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2010/07/08

インセプション

2010年最大の謎とされるこの作品がついにベールを脱いだ。
筆者が日本での完成披露試写前に目を通したのはEMPIREのレビューのみ。そこには「『マトリックス』に『脳内ニューヨーク』を掛け合わせたかのような。あるいはチャーリー・カウフマン版の007」と記してあり、観賞後に心地よい疲労感と共にクレジットを眺めながら、この言葉は的を得ているなと感じた。

Inception_poster1

以下、レビューである。事前になるだけ情報を仕入れたくない主義の方は今すぐご退去願いたい。かといって、『インセプション』はM.ナイト・シャマラン映画のように何か大きな種明かしを抱えているわけでもなく、例の「結末は絶対に明かさないでください」「全米公開までいかなるレビューも公開しません」といった契約書にサインさせられることも一切なかった。製作・配給側にしてみれば「できるものなら言葉で表現してみろ」といったところだろう。

要は『メメント』で“時間”をステージごとに分割して逆回転させてみせたクリストファー・ノーランが、今度は“夢”についての更なる突飛なアイディアを『ダークナイト』級の映像力でもって抽出してみせた作品である。

ここで作り手がフロイティアンであれば「夢判断」のごとく徹底して性を絡ませた表現が続くと思うのだが、さすが万人に開かれたエンタテインメントなだけに、ノーランは「アクション」でこの物語を紡ぐ。かといって決してターセムの『ザ・セル』のように、いわゆるグロテスクなダークサイドに陥ることもない。

とある闇ビジネスがあった。彼らはターゲットの夢の中へ侵入して、アイディアを奪う(これを“エクストラクション”と呼ぶ)。その世界の立役者コブ(ディカプリオ)はアーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)と組んで企業間のスパイとして暗躍する一方、とある事情により妻や子供たちと離れた暮らしを余儀なくされている。ある日、サイトウと名乗る日本人の男(渡辺謙)が彼らに仕事を依頼してきた。ライバル企業の新たな経営者(キリアン・マーフィー)の夢の中で“インセプション(記憶の植え込み)”を行ってほしい、と。提示された条件はコブに取って願ってもないことだった。このミッションを成功に導くには最高のチームが必要となる。まず重要なのは夢内部の設計士だ。コブはさっそく優秀な建築学部生(エレン・ペイジ)に声をかけ、どんな創造性をも具現化できる“夢の世界”の設計をトレーニングしていく・・・。

だいたいこのあたりまでで30分くらい。このあと本格的にノーランの創造力が静かに爆発していく。ここで僕らは不思議な現象に直面する。これまでの映画が時間の経過に沿って一本の線上に体を成していくものなのだとしたら、本作はなんというか、層を成して堆積していく映画といえそうだ。というのも、彼らは夢のまた夢。。。といった具合に複数の層にまたがってストーリーを同時展開させていく。また、時間の進み方は夢の層ごとに違う。上層の一瞬が下層では数十分、数時間に引き延ばされる。またその最下層には“虚無”と呼ばれる世界も広がっているらしい。これがノーランの作りだした夢の世界、人間の内的宇宙。観客はこの新種のストーリーの展開法にズッシリと脳負荷をかけられながら、このパラレルなジェットコースター・ムービーに浸ることになる。

一体全体、こんな複雑な物語をどうやって具現化していったのか。言葉では全くもって理解不能なものが映像世界ではいとも簡単に理解できる。そこがノーランの凄いところだ。

劇場を後にするとき、「難しすぎた」「あそこが分からん」「半分以上寝てた」なんて声も聞かれた。確かに人によっては好き嫌いが分かれるかもしれない。ノーランが同じストーリーを『メメント』級の低予算で撮ると一風変わったアートな質感が生まれただろうし、またこういう作品を得意とするミシェル・ゴンドリーが手掛けたりするとまた家内制手工業的なガラリと変わった世界になったことだろう。

僕もこの映画についてどれだけ理解できているのか分からないが、別に“夢”に限定することもなく、この『インセプション』の世界観は日常のあらゆるところに出現するものだと思う。人間の思考だって複数層に分かれて高速度の演算を繰り返して答えを割り出すものであるし、会社の組織の在り方にしても様々な層において同時進行的に動きがあり、その相互関連性によって結果が案出されていくもの。それこそ大企業ほどのスタッフ&キャストが一斉に創造作業に取り組む映画作りもその最たるものだ。クリストファー・ノーランの脳内では『インセプション』の世界がごく日常レベルで起こっているのかもしれない。

『マトリックス』の全米公開から10年以上が経過し、僕らを取り巻く時代もようやく一巡した。でもバーチャルな世界がより促進されるかと思いきや、どうやら作り手や観客は科学技術の発達に輪をかけて“生身の人間”そのものにこそ熱い視線を注いでいるようだ。

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