2011年3月 2日 (水)

【レビュー】アンノウン

今度のリーアム・ニーソンは身元不明だ。渡航先のベルリンでふと目覚めた彼は何者でもなくなっていた。身元を証明できるものを何も持たず、妻であったはずの女性からは「あんた誰?」と言われてしまう。妻の真横には全く見知らぬ男が親しげに寄り添っており、インターネットで自分の名前を検索すると、まさにその男の顔写真がデカデカと表示される始末。俺があいつで!?あいつが俺で!?何かがおかしい。いや、おかしいのは俺の頭の中か?リーアムおじさん、眉毛を八の字しながら、必死に真相を探ろうと奔走する。で、やっぱり俺のほうがおかしいんだな、うん・・・と納得しかかったその矢先、驚愕の展開が彼に、観客に襲い来る!

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『GOAL!2』というどうしようもない作品を残しつつも、ハウメ・コジェ=セラ監督という名前を聴いただけで僕らがいやがおうにも身構えてしまうのは、ひとえに『エスター』という怪作が存在するからだ。すぐに難癖つけたがる評論家の心さえもくすぐり、彼らの多くに「びっくりした!」と言わしめた男である。資料を紐解くと彼の出身はスペインのバルセロナ。10代後半でロスに移り住み、映画製作を学んだとのこと。彼の映像から醸し出される異様な透明感は、あたかも漂白剤かなにかで大切なものを意図的に拭い去ったかのような心地がする。その空気に触れただけで観客の生存本能が無条件にゾワゾワと警戒心を起動させるというか。

本作に限って言えば、そこがベルリンの街だから、というのもあるのだろう。その光景を観ているだけで観光気分に浸れる。と同時に、なにかこの街に刻まれてきた歴史、その上に塗り固められた記憶、というものが暗喩として組み込まれているのも感じる。そう僕らは記憶の上に記憶を塗り重ねて、そうやって生きている。

街を彷徨うリーアム・ニーソンは、いつしかひとりの女性と、そしてひとりの老人に巡りあう。ひとりはハリウッド映画でもお馴染みのダイアン・クルーガー。もうひとりはあの名優、ブルーノ・ガンツ。

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かつてヴィム・ベンダースの『ベルリン 天使の詩』の天使役で、まだ壁が東西を隔てていた頃の街並みを優しく包み込み、また『ヒトラー/最期の7日間』では誰もが恐怖してやまないタイトルロールを体現した彼が、壁が崩れてかなりの年月が経過した今、本作では旧東独の元凄腕スパイという役どころで飄々と登場する。酸いも甘いも嗅ぎ分けた経験と知識、そしてアナログなネットワークを駆使して、迷える子羊たつ主人公を穴から救い出そうとする。それほど出番は多くないものの、彼がただそこに存在するだけでこの「ベルリンの物語」の意味合いは大きく変わる。ブルーノ・ガンツという人間は、この街の記憶でもある。

そして主演のリーアム・ニーソン。つねづね彼は「人を導く役」の王者と言われてきた。が、『アンノウン』ではこの特性を全くの逆手にとり、この人間を無造作に路上へと放り出してみせる。本当に彼が「導く」に足る人間であるかを再びゼロから検証するかのように。

そして我々はこのミステリアスな物語が、彼の持ち味をもっと的確に浮き上がらせてくれるのをありがたく享受することだろう。つまり、この俳優の最大の武器は「導き」を突きつめたところにある、「説得力」なのである。

人間としての説得力。ゆえに我々は路上でオロオロと情けなく途方に暮れるこの男を「どうしたものか」と見つめながらも、どこかで彼の演技に素直に説得させられている自分を感じる。

『身元不明』はある意味、そういうリーアム・ニーソンの唯一無二の特質を濃厚に引き出し、なおかつ絶妙に使いこなした作品といえるだろう。

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2010年5月26日 (水)

