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2010/07/14

シュアリー・サムデイ

小栗旬による初監督作。20代の若さにして、しかも映画を専門的に学んできたわけではないのに、このようなビッグ・プロジェクトを任せられる才能。これはもはや出資側が、演出の腕よりも、小栗旬というブランドそのものに投資したのだと考えていい。「いまの若さで、お前に出来ることを全てやってみろ」 まるでそう言われてバッターボックスに送り出された選手。そのオーラだけは今にもホームランを打ちそうな凄味に満ちているわけだが。

恐らく本作の公開日は、小栗旬にとって人生で最も達成感に満ち溢れた一日であると同時に、自らが課した重責を噛みしめる日にもなることだろう。あなたは彼のマイルストーンにどんな評価を下すだろうか?

本作はかつて高校時代に爆破騒ぎを起こした問題児たちが、数年後、マフィアが絡んだ現金強奪事件に巻き込まれていく物語である。彼らは事あるごとに挫折感に苛まれ、そこからの逃避か、あるいは開き直りのパワーを得るために、幾度も「バカだから仕方がねえ!」と口にする。なおかつこれがテーマのひとつにも据えられている。この言いわけ染みたセリフも一度目までは「免罪符」として耳心地よく笑いを誘う。だが、二度目、三度目となると明らかな虚しさが漂い始め、耳にベッタリと重油のぬかるみが及んでくる。そして登場人物たちもこの言葉の有効期限にはとうに気づいているようにも思えるのだ。ゆえに彼らの表情には焦燥感が滲む。象徴的な面で言うと、すでに冒頭にて時限爆弾が炸裂した時点で「バカ」は終焉を迎えているのかもしれない。とするとこれはロスタイムの映画ともいうことになる。

なるほど小栗旬監督はこれを、中盤に登場する“路上ライブ”でも開くような心意気で、同世代の若者たちに向けて渾身の力で放ったのだろう。しかしこうして受け手が限定されてしまうと、テーマが思わぬ具合に反転する場合がある。「若いころにしかできないバカ」を限定的に描くことは、暗に「若さを過ぎると生真面に生きざるを得ない人生」を描くことにも繋がってくる。これが少なからぬ“若くない観客”にとっては閉そく感となって圧し掛かってくる。普通ならばここで「理解のある大人」キャラを仲介役に作品の風通しを良くするのだろうが、本作の製作陣と小栗旬は自らその退路を断ったのか、ここに出現するのはほんとうに「若者による若者のための映画」なのだった。

ただし、良いところもたくさんある。生来の映画人ならば安全圏でこじんまりとした作品を作りがちなところを、思わぬスケールの大きさで揺さぶりをかけていく肝っ玉のデカさには驚かされたし、蜷川幸雄の舞台で出逢ったであろう実力派の役者を幾人もフィーチャーしている点にも目を惹かれた。とりわけマフィアのボスを演じる吉田鋼太郎には注目だ。これまでに見たことのない不気味かつ軽妙な立ち振る舞いにはついつい魅了されてしまう。

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