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2010/07/04

下校するにはまだ早い

あれは僕が高校生の頃。太田正一という男とふたりで長崎の住吉商店街を歩きながら、こっぱずかしくも将来の夢について語り合ったことがあった。そのとき自分がなんて答えたかは忘れてしまったが、太田が口にした答えだけは今でも鮮明に覚えている。

「映画監督になりたい」

彼は中学校時代の同級生だった。今では閉館してしまった長崎の映画館に何度か一緒に足を運んだこともあった(たしか『バック・ドラフト』を観たんじゃなかったかな)。嬉しいことに、二人とも故郷を離れた現在も交流はつづいており、年に4度ほど、「げんきですか?」とコメント付きの手紙が届く。モンキーバードドッグ」という二人芝居公演のお知らせだ。彼は“映画監督”ではないものの、それにほど近いところで、役者になっていたのだった。

そんな太田がショートフィルムに出演したという。しかもあの『洗濯機は俺にまかせろ』や『はつ恋』で名高い篠原哲雄監督の作品に。

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これは渋谷のユーロスペースで7月3日よりレイトショー公開される『+1(プラス・ワン)』という短編作品集のひとつだ。株式会社アプレが主催する4日間のワークショップにて、映画監督と俳優たちがそれぞれの方法論で一冊の台本と取り組み、20分~30分の作品を紡ぎ上げていく。篠原監督のほかにも、山川直人、富樫森、熊切和嘉という才能がチームを率いて作品を手掛けている。それぞれが商業映画でキャリアを築いてきた映画人であるところに他のショートフィルム企画との決定的な違いがある。

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おそらくこの出来上がった作品を観て、俳優のみならず監督らも各々の手ごたえに思わずコブシを強く握り締めたり、地団駄踏んだり、ライバル監督の思わぬ出方に純粋に祝福の拍手を送りたくなったりもしたことだろう。たった20~30分でも、それぞれのチームの間合いや結束、ゴールに据えたポイントなどが色濃く浮かび上がる結果となっている。

なかでも『下校するにはまだ早い』は篠原監督らしいキャラクターの機微を捉えた群像劇として楽しめる。舞台は小学校。冒頭から狂言回しのごとくスポーツ用品店でオバサンたちの会話劇が繰り広げられ(この導入部のナチュラルさが、絶対に新人には真似できない匠の域なのだなと想い知らされた)、ここを始点として動線が学校へ、その内部へと伸びていく。

Gekou
これは生徒が一人も出てこない学園モノだ。

登場するのは学校教師、PTA役員、用務員、校医、選挙運動中の若手議員候補ら。彼ら大人たちが文化祭準備のために学校へ集い、それぞれの持ち場でショットのパスを繋いでいく。そもそも地元の小学校というやつにはあらゆる可能性の魔物が棲んでいるらしい。自分の担任する生徒の母親がかつての同級生だったり、校長と父兄とがかつての部活動仲間だったり。。。。

こうしてテーブル一杯に広がった相関図が一気に複雑化していく。かつての学び舎を巣立ってから数十年、彼らは自分らが「おじさん」「おばさん」と呼ばれる域に達したいまでも、こうして学校に集えることが嬉しくてたまらないようにも見える。大人になった今、下校時間など存在しない。時間無制限に彼らの糸は絡まり合い、また終幕に差し掛かると魔法のようにスルリとほどけ、何事も無かったかのようにそれぞれの生活へと舞い戻っていく。

「青春とは心の持ち様である」とはサムエル・ウルマンの有名な言葉だが、そんな歯の浮くような理念をこれらのシチュエーションと映像はいとも簡単に抽出し、体温を持って現前化させてくれる。あ、そうそう、例の太田正一は五反田先生という名前を与えられ、人懐っこくも裏心もたっぷりとありそうな役どころを熱演していた(山手線の五反田、そのまんまのイメージだ)。どんな学園モノでも彼のようなキャラは“滞った空気を前に動かすキャラ”として必ず登場する。彼の笑顔を見てホッと和んでしまうのは、今も昔も全然変わらない。

『+1』からもうひとつだけ作品を挙げるならば、熊切和嘉監督の『鶴園家のめまい』が鮮烈だった。

Turu

『鬼畜大宴会』や『ノン子36歳(家事手伝い)』といった一筋縄ではいかない作品で観客を魅了する熊切テイストは、たった25分の本作でも健在だった。かつて自分らを捨てて家を出た母親が死んだ。その葬儀に参列した兄妹。過去の恨みは募る。「信長みたく灰をぶちまけてやりたかった」と語るふたり。でもできなかった。焼香後にビールを一杯やりながら、周囲から聞こえてくる会話。噂。生前の母は空気の読めない女だったらしい。なにしろ重たい雰囲気の中で突如としてドジョウすくいを踊り始め、見かねた夫が平手で殴ると、そのまま逝ってしまったというのだ。。。

モノトーンにも近い色調が葬儀の重苦しさを助長する。タバコの煙が幻想性を増し、アルコールによる澱んだ目が正気と異常の境界線のあやふやさを印象付ける。人々の目線が突き刺さり、言いたいことも言えず、そのまま立ち去ってしまえばもう二度と会うこともないであろう人たち。彼らは一色即発を迎える。が、そこで抱えた火種は思わぬマジカルな演出によって狂おしいまでの熱気と情熱、つまり葬儀という湿り気の高さを吹き飛ばす溢れんばかりの祝祭性となって辺りを呑みこんでいく。このラストにグッときた。世の中にはあまた商業映画の類は溢れているけれど、このラストを見逃さなくて良かったと思った。

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