリと“スランプ”と称する業界紙もあるほど。年間比較では、2010年の売り上げ44億7000万ドルは昨年よりも3.7%高めだが、これは入場料金の高騰に伴うもので、観客数的には2.7%ダウンしている(Hollywood.com調べ)。

■そんな中、首位を獲得したのは先週と変わらず"Shrek Forever After"。累計興収は1億8300万ドルとなり、3週目にして製作費の1億6500万ドルを越えた。

■2位は"Get Him to the Greek"。ジョナ・ヒル演じるレコード会社の担当者が荒くれロッカーをロンドンからLAまでエスコートする波乱劇。3位はアシュトン・カッチャー&キャスリン・ヒーグル共演のアクション・コメディ"Killers"。凄腕の殺し屋が素敵な女性と恋に落ち、平凡な一市民としての暮らしに鞍替えするも、それから数年後、ある朝目覚めると、彼のクビには高額の賞金がかけられていた。。。

■その他の新作は、6位に"Marmaduke"。お犬様が多数登場のファミリー向けコメディ。オーウェン・ウィルソン、キファー・サザーランド、サム・エリオットらがヴォイス・キャストを務めるも、不発。8位には『CUBE』をはじめ独特のカナディアン・SFホラーを送り出してきたヴィンチェンゾ・ナタリの新作"Splice"。サラ・ポーリー&エイドリアン・ブロディ演じる科学者が秘密裏に進めていたのは、人間とその他の動物の混合実験。その研究が実を結んだ日、ふたりは恐怖のどん底に突き落とされることに。。。

■4位には『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(拙ブログのレビューはこちら)。それほど目立った数字は上げられていないが、累計では5945万ドルに到達。製作費の2億ドルまではまだまだ長い道のりだが、国外興収を合わせるとようやくカバーできた頃合い。

■一方、5位の『セックス・アンド・ザ・シティ2』の元気のなさには関係者のみならず、興行成績ウォッチャーも動揺を隠せない様子。業界紙HOLLYWOOD REPORTERでは「観客は続編映画に飽き飽きしている?」という記事が掲載されたほどだ。興収1265万ドルは先週比ほぼ60%落ち。国内累計は7343万ドル。ただし国外興行ではドイツ、イギリス、フランス、オーストラリアで初登場1位を獲得するなど好調ぶりを発揮している。

■7位のアイアンマン2』(拙ブログのレビューはこちら)は累計興収の3億ドル到達にリーチ。9位のロビンフッド』は製作費の半分の1億ドル到達にリーチ。

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2010/06/05

ルンバ!

厳しさを増す一方の映画業界に、ひとりの天使、いや道化師、しかも3人、が現れた。本当に、よくぞこんな素敵な映画を見つけ出してくれたものだ。

Rumba_4 
こんな感触は初めてだった。ベルギーから届いたこの異色のコメディにはほとんどセリフが無い。言葉は無いが、アクション(動き)がある。観客は彼らのコミカルでしなやかな身体の動きに誘われて、彼らが仕草だけで交わす感情表現の渦にすっかり惹きこまれてしまう。いつもよりも10倍くらい右脳を使っている感じ。まるでバスター・キートン、ハロルド・ロイド、チャップリンら、無声時代の喜劇王たちの精霊が彼らのもとへ降り立っているかのよう。ただしここにはモノクロでなく、ポップな色彩が溢れているのだけれど。

パリで道化師になるために勉強していた3人の男女がタッグを組んで製作、監督、脚本、出演をこなした。中でもメインとなる男女(ドミニク・アベル&フィオナ・ゴードン)は実生活でもパートナーだという。それゆえコンビネーションの良さは格別だ。

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ルンバ大好きの小学校教師夫婦が、ダンス大会(優勝)の帰り路に事故に逢い、二人して二度とルンバが踊れないほどの重傷を負う。。。というお話。しかし本作は一瞬たりとも絶望を匂わせることなく、悲劇のそばからコミカルな日常を丹念に積み上げていく。笑っていいのか、哀しんでいいのか。その感情のせめぎ合いの部分で独特の浮世離れしたテイストが生まれていく。これは正直、クセになる。

