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2010/06/25

ザ・ロード

断わっておくが、これは観賞後に「ああ、面白かった!」とか「感動した!」とか、すぐに感情面で答えが出せるような映画ではない。むしろ観る者が一生かけて本作の1シーン1シーンを噛みしめていくような、そして我々が歳を重ねるごとにどんどん見方が変わていくような。。。とにかく『ザ・ロード』はそんな映画なのだった。

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地球の状況が一変した後の近未来。すでに人類の多くは死に絶え、何もない道を父子がトボトボと歩き続けている。辺りの寒さは徐々に厳しさを増し、このままでは冬を凌げないかもしれない。彼らは生き残るために少しでも温かい場所を求めて南へ向かう。そこで遭遇する、生きるためには手段を選ばぬ人々。垣間見る人間の暗黒面。そして“正しき者”の定義があまりに曖昧になってしまった世界。彼らが辿る“絶望”の陰影はあまりに深い。

「いいか、いざとなったらこの角度で口にくわえろ。失敗は許されないぞ」

ヴィゴ・モーテンセン演じる父親は息子に拳銃の引き金の引き方を教える。それはこの世界で生きるための過酷なまでの厳しさであり、なおかつ父が子に成しうる精一杯の優しさでもある。

しかし一方で、人間にとって死とは必ず巡りくるもの。年齢的にいっても先に老いるのは父親の方で、いつしか息子に別れの言葉を告げるときがやってくる。旅立った瞬間からカウントダウンは始まっている。彼らが同じ道を共に並んで歩ける時間は短い。だからこそ父は息子に「生きるすべ」を教える。いつ自分が逝っても、この子がひとりで歩いていけるように。絶望的な世の中でも決して“灯り”を失わないように。本作の"The Road"とは、彼らのたどる死への長い長い一本道でもあり、父から子へ受け継がれる“巣立ちの授業”でもあるかのようだ。

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原作者は『すべての美しい馬』『ノーカントリー』などで知られ、毎年ノーベル文学賞にいちばん近い存在と言われる米作家コーマック・マッカーシー。ピューリッツァー賞を受賞した本作は、マッカーシーが高齢になって生まれた愛息の寝顔を見つめているうちに沸々と湧きあがってきた想いに基づいているという。

彼の作品ではいつも「荒野」が人生を象徴するキャンバスのように延々と広がる。それは我々の暮らす物質文明から無駄な要素を(時には感情さえ)すべて消し去り、必要最小限の条件のもとに人間の本性をじっくり浮かび上がらせていく手法のように思える。荒野ゆえ、文体はひどく乾燥している。でもだからこそ、そこで微かな湿り気をもって生まれる愛情を、読者はこれまでにない感慨を持ってじっくりと噛みしめることとなる。(原作本については拙ブログの過去記事をどうぞ)

彼らが海に辿りつく時、ラストは唐突に訪れる。このときカラッポだった心の中に一気に感情が流れ込んでくる。そして打ち寄せる波の音にかき消されるように、およそ僕らが英語の授業でいちばん初めに習ったであろうごくシンプルな会話が、静かに、神々しく交わされる。

"Nice to meet you"

この言葉がこんなにも胸に沁みたのは初めてだった。

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