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2010/07/06

Boy A

「あ、英語でもこういう言い方するのか。。。」 誰かがレンタル屋でこう口にした。旧作のミニシアター・コーナーでの風景である。

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英国と日本。文化や言語は違っても、過ちを犯した青少年を区別するやり方、発想は同じようだ。日本でも小栗旬主演の『is A』や君塚良一監督作『誰も守ってはくれない』など、同様のテーマを扱った社会派映画が作られてきた。

イギリス、マンチェスター。この地でひとりの青年が新しい人生を踏み出した。傍から見ると他の同世代の若者と変わらない。が、かつて彼は"boy A"と呼ばれた。十数年もの年月が経過しても、人々の記憶からあの事件のことが消え去ることはない。

ここでは誰も彼の名前を知らない。素顔も知らない。長らく塀の中で暮らしてきた彼はひどく内向的に見える。ときどき保護観察士(英国を代表する名優のひとりピーター・ミュランが演じる)と会話を交わす。「うまくやっているか?」「はい。。。」 人生は徐々に切り開かれていく。友達ができた。他人を信じられるようになった。人と繋がる術を学んだ。気になる女の子をデートに誘った。仕事で褒められた。自分の気持ちを少しずつ伝えられるようになってきた。

しかし幸福な時間は長くはつづかない。たったひとつのボタンの掛け違いによって、全ては砂の城が魅せた幻影だったかのように、無惨に崩れ去っていく。

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これは一度は社会から「悪魔の子」と烙印を押された青年が、一歩ずつ歩き方を覚え、生きていっていいんだ、前に進んでいいんだ、と少しずつ足元を踏みしめていく。その再生の日々を透明感あふれる映像で綴った物語だ。

カメラはboyAの主観に寄り添いながらも、決して彼に肩入れすることはない。事件の被害者と加害者、それを取り巻く外部、また彼らをひとしく保護するはずの法制度がそれぞれに静かに破綻していく様をじっと見つめ続ける。

ラストに主人公は街から逃げ出す。そのときの彼の気持ちはきっと、誰も自分のことを知らない地の果てにでも向かうつもりだったに違いない。でも僕はその終着地を見て愕然とした。そこはブラックプールという港町。ただでさえ狭い英国内で、そこは想像していたよりも遥かに近場だったのだ。

の心の中で精一杯に広げられた世界地図はあまりに小さかった。20歳をとうに過ぎた彼の心と身体が、まるで時が止まったかのように、哀しいほどかぼそく、ひ弱に思えた。

先日、新スパイダーマン役が決定した。『大いなる陰謀』『Dr.パルナサスの鏡』などにも出演してきたアンドリュー・ガーフィールドが数多の若手俳優よりも一枚抜きん出ていた背景には少なからず『Boy A』の存在がある。俳優としてのキャリアにおいて、若くしてこれほど難しい役に挑み、心に渦巻く不安や孤独を表現した。そしてなおかつ深刻なテーマを突き破り、透明感あふれるアート=作品に仕立て上げた。この功績は大きい。

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