あの夏の子供たち

映画人にとっては他人事とは思えない、かなりシビアな物語だ。

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パパは映画会社の社長。映画の配給のほかに、ワールドワイドな映画製作も手掛けている。北欧では一筋縄ではいかない奇才が撮影を必要以上に長引かせ、韓国からは新作スタッフが大人数でロケハンにやってくる。刻一刻と変わりゆく製作状況。その逐一が彼のもとへ報告される。だから四六時中、携帯は手放せない。初めの方こそ敏腕社長のように見えた彼だが、どうやら経営は火の車らしい。資金繰りもうまく行かず、その場しのぎでなんとか明日へと希望を託す。彼を突き動かすのはもはや映画作りの理念のみ。。。

うーん、映画人たちが自ら描き込む“映画作りの現場”ゆえ、その徐々に首を絞められていく感覚はあまりに生々しく痛々しい。

そんな彼も自宅に戻れば善き父親だった。娘たちが彼を出迎えてくれる。その屈託のない天使のような笑顔が彼に活力を満たしてくれる。本作は、父親と娘たち、そして母親の目線に交互に寄り添うことによって、たとえ厳しい現実に身も心も削られるストーリーであろうとも、なんとかその視座を真夏の陽光、子供たちの笑い声、無邪気さゆえのファンシーな世界観へと傾け、観客の目を巧みに惹きつけていく。

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本作に人生の答えを求めても何も出てきやしないし、ましてや本作は不況を生き抜くための応援歌などでは一切ない。悲劇は確実に、突如としてやってくる。家族はそれに耐えねばならない。どうにかしてでも、涙をこらえて、必死に生きていかねばならない。

正直、後半の展開には眩暈がした。81年生まれの女優出身監督ミア・ハンセン・ラブはなぜこんな物語を描こうとしたのか?前後半でストーリーに破たんはないか?そしてこのラストはラストに成り得ているのか?次々と疑問が溢れ出す。

そして、笑っても、怒っても、哀しんでも、結局はこの映画の放つ不思議な磁力に惹かれてしまう。本作の魅力はそこなのだ。事態は何も進展しないのに、絶望と同じくらい、希望の息吹を感じる。結果として本作は、昨年のカンヌで「ある視点」部門の審査員特別賞に輝いた。

僕にはこの映画が、すべての映画人たちの遺言であり、なおかつ、その意志を受け継いだ新しい世代の覚醒のように思えてならなかった。

あの、髪をチュルチュルさせた長女は、いつの日か、自分の手で映画を撮ろうと思い立つのではないだろうか。そしていま私たちがこうして目にしている『あの夏の子供たち』こそ、成長した彼女が撮り上げた自伝的作品なのではないだろうか。。。フィクションとは分かっていても、この深い余韻は観賞後の深読みを誘う。

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よくぞこんな映画を日本に届けてくれました!『あの夏の子供たち』を配給するのは、クレスト・インターナショナル。最近では『サン・ジャックへの道』『夏時間の庭』など、珠玉の、そして実に変化球の効いた家族映画を丁寧に配給・宣伝する手腕が印象的です。この手のジャンル好きなら、こういう配給会社名で映画を探してみるのも効果的かも。
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2010年5月24日 (月)

二度目のローラーガールズ

映画はお客さんのもとに届くことで初めて作品として完成されるものであるから、自分が心奪われた作品の公開初日には出来るだけメイン館に足を運ぶことにしている。そうやって生の反応に触れることで、自分が気付きもしなかった反応に気付かされる点も数多い。

そして今回向かったのは、『ローラーガールズ・ダイアリー』。

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本作についての詳しいレビューは拙ブログの記事をご覧いただくとして、僕はこれが完璧な映画だとは露ほども思っていない。しかし、そうでないがゆえに無性に惹かれるものがあった。洗練されすぎていない美徳というか、技術よりも気持ちで勝負しているというか。その真っ直ぐなひたむきさに惹かれる。そういうことって、よくありますよね?