しかも7月31日から東京で封切られる本作は、嬉しいことに同じ3人組の初長編作『アイスバーグ!!』(2005)も同時上映されるという。つまり日本初上陸のこの機会に、僕らは2本立てで彼らの才能の目撃者となれるわけだ。合計すると上映時間は3時間近く。これは休日の過ごし方としてあまりに幸福と言わざるを得ない。

僕は平日の試写で2本続けて拝見したが、帰りの電車の中でずっとニヤニヤ笑いが止まらなかった。それどころか終始身体がウズウズして、些細な電車の揺れにも必要以上のオーバーアクションを取ってしまう自分がいた。また、そんな自分が決して嫌いではなかった。

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ベルギー映画と聞いて思い出すのはここら辺が関の山なのだけれど、まさか『ルンバ!』や『アイスバーグ!』のような最終兵器が潜んでいようとは。。。

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2010/06/04

『イージー・ライダー』より

イージー・ライダー』に“第3の男”として登場するジャック・ニコルソンが放つ一言。
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Jack Nicholson :
They're not scared of you. They're scared of what you represent to 'em.
やつら、君らを怖がってるんじゃない。君らが象徴するものを怖がってるんだ。

Dennis Hopper :
Hey, man ! All we represent to them is somebody who needs a haircut !
おいおい、俺らが象徴してんのは、ただの髪の伸び過ぎた男だぜ。

Jack Nicholson :
Oh, no. What you represent to them is freedom.
違う。君らが象徴してるのは、“自由”だ。

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2010/06/03

マイ・ブラザー

たかがハリウッド・リメイク。しかし不思議な感慨に襲われた。トビ―・マグワイア、ナタリー・ポートマン、ジェイク・ギレンホール。彼らの顔はいつもと同じなのに、その内側から放出される人格はまったく違って見えたのだ。

Brothers_2

ベースとなるのは、北欧のスザンネ・ビア監督作『ある愛の風景』。このシンプルかつ重厚な骨格が、舞台をアメリカに変えても、驚くべき精度で機能している。

妻と娘を残し戦地へ旅立った兄が消息を絶った。残された家族の悲しみを癒すべく、デキの悪い弟は懸命にフォローしようとする。徐々に彼になつき始める幼い姪たち。そして義姉。ふたりは仄かな愛情で包まれはじめていた。そこへ飛び込んできた、兄の生還の知らせ。彼は本当に帰ってきた。以前とはすっかり心を豹変させて・・・。

かねてより「似ている!」「見間違える」と言われ続けてきたトビ―とジェイク。彼らが兄弟役を担うだけでも夢のキャスティングなのだが、そこに極めつけ、父親役としてサム・シェパードが名を連ねる。彼らの奏でる父子の和音&不協和音もじっくりと沁みわたる。

そして、子供劇団での演出キャリアを持つベテラン監督ジム・シェリダンは、『イン・アメリカ』で実証済みの卓越した子役演出を、本作でも炸裂させる。これには本当に驚いた。トビ―、ナタリー、ジェイク、それにサム・シェパードをもってしても太刀打ちできないほどに幼い姉妹たちが魅せる。それも小手先の巧さではなく、真に迫った表現力で、観客の魂を震わせる。とくにお姉ちゃん役の子は神がかり的だ。

もう一点、ジム・シェリダンといえば『父の祈りを』、『ボクサー』でも描いた母国アイルランドの闘争史を想起せずにいられない。本作にU2の楽曲が使用されていることからも、ここで扱われるアフガニスタンの戦争に、シェリダン自身はもっと普遍的な意味での憎しみ合い、殺し合い、そしてそれによって豹変していく人間の心を刻み込もうとしたのではないだろうか。

リメイクとは、オリジナルの再生産ではない。オリジナルに新たな価値を付与することである。その点においてジム・シェリダンは雇われ監督としてではなく、あくまで自身の作風の延長線上にこの映画を配置した。魂を失ったリメイクや続編映画が大量生産される昨今、この手腕に対してとめどない畏敬の念が溢れた。

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