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2010/10/25

【レビュー】サラの鍵 Sarah's Key

ジャーナリスト出身のタチアナ・ド・ロネによるベストセラー小説が映画化。トロント映画祭でお披露目された本作は早くもワインスタイン・カンパニーによって米配給権が買いつけられた。そしてこのたび、東京国際映画祭コンペティション作品として日本の観客のもとにも到着。マスコミ上映ではあちこちから絶えずすすり泣きの声が聞こえていた。

Sarah_s_key 
それはドイツでもポーランドでもオランダでもない、フランスで起きたユダヤ人迫害事件。それも当時のフランス政府による措置だった。居住区の一斉検挙により競技場への移住を余儀なくされたユダヤ人家族。その娘サラの機転で、幼い弟の命は助かったかに思われた。が、その後の出来事が彼女の心に生涯拭い去ることのできない大きな悲しみを残すことに。

そして現代。ひとりの女性記者ジュリアがこの一連の迫害事件を追いかけていた。そして彼女が今まさに住もうとしているこの部屋に関する、思いがけない事実を知ることになる。

本作はサラとジュリア、人種も時代も違うふたりの女性の動線を交互に追いかけていくミステリーだ。当時のフランスでこのような事件が起こったのかと震撼させられると同時に、少女が咄嗟に下した決断、その後、少女が「鍵」をめぐる事実と直面した時の衝撃には誰もが心を震わすことだろう。またこんな暗黒の時代であっても人々の人間性は完全には枯れ切っていなかったことを、随所に、砂漠に湧いた一滴の水のごとく微かな潤いでもって感じさせくれる。

だが、本作における本当の「鍵」はまた別のところにも存在した。それは過去の真実を解き明かしたいとする現代からの視点であり、歴史という名の巨大で分厚い扉を押し開こうとする、記者として、女性として、母としての強靭な意志そのものである。

中盤以降、サラの消息を追うことは困難を極める。それに彼女には謎の部分も多い。それらが本作で完全には明かされないのは、登場人物の誰もが彼女の心理や彼女の人生の一回性を正確に把握することなど困難だからだ。

しかし後からその記憶の糸を地道に手繰り寄せていくジュリアには、それに代わる自分自身の一回性の経験と人生を持ち合わせている。時代が違えども、彼らは同じ人間であり(サラとジュリアは同じ女性でもあるし)、片方は他方のもうひとつの可能性と捉えることもできる。いまこうやって胸を痛めている想いを、かつてサラも同じように抱いていたかもしれない。そうやって他人という垣根や隔たりは突き崩される。そうやって過去と現在、人と人とは繋がっていく。

こうした想いが深まることによって人間が人間を物や家畜以下に扱ったあの時代を繰り返すことも、ましてや現代人が想像力を遮断して当時のあらゆる人たちを無条件に「悪人」と決めつけることも無くなるのだろう。すべての現在は過去からの連続性のもとにある。その原理を深く心に刻んでくれる名作が、またここにひとつ誕生した。それを可能にしたあの女優たちの卓越した圧倒的な演技と存在感に、心から拍手を送りたい。

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