日比谷にあるTOHOシネマズ シャンテでの第2回目の上映は、まずまずの客足だった。そしてこの土地柄のせいか上品な中年層が非常に多い。スポ根というジャンルと客層とが合致しているのかどうか多少不安だったが、この映画は最後の1ページで嵐の後の静けさのごとく、母と娘の関係性に爽やかな落とし所を持ってくるのだった。この点だけ取ってみると、確かに客層と合致している。

ちなみにエレン・ペイジはずっとSTRYPERと書かれたTシャツを着ている。これは92年に解散したへヴィメタ・バンドで、最近になって再結成してはいるものの、この主人公が同時代に彼らの楽曲を聴き込んでいるとは思えない。この矛盾がまた、母娘の関係性を示す上で重要なアイテムとなっていく。

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ボーイフレンドに「それ、ストライパーだよね?」と聞かれた彼女はこう答える。

"Yeah ! 80's christian heavy metal. I mean in the name of jesus we rock !"(そうなの、80’sのへヴィメタなの。キリストの名のもとにロックするのよ!)

つくづく凄い文化だなと思う。この映画もどこか80’sっぽいような。

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2010年5月22日 (土)

パーマネント野ばら

ふと、菅野美穂の主演映画なんて何年ぶりだろうかと考えた。そう、『DOLLS』以来だ。だから8年ぶりになる。それだけの時間が空いたからなのか、スクリーンに映し出された菅野はかつての印象を消し去り、観客にこういう路線の演技でいくのだろう、という予測を立てさせない。そもそも本作『パーマネント野ばら』自体が、沖合に浮かぶブイのように飄々と物語の波間に身を揺らす。

それは高知の海辺にある田舎町の物語。結婚生活に終止符を打ち、幼い娘を連れて出戻ってきた“なおこ”は、母の営む美容室“パーマネント野ばら”で手伝いを続けている。いちおしのメニューは「パンチパーマ」。常連のおばちゃんたちも皆パンチが効いている。かつての親友たちも、それぞれに幸福なのか悲惨なのか分からない人生を背負って精一杯生きている。そんな中、なおこは高校教師の男性と新しい恋を育み始めるのだが。。。

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』、『クヒオ大佐』と一筋縄ではいかないファンタジーと狂気と現実のせめぎ合い&崩壊を描いてきた吉田大八監督が、西原理恵子の原作漫画を透き通るような光のバランスで映像化。なおこの吹けば飛ぶような繊細な主観とその周囲のドタバタとが僅かに趣を異にし、やや後者に強引さを感じるのだが、その奇妙な温度差についてもラストになってようやく演出の意図が判明する。

映画の中心にいると信じていた自分(観客)の立ち位置が、俄かに主軸とずれていたのを知る瞬間、遠く離れていても実は案外近いかもしれないひとつの世界について想いを馳せた。そしてつくづく思う。物語とは、哀しみとは、希望とは、いつ、どこで発生するものか皆目分からないものなのだ、と。

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2010年5月17日 (月)

ビルマVJ 消された革命

VJといっても、ヴィデオ・ジョッキーのことではない。

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それはヴィデオ・ジャーナリストのことだ。

安価で高性能なハンディカムや携帯電話のカメラ機能を駆使して誰もがジャーナリストになれる時代。軍事政権が市民の言論を弾圧するここビルマ(英語読みすると“バーマ”)では彼らの暗躍こそが、その実態を世界へ伝える貴重な情報パイプラインとなる。

誰もが口を閉ざしていたこの国で、2007年、ついに僧侶たちが立ち上がった。いつもは平和的とされる彼らが率先して集団となり、おびただしい数で道を覆い始めた。「ビルマで何かが起き始めている」世界のニュースがその報を伝え、そこには常にVJたちが撮影した映像が添えられていた。彼らは現地で撮影したフッテージを衛星回線を使って隣国へと送り、そこでネットワークを束ねる代表者の手によって世界中へ発信されていたのだ。

やがて僧侶の広げた輪に市民も加わり、街道には多くの声援が贈られるようになる。明らかに空気が変わろうとしていた。この生の映像が伝える高揚感。そして市民がアウンサン・スーチー女史へ寄せる聖母にも似た想い。それは平和的なデモのはずだった。しかし軍政はここに武力を投入。実弾の使用により脆くも人が崩れ落ちる。日本人ジャーナリストも犠牲となった。そして彼らなりのやり方で闘い続けるVJたちの身にも危険が及び、ひとり、またひとりと消息を絶ちはじめる。

