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2010/07/05

ビルケナウの草原

アウシュヴィッツとビルケナウは一緒に論じられることが多い。『シンドラーのリスト』や「白い巨塔」に登場したこの建物は、精確に言うと、ビルケナウ収容所にあたる。ここはユダヤ人をはじめとする収容者をいかに効率よく始末するかに心血の注がれた“絶滅収容所”である。
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正直、暑さで朦朧としていた。

草原のように拡がった大地に日差しを遮る物など存在しない。皆が顔を紅潮させながらせっせと歩いていく。僕も必至についていく。

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掘っ建て小屋のような収容所が無数に並ぶ。「負の世界遺産」として入念に補修を施されているとはいえ、これらの建物が70年近く経った今も変わらず残っていることに驚かされる。

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その中のひとつに足を踏み入れてみる。アウシュビッツと違い、こちらは室内でも写真撮影可能だった。
といっても画像のように屋根からはガンガンと日差しが降り注いでくる。これって一体どんな構造になっているんだろう?これで雨風しのげていたんだろうか?

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祭壇のごとく花輪や十字架がたむけられている。無数に並んだベッドが奇妙な角度で傾いているのがおわかりだろうか。この1スペースにつき3人~5人の囚人が割り当てられた。ここに複数人が並んで横になると、次第に身体が重力に従って傾斜していき、互いに覆いかぶさるような状態になる。これは囚人たちに“安眠”を与えないための策だったという。これもナチスの言うところの“効率的な死”に向けての有益な一手だったのだろうか。。。ひとつの大義名分のもと、人間が人間のことを“物”、あるいは“家畜”、それ以下と捉えて業務にあたっていた事実が、こういう細部から恐ろしいほど伝わってくる。

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中央の門を通じて、引き込み線が延びてくる。かつてヨーロッパ中で捕えられたユダヤ人、ロマ・シンティ、それに同性愛者や政治犯などが列車にすし詰めの状態でこの場に運ばれた。

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ここが終点である。

怒号と共に下車させられると、機関車が蒸気を吐き出す側から、性別、年齢、体格などの基準によって瞬時に「選別」が開始された。強制労働に使えそうならば右、使えなければ左、といった具合に。

選別者はとりあえず「医師」なる資格を持つものの、恐らくこれらの識別には専門的な知識など微塵も使われなかったことだろう。

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ガイドが遠くの方角を指差して「あれだ」と言う。ガス室があった場所のようだ。

今では瓦礫の山が見えるだけだが、これらはドイツの敗色が濃厚となりナチスが逃走を企てる際、大量虐殺の証拠を隠滅するために大方を爆破してしまったことによる。彼らは“いま”だけでなく“その後”を心配する余裕さえあったのだ。そのことに身が震えた。

大量虐殺なんててっきり感情がどうかしなければできないものだと思っていたが、人間はかくも残虐なことに手を染めるとき、心の奥底に極端なほど冷静な自分を併せ持っているらしい。よくは言い表せないのだが、アウシュヴィッツとビルケナウでそのことを、極限まで機能性を追究した人間の冷静なまでの残虐さを、無言の大地から垣間見た気がする。

はたして、この当時、もしも自分が体制下の人間であったなら、いったいどのような行動を取り得ていただろうか。考えたくもない思いが、ずっと頭の中を逡巡しつづける。

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ふと、さっきまで真っ青だった空に分厚い雲が食いついた。ポーランドの天気は変わりやすい。眩しかった太陽が顔をひそめ、辺りをくっきりとした陰影の世界が覆いはじめる。

このとき目にした鉄線のシルエット。

なにか絶対に越えてはいけない人間性の一線のように思えてならなかった。

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