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2010/11/26

The Depths

作家主義に焦点を当てつづけ早11回目を迎えた東京フィルメックス。24日は濱口竜介監督の『The Depths』の上映が行われた。本当に出来たてほやほや状態だそうで、監督曰く「ワールドプレミアです!」とのこと。会場には濱口監督の前作『PASSION』に魅了された人やキム・ミンジュンをはじめとする出演者のファンの方々が期待を胸に多数詰めかけていた。

本作は東京藝大大学院と韓国国立映画アカデミーが共同で製作。2校間で行われたコンペでこの脚本が選ばれ、その後、濱口監督に「やってみないか?」と声がかかったという。

Depths_2

作中では韓国語と日本語、ふたつの言語が乱れ飛ぶ。そしてなにかと“関係性”について考えさせられた。男と女、男と男、女と女、写真家と被写体、対向車線。それらは互いに並走し、交錯し、離反していく。またその一連の過程はカメラを介した「観察し、照準を合わせ、撮る」という儀式的動作とも連動し、呼吸を同じくしているように思える。

主人公は韓国人の写真家ぺファン。親友の婚礼のために来日した彼が空港から都心部へ向かう列車内で映画は幕を開ける。おもむろに外へ向けられるカメラ。ファインダー越しに映る車窓の風景。続くシャッター音。写真家という神の視点によって、街の風景が次々と切り取られていく。そこに荘厳かつ神秘的な音楽が重なると、映画はまるで“序曲”と言わんばかりの静かな胸の高まりを獲得する。(またクライマックスがこれと対を成していることにも注目したい)

披露宴は新婦の逃亡でお通夜のような転調を余儀なくされる。彼女はこともあろうに女の恋人と共に式場を去っていった。それを間近で目撃しながら親友に打ち明けられないぺファン。いやそれよりも彼は、新婦が去りゆくなか、眼前を風のように通り抜けていった青年の相貌が忘れられない。あのとき、彼は無心でシャッターを切った。そして運命のいたずらはふたたび彼らを結びつけることに。。。

Depths

予想のつかない物語の陰影を深めるのは各キャラクターの動きだった。あらゆる動きがレンズ越しに“照準”をギリギリまで絞っていくかような息の長い動線で綴られる。風船をつかまえようと跳び上がる動線もしかり、階段をくだり煙の流れに導かれ建物の角を曲がる動線しかり。見つめ、見つめられる関係を越えて鏡を突き破って脱出する激情しかり。すべてが流れに流れて最後は然るべき場所ににピタリと照準を合わせ、着地する。その研ぎ澄まされ方。精度の高さは、時に身ぶるいを覚えるほどだ。

またカメラの仕組み同様、ギリギリまで絞られた照準がふと振り切れると、ふたたび像は乱れ、重なりは離反していく。僕にはラストシーンに象徴されるものがまさにその緊張感を越えた一瞬のように思えた。対向車線で繰り広げられるこのワンシーンこそ映画的カタルシスの宝庫だ。不意を突かれるあまり、知らぬ間に「あ…」と声にならない声を上げてしまった。

監督によるとdepthとはカメラ用語の“深度”を意味し、それに複数形のsをつけると今度は“人の心の奥底”という意味に転じるのだという。このタイトル通り、すべてのキャラクターと俳優が照準を合わせ、心の奥底を剥きだしにして、覚悟を決めて役を演じきっている。

またQ&Aで村上淳さんは監督の力量をこう表現した。

「濱口監督の傑出した才能のウワサはずっと聴いてたんですが、今回はじめて一緒に仕事してみて本当に映画と真っ直ぐに向き合ってる監督だなと感じましたね。何よりも『よーい、スタート!』の声がデカイんですよ。これってすごく大切なこと。俳優にとって実に頼もしい存在に思えました」

また映画祭の林ディレクターが「前作の『PASSION』をご覧になってる方はどのくらいいらっしゃいますか?」と聴くと、かなり大勢の方が手を挙げられていた。

自主映画然とした佇まいの前作に比べ、本作は有名俳優を起用し、それなりの予算とスタッフを用いて監督の進化ぶりが手に取るように分かる作品なのだそうだ。そうか、これだけの人が濱口竜介という才能をすでに前から知り、期待し、育ててきたのか。僕はまだ『PASSION』を観ていない自分を猛烈に恥じた。いつか機会があれば必ず観よう。そして『The Depths』のこともできるだけ語り継いでいこう。

今後、濱口監督が日本の映画界を牽引していく存在になる過程をしかと注視していきたい。このブログを読むことはないだろうが、こっそりとお礼さえ書き添えておきたい。この映画こそ映画祭の醍醐味だ。僕は得体のしれない才能と、彼が刻みこんだ崇高な影に出逢った。素晴らしい作品をありがとうございました。

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