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2010/08/13

ベスト・キッド

驚いたのはその上映時間だ。なんと140分。果たして、いじめられっ子のシンプルな大逆転ストーリーにそんなにも長時間が必要だろうか。。。いや、必要だったのである。これは『ベストキッド』(89年)の骨格を残しつつも、『北京バイオリン』と天下一武道会のエッセンスをプラスして、なおかつその最上段にジャッキー先生の枯れた魅力をも鎮座させた中身の濃いエンタテインメント。また、これらを通して観客がどっぷりと北京の街をバーチャルトリップできるのも嬉しい限りだ。

Karatekid_2

カンフーとはつまりダンスである。コレオグラフィー。序盤は一方的な攻撃(つまり、いじめ)が続き、アクションが不協和音を奏でる。が、鉄拳制裁に対しジャッキーがいざ応戦状態に入ってからは突き、蹴り、跳ね、構えにすべてリズムとハーモニーが生まれ、澱むことなく流れていく。そうそう、この感じ!これこそ僕らが生まれて最初にジャッキーを見て驚き、瞬く間にトリコになってしまった原体験だ。

でも、この映画はカンフーだけじゃない。それ以上に演技の部分で心に沁みる。それぞれのキャラクターが抱える孤独を、その痛みをあからさまに強調するのでなく、それらが他の何かで補われ、キャラクターの表情に少しずつ変化を灯していく過程によって巧みに描き出すのである。

それこそ見どころはジャッキーである。こんなにも無口で、なおかつ枯れに枯れてドライフラワーのようになったジャッキーがあってよいのだろうか。『新宿インシデント』ではカンフーを用いない生身のジャッキーが話題になったが、本作では強さと共に大きな弱さを併せ持ち、期せずしてジェイデン・スミスを弟子として迎えることによって、心に秘め続けてきた想いがようやく鏡面的に浮かびあがっていく。

ジェイデンとジャッキーはまるでふたつでひとつの魂のようだ。ジェイデンを見つめることはジャッキーを見つめることでもあり、そして逆もまた真なり。ジェイデンが上着を拾い、ハンガーにかけ、はずし、着て、また地面に落とす。それは何も彼だけの基礎トレーニングではない。そのときジャッキーも確実に心の中でその動作を反復し、それによって鍛えられる心の筋肉がいつしか彼自身を孤独から解放していくのを肌を持って実感しているのだ。

だからこそ、ジェイデンが武道大会で勝ちあがっていくたびに、まず最初にジャッキーの表情に目が行った。最初はあんなに塞ぎこんでいた彼が今では諸手を挙げて全身全霊で友を祝福している。その無邪気なまでの変貌ぶりを目の当たりにしてはじめて、彼が長らく失っていたものの重さに気づかされる。幼いころから絶対的なヒーローだったはずのジャッキーに、こんなにも胸を突き動かされたのは本当に初めての経験だった。

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