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2010/09/06

トラブル・イン・ハリウッド

映画業界の暴露モノとしては最高に楽しく、哀愁に満ち、なおかつリアリスティックでさえある。00年以降、これといった業績に恵まれていなかった俳優ロバート・デ・ニーロにとって、『トラブル・イン・ハリウッド』(原題"What Just Happened")は久々の快心の作といえるのではないだろうか。

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ハリウッドとは世界で最も華々しいステージでありながら、その水面下では息継ぎするのもままならないほどの終幕のない苦悶の日々が続くところ。ここで生き抜けるのは相当ずぶとい神経の持ち主か、専制君主、あるいは安定剤とセラピーとでみっちり自己コントロールできている人に限る。そして今日もまた、同業者がひとり首を吊ったとのニュースが日刊業界紙で瞬時に拡がっていく。明日は我が身。出資者、映画監督、製作会社、映画スター、それに別れた妻への未練なども盛り込み、敏腕プロデューサー、ベンの断崖絶壁&孤軍奮闘の一日が今日もはじまる・・・。

往年のデ・ニーロといえば“デ・ニーロ・アプローチ”の名でも有名なとおり、肉体から魂の髄までその役柄に成りきる俳優術について取りざたされることが多いが、本作『トラブル・イン・ハリウッド』ではそれとは真逆の、これほどリアルなデ・ニーロは他にないのではないかと思えるほど、実生活でも映画製作者、映画祭運営などに携わる彼の苦しい胸の内が沁みだしてくる作りとなっている。そもそも本作の製作をも担う彼にとって、ここで描かれるあらゆる情景は“本当にありえたかもしれない”エッセンスに満ちているのだろう。(ただし、これほど近い境遇であっても自分と切り離し、やっぱり列記とした演技アプローチを仕掛けてくるのがデ・ニーロの術なのだが)

現在、世界的に映画会社の倒産、買収、合併などが相次いでいる。それらのドラスティックな光景を、フランスでは『あの夏の子供たち』が詩情豊かに描き、またハリウッドでは本作のようにシニカルなコメディとして想いが綴られる。だが両作品に共通して感じたのは、映画のためにボロボロになりながら奔走し散って行った多くの人たちへのレクイエムの奏でだった。

映画は作品で勝負、と人は言う。確かに、観客を魅了する映画にはその背後に立つスタッフの気配を忘却させる力がある。ひとつの創造性の発露のために、彼らは消えるために、立つ。亡霊のように。

僕が感じたレクイエムとは、実はどんなに些細な映画作品にだって聞こえる、ある種の通奏低音なのかもしれない。

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