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2010/07/29

ちょんまげぷりん

ちょんまげ姿のその男は、どうやら江戸時代からタイムスリップしてきたようだった。昔の名残のない東京の街並みに呆然と立ち尽くす彼を、シングルマザーとその幼子は放っておけなかった。かくして始まった奇妙な居候生活。といっても、江戸も現代も“ギヴ&テイク”の理念は変わらない。お侍も意を決してこう宣言する。

「拙者がすべての家事を引き受ける!」

何かと凝り性なこのお侍、炊事洗濯から幼子の送り迎えまで何でも完璧にこなしてみせる。とりわけ心底入れ込んでしまったのが、お菓子づくり。近所の奥さま方の間でも「パティシエ級の腕前!」と大評判になるのだが・・・。

ストーリーラインを聴くと一見ドタバタコメディのように思える。が、中村義洋監督(『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュストーリー』)はこの“ありえない”ファンタジーを、人間の自然な感情に寄り添った、落ち付いた語り口で描いていく。冒頭、「東京の街中に、お侍さんがポツネン…」という異様な光景を、この映画は“笑い”で向かい撃たず、むしろ錦戸亮の哀愁に満ちた表情でシックリと馴染ませる。この地点において、観客は肩の力が抜けていくのを感じる。この映画を外野から観戦するのではなく、もっと内部で、彼ら疑似家族の成長を温かく見守っていこうと心に決めるのである。

お侍さんの直面する“現代”とは“江戸”の勝手とは随分違う。身分制度、男女関係、仕事の領域といった概念を180度回転させて、彼は健気になんとかこの時代に馴染んでいこうと努力する。また、ともさかりえ演じるシングルマザーの奮闘も胸を打つ。彼女が度々口にする「昔と今では違うんですよ」というセリフが反射して、逆に自分こそ結婚生活に「こうでなきゃ」と囚われていたことに気づく場面も見事な感情の揺れで演じきる。

一見、ウェルメイドな作品なのだが、その実、現代を取り巻く様々な要素がこの一本に込められている。それらが決して説教くさくならず、すべてを「ちょんまげ」+「ぷりん」が巻き起こした化学変化として観客に委ねている点、ここが好感触。ちなみに、主演陣に追いすがろうと後半よくわからない活躍を見せるキングオブコメディの今野浩喜もシーンを重ねる度にどんどん良くなっていく。お笑い芸人のアビリティとその可能性を引き出す演出術に感心した。

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