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2010/09/03

イリュージョニスト

友人の結婚式のために帰郷した際、滞在先のホテルの朝食ルームでなぜか映画の話題がチラホラと漏れ聞こえてきた。「昨日、テレビで変な映画を見ちゃった」「ああ、あのアニメでしょ!おばあちゃんが自転車で走るやつ!」 彼らの会話の中心には夜中にたまたま放送していた『ベルヴィル・ランデブー』の存在があった。そして僕もまた、夜中の3時近くまでテレビの前でその映画の釘付けになっていた張本人だった。翌日に友人代表の大事なスピーチが控えていたにもかかわらず。。。

そのシルヴァン・ショメー監督が描く最新アニメーション『ザ・イリュージョニスト』。期待が高まらないわけがない。イギリス滞在の最後の日にミニシアターに足を運ぶと、お年寄りから子供まで大盛況の客入りだった。各紙のレビューでも絶賛に次ぐ絶賛。

Illusionist

1950年代、パリの劇場で幕を開ける。ひとりの老奇術師が観客の前に立ち、ひと昔の芸風で失笑を買っている。興行主からは「もうこなくていいよ」と告げられ、彼は新たな劇場を探して英国へと旅立つ。しかし軽音楽が大流行のロンドンでもまた観客の相手にされるはずもなく、彼はキングス・クロスの駅から列車に乗り込みどんどん北上していく。そこでたどり着いたひとつの田舎町。ひとりの少女。次々に技を繰り出す老奇術師を本当の魔法使いだと思いこんだ彼女は、旅立つ彼の後をこっそりついていくのだが。。。

ジャック・タチの脚本をもとに形作られた本作、実は劇中にコミュニケーションが成立するような台詞が一行たりとも登場しない。すべてを動きと音だけで伝え、それによって言語を越えたところに芽生える老奇術師と少女との絆、奇術"illusion"が放つ残り香、消えゆく時代への哀愁といったものをより鮮明に浮かび上がらせている。

奇術師は少女の耳元からサッと硬貨を取り出す。少女はそれを真実だと思いこんで大いに喜んで見せる。あの赤い靴も、白いコートも、あれもこれもと指をさす。奇術師はその願いを叶えてやろうと懸命になって奔走する。

はたして彼らの末路は幸福なのか、不幸なのか。世の中どんどんillusionが消え去っていく。信じる心も失われている。奇術師が少女に渡した手紙に書かれていた言葉は、50年代のみならず、今の観客の心をも大きく揺さぶるものがある。

奇術は奇跡ではない。事実を異なった角度で見つめる行為に過ぎない。映画もまた然り。1秒間に24コマの静止画が目の前を通り過ぎていくことによって、残像のイリュージョンが積み重ねられていく。たかが虚構。だがそれらが映し出されている間だけは、観客もその世界の法則にどっぷりと身をゆだねているのも、また事実。

クライマックス、消えゆくネオンの灯りと共に、真っ暗になる。しかしこれが奇術に付き物のワン・ツー・スリーのカウントだと考えればどうだろう。

「スリー」のあとに映画の幻は確実に消え去る。しかし、観客の心の中には瞬間移動を遂げた宝物のように、この映画の記憶がどっしりと残っている。どんなに時代が変わろうとも、この不思議だけは唯一信じられるもの。そう思いませんか?

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