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2010/10/02

リミット

人間の想像力は無限に広がりゆくものであると同時に、驚くほど手狭な空間で完結してしまうものでもある。こんなコペルニクス的発想の逆をついたミニマル・ムービーが『リミット』だ。原題はもっと簡潔に"Buried"、つまり、埋められちゃった・・・。

『SAW』に代表されるワンシチュエーションの衝撃をさらに突き詰め、ここに立ち現れる舞台はなんと地中に埋められた棺の中。寝返り打つのもままならないこの映画史上最悪、最強の極限状態で、主人公の生き残りをかけたリアルタイムの死闘が幕を開ける!

Buried_2
悪夢だった。目覚めたら地中の中。もちろんそこには照明なんてあるわけがなく、ファーストトカットでは暗闇に男の吐息だけが響き渡っている。その息遣いの変化だけで、男がいま目覚め、状況が理解できずに意識が混乱している様子が伝わってくる。暗闇でもがき、何度も身体をぶつけ、手探りで自分を、世界を把握しようとする。と、その指先にポケットのライターが触れる。カチッ、カチッ。鈍い金属音と共に噴き出す炎。いま、人類ははじめてオレンジ色の灯りを手に入れた。

男はなぜ、ここにいるのか?誰が、何のために彼を埋めたのか?ふと足元で携帯が鳴る。身体をへの字に曲げ、それをようやく手にする彼。二つ目の利器が周囲に薄青い光を放ち、それが本作2つ目の照明となって世界を照らし出す。

ストーリーに触れるのはもうやめておこう。というより、ここまで読まれたかたはすでに気づかれたのではないか。本作が小柄ながら極めて緻密な構造で織りなされていることを。話の進展に合わせて照明の彩りが移行する趣向も心くすぐるし、身動きできない主人公とは裏腹に、カメラは縦横無尽に上から下から、そして棺の壁を超越して驚くほど引いた位置から男の姿を見つめやったりもする。もちろん撮影は順撮りなどではないから、入念な撮影プラン、演技のボルテージ調整、膨大なカット数を呼吸ごとにプラモデルのごとく組み立てていく作業が求められるわけだ。

で、面白いことに、こんな閉鎖的な暗い映画なのに、僕の気分は鬱屈するどころか、すごく健康的になっていった。というのも、主人公がこの状況を打破しようと手を尽くす様が、そのまま人間の生きるべき姿にも重なって見えてきたからだ。

人はこの棺のように断絶した個体として生まれ、この状況から抜け出そうと、他人に向けて必死に手を伸ばし、誰かと繋がっていたいと切に願う。あるいは、断絶や壁や限界に手を触れてこそ、その先の世界があることを知覚できる。それを乗り越えたいとする欲求が生まれる。

純然たるエンタテインメントである本作はそんなことなど一言も主張しないが、それゆえに僕はこの映画に、小手先のアイディアにとどまらない、何か人間の本能に直接うったえかけてくるものを感じた。

ダニー・ボイルの"127 Hours"といい、“極限状況”はこれからの時代を照らすひとつのテーマとなりそうだ。

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