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2010/07/25

ソルト

今度のアンジェリーナ・ジョリーはとにかく強い。『トゥーム・レイダー』の瞬発力よりも、『マイティ・ハート』の精神力よりも卓越した強靭さで、謎の女“イヴリン・ソルト”を演じる。運命の日が訪れるまで、彼女は優秀なCIAエージェントだった。かつて北朝鮮で拘留され過酷な尋問に耐え抜いた経歴も持つ。

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ある日、CIA本部にロシアからの亡命者が現れる。夫と結婚記念日を祝うために職場を後にしようとしていたソルトは、「ほんの25分だけ」と聴取への立ち会いを決める。そこで亡命者の男オルロフが語った内容、それは、まもなくアメリカに潜伏中の凄腕ロシア・スパイがニューヨークに現れ、深刻なテロ行為を遂行するという予告だった。しかもそのスパイの名は・・・“イヴリン・ソルト”。瞬時に同僚たちの視線が同僚ソルトへと注がれる。男の脳波は正常値を示している。どうやら嘘はついていないらしい。

優秀な分析官だった彼女にかけられた重大な嫌疑。何か大きな陰謀が動こうとしている。とっさに夫の安否を確認しようとするソルト。だが携帯電話は一向に繋がらない。と、彼女は突如、人が変わったかのような反射神経でその場を脱出する。翌日、オルロフが予告した現場にソルトの姿があった。厳戒態勢を掻い潜り、瞬く間にターゲットを暗殺。。。ついに正体を露わにした彼女は敵なのか?味方なのか?そして彼女が胸に秘めた最終目的とは、いったい・・・?

サスペンスには主人公の主観に寄り添う描き方と、あくまで客観を貫きとおすやり方とがある。『ソルト』は圧倒的な後者だ。冒頭シーンこそ主観映像で始まるものの、それ以降は神経回路をシャットアウトしたかのように、観客に全く手の内を明かさない。“共感”という最大の武器を捨て去り、あえてミステリアスなその表情と、肉体波アクションによってのみ、観る者の感心を捕え続ける。これは演出面でも演技面でもかなりのハードルの高さと言えよう。

『パトリオット・ゲーム』や『今そこにある危機』でスパイ活動や複雑な国際情勢をリアルに描いてきたフィリップ・ノイス監督。『ボーン・コレクター』でブレイク前のアンジェリーナ・ジョリーを起用した経緯もあり、彼女とのコンビネーション抜群に“イヴリン・ソルト”というキャラをを血肉化していく。驚くべきことにオリジナル脚本では主人公は男性だったという。それこそジェイソン・ボーンやジェームズ・ボンドと肩を並べる凄腕スパイとして着想していたが、ある日アンジーが「私がジェームズ・ボンドを演じたい」と本気か冗談か分からない言葉を漏らしたことで、スタジオ首脳陣は「ああ、この手があったか!」とすべての歯車を一致させたという。

ただし女性が主演となっても内容は軟化するどころか、益々ハードに書きなおされたのではと思えるほど。走行中のトラックからトラックへと飛び移り、脱出のために即席爆弾をこしらえ、銃の引き金に手をかけることにも躊躇がない。いつもの“母としてのアンジー”を印象付ける場面は皆無。今回はただただストイックだ。製作サイドのアンジーへの要求は限度を知らず、それに対して彼女のもたらす“結果”も常に予測を上回り続ける。互いの飽くなき相乗効果によってまさに女版ジェイソン・ボーンの名にふさわしい孤高のヒロインが誕生した。

また、なかなか手の内を明かさない主人公なだけに、周囲の“リアクション”もかなり重要だ。すなわち、リーヴ・シュレイバー&キウェテル・イジョフォー、彼ら2大芸達者たちの巧みな“受け止め方”あってこそ、この異色サスペンスの緊張感と揺さぶりはより堅固なものとして成立していく。

冷戦期に植えつけられた無数の卵が今ようやく孵化しようとしている。眠っていたスパイたちが世に出る時間だ。「ロシアの陰謀」というテーマは80年代のサスペンス・アクションを彷彿とさせ、時流に合っているのかどうか疑わしいが、しかし奇しくもアメリカではこのタイミングに幾人ものロシア・スパイが身柄を拘束される事件が発生した。緊張感の悪化を臨まぬ両国当局の計らいによって、彼らは互いの捕虜交換を経て母国へ戻っていったという。

そしてこの『ソルト』の封切りと同じ日、冷戦期のスパイを扱った『フェアウェル/さらば、哀しみのスパイ』という仏映画も公開される。こちらはアクションなしだが、80年代ロシアを舞台に緊迫したサスペンスが楽しめる。おススメ。

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