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2010/10/25

【レビュー】ジャック、舟に乗る Jack Goes Boating

今年も冬が始まる。春になって、もう少し温かくなったら、好きなあの女性と一緒にボートに乗りたい。でも、そのためにはまず、泳げるようにならなくちゃ。。。かくしてNYに暮らすハイヤー運転手ジャックの水泳特訓がはじまる。

東京国際映画祭にてフィリップ・シーモア・ホフマン主演&初監督作"Jack Goes Boating"を観た。それは慎ましく、愚直で、身につまされ、ちょっとだけ励まされる、30代、40代へのささやかな応援歌だった。

Jackgoesboating_2 
フィリップ・シーモア・ホフマンの初監督としての腕は、取り立てて洗練されているわけでもなければ、技巧に走るわけでもない。そこに広がるのは背伸びも誤魔化しもない、まさに等身大のジャックの日常。まるっきり無添加、無香料のホフマンの世界だった。

水泳指導を買って出た親友は、ジャックと共にプールに潜り「水中ではしっかりと目を見開くんだ」と言う。だらしなく突きだしたお腹を持て余しながら、ぶくぶく泡を立て、ぐほぐほとむせ返る。それでもジャックは必死に目を開こうとする。水中でそうしている間、喧騒は遮断され、世界はとても穏やかだ。それは巧くいかない自分の人生を水泡ごしに見つめる訓練のようでもある。目を閉じずに、ゆっくりと。それができて初めて次は「前に進む練習」へと移っていく。

自分の人生には何が必要で、今自分はどこに向かっていけばいいのか、また何を越えるべきなのか。これらの命題にレゲエのサウンド、あと友人たちのささやかな祝福が備わったなら、その後の結果がどうなろうと、その時点ではとりあえず、無敵なのかもしれない。この人生の第一歩ともいうべきクライマックスのドタバタを本作は戯曲の映画化らしく、室内の濃密な会話劇として抽出してみせる。

様々な情景にメタファーが香る。レゲエだってそう。ジャックは「レゲエの歌詞は分かりにくい」と言うが、「聞いてるうちになんとなく分かってくる」とも口にする。冒頭の「お前はラスタファリアンか?」との問いを後でもう一度繰り返したなら、ジャックはいつか「うん」と答えたかもしれない。NYの真ん中で立ち往生する彼が、なぜかレゲエの魂と近似値を取って歩みを進めている。その組み合わせが実に微笑ましい。きっとラスタファリズムとは世界の至る所に自然発生するものなのだろう。その中で歌われるメロディアンズの“バビロンの河”だって、世界中の至る所に。

相手役のエイミー・ライアンは『ゴーン・ベイビー・ゴーン』の悪母役や『グリーン・ゾーン』のジャーナリスト役とはまた違う役回り。目の鋭さから中年女性としての本音と建前のほとばしる彼女が、本作ではちょっと穏やかで、一筋縄ではいかない不思議ちゃんぶりを振りまいてくれる。

間違っても10代、20代が心酔するには夢がなさすぎるし、『クレイジー・ハート』みたいに枯れて初めて真意が体得できる映画とも違う。"Jack Goes Boating"は30代、40代の、ちょっと若さが立ち行かなくなった男女が初めて嗜むクスリのような。いや彼らが揃って挑戦する危険な水タバコのような。

そんな存在かもしれない。

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