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2010/07/26

フォロウィング Following

インセプション』のクリスストファー・ノーランによる初長編監督作にして、ほぼ製作費ゼロの状態で作り上げたノワール・サスペンス。全編モノクロで、本編時間も70分足らず。しかし『インセプション』を観た後にこの映画を再訪すると、ノーランが試みたかったことはこの10年間、全く何も変わっていなかったことが分かる。これらは彼のフィルモグラフィーの中でも最も結びつきの強い2本と言えるだろう。

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“フォロウィング”とは誰かの後を追ってつけ回すこと。“Shadowing”とも言う。その男はロンドンの街中で誰かの後を追っていた。警察や探偵でもなければ犯罪者でもない。彼はただの作家志望だった。職業病なのか、人ごみの中で目についた赤の他人がいったいどういう生活をしているのか、背後からついていって確かめたくなってしまうのだ。だがある時、彼はターゲットの男に気付かれてしまう。スーツにネクタイ姿のその男はこちらをじっと見つめると、ことあろうにカフェのテーブルに相席し自分の自己紹介をはじめた。名前は“コブ”。彼の仕事は留守宅への不法侵入。そして盗品を売りさばくことだった。。。

もうお気づきだろう。“コブ”とは『インセプション』でレオナルド・ディカプリオが演じた役の名前でもある。しかも両者は共に他人の領域へと侵入し、大切なものを奪ってしまうことを生業としている。しかもスーツ姿。そもそもノーラン監督は10代のころに「夢の中を舞台にした映画が撮りたい」と考えはじめ、今から10年前くらいにようやくそのアイディアが固まったという(それから具現化までさらに10年かかったわけだ)。『フォロウィング』の製作は1998年。各々の醸成にあたり極めて濃密な一滴が共有されていても何ら不思議はない。

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『フォロウィング』のコブはいつしか作家志望の男を引き連れて何軒もの留守宅へと侵入する。彼にはこの仕事をやるにあたってのルールがあった。何か高価なものを奪うのではない。むしろ家人の大切な物をしまった小箱や引き出しの中を暴きだし、バラバラと床にぶちまける。これはメッセージでもある。「お前の大切なものを垣間見たぞ」というメッセージ。他にもイヤリングの片方だけを盗みとったり、金庫の中から何かを抜き取ったりするのは映像的にも『インセプション』に通じるところが大きい。また彼らが押し入る部屋の扉になぜかバットマンの紋章が刻まれているのが、今となってみれば気味の悪いほどの明瞭な暗示に思えてくる。

そして本作の大きな特徴がもうひとつ。ノーランはこの初監督作で映画における“時間の重力”から自由になろうとする。いきなり挿入される未来の意味深なショット。時間軸を混乱させ複数の始点から同時進行的に語られていくエピソード。これらはあまりに唐突すぎて僕らは度々途方に暮れることになる。

『フォロウィング』のコメンタリーでノーランはこう語っている。当時、どれだけの人がこの主旨を解しただろう。

「映画における時間軸というものを分断したかった。物語を“3次元的”に展開するために。でもね、これは人間の暮らしの中ではごく当たり前のことだよ。実際に僕らは目や耳から飛び込んでくる断片的な情報をごく反射的に関連付けて解釈している。それらが映画みたいに時系列に沿って一直線に並んで届けられることは日常ではまずありえないからね」

この言葉に『インセプション』の夢の中が思い出される。夢の、夢の、そのまた夢、といった具合に複数の次元にてストーリーが同時進行していくその世界観。時間軸はもはや単一なエピソードの不可逆な進展を示すものではなくなっている。ストーリーはむしろ受け手の記憶の中に垂直に、層を成して堆積されていく。

ゆえに『インセプション』は3D時代の流行に動かされる必要がなかった。『フォロウィング』においてクリストファー・ノーランは早くも映画の普遍性に手を触れていたのだから。そして10年前に彼をハーメルン笛吹き男のごとくあざ笑った人たちは、10年後の今日、『インセプション』を目にすることで、彼が一貫して何を具現化したかったのか鮮烈なビジョンのもとに見せつけられたことだろう。

『フォロウィング』、それはたった70分の短い実験作にしては、あまりに貴重な一歩だったのだ。

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