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このドキュメンタリーを構成するあらゆるフッテージが、まさに命がけで撮られている。彼らが魂をすり減らしながら記録した映像を僕らはどのような表情で見つめればいいのだろう。感動?怒り?それとも無力感?そのいずれかは分からないが、本作を見ながら、とめどなく涙があふれてきた。そこには映像の、圧倒的な迫力が存在した。世界中の観客が関心を寄せ、ビルマの未来に想いを馳せるに値する確実な磁力が存在した。

本作はアカデミー賞のドキュメンタリー部門にもノミネート。しかし結果的に『ザ・コーヴ』に惜敗を喫した。こういう言い方はイルカたちに対して申し訳ないが、コーヴとこれとでは題材の次元が全く異なる。まあ、そうした差異を踏まえたうえで勝敗を決めるのが賞の特性というものなのだが。。。両者とも事実を扱っているだけに、映画とはいえ、これに優劣をつけることには気が引ける。つまりはぜひ、どちらもご覧いただきたい。共に昨年のドキュメンタリー界を代表する作品であることに変わりは無い。

ちなみにこれはウィキペディアにも記載されていることだが、“ミャンマー”とは当地の軍事政権が89年に定めた国名であり、この正当性を認めないアメリカ、イギリス、オーストラリア政府やBBC、CNNをはじめとする各マスコミ、人権団体などは依然として"Burma"を用いている。対して日本の外務省は“ミャンマー”を用い、“ビルマ”を用いるマスコミも少ない。

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2010年5月15日 (土)

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

昨年のカンヌに出品されたジョニー・トーのハードボイルドな逸品がいよいよ公開。

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冒頭から凄惨な銃撃で幕を開ける。被害者はマカオで暮らす幸福そうな家族だった。幼い息子ふたりに、夫、そしてフランス出身の妻アイリーン。。。いや、彼女にだけはまだ息があった。瀕死の状態でなんとか生き延びていたのだ。

一連の報に触れ、フランスより初老の男が渡ってくる。彼の名はコステロ。集中治療中の我が娘アイリーンを前に復讐を固く誓う。その手順もちゃんと心得ていた。ひょんなことで知り合った3人組の殺し屋に仕事を依頼し、そこに彼が加わることで4人組が成立。チームの誕生を祝福するかのように昼食が始まる。料理の腕を振るうのは他ならぬコステロだった。「本業はシェフなんだ」と彼。だが一方で、銃を触らせると驚くべき手際の良さで処理する側面も併せ持つ。はたして彼は何者なのか?そして、この復讐劇の末に待つ結末とは。。。?

これは名目上、『ザ・ミッション/非情の掟』『エグザイル/絆』に続くノワール・アクション3部作の最終章だという。ストーリーや登場人物の関連性は曖昧だが、いつも通りのあっと驚く趣向を凝らしたアクションと、いい年こいた男たちがちょっと遅めの修学旅行に出かけるかのような無邪気な友情が描かれる。

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銃撃×任侠×ピクニック×記憶喪失×運動会×雨降り。。。カンヌの観客を熱狂させたいつも通りのジョニー・トーの流儀が炸裂する一方、幾度も彼の作品に触れてきた人なら少なからず察知するであろう違和感もある。何にも増してアクションの組み立て方が違う。それもそのはず、フランス出資による今回の映画製作ではトー監督に「事前に脚本を完成させること」が義務付けられたという。ご存じの方も多いだろうが、香港映画の現場では原則として脚本が存在しない。以前、『ブレイキング・ニュース』や『エグザイル』に出演しているリッチー・レンに話を訊いたが、彼曰く、「トー監督の現場では、毎朝現場に行くとその日に撮影する分のセリフのメモを手渡される。俳優が前もって映画の全体像を把握するのは不可能なんだ」。

でもさすがに今回の国際コラボでそんなやり方は通じなかった。育ってきた言語や文化の違うスタッフ&キャストが集えば、それだけ入念な設計図(脚本)が必要となる。ジョニー・トー作品の今後を占う試金石とも言うべき本作ゆえ、やはりこれまでのどんどん膨張していくアクションとは違った、コンパクトでまとまりのいいプロットが先行する。これもまたジョニー・トー作品のひとつのかたち。相手の土俵の上でもこれだけ立ちまわれるのだ。

次回作はリーアム・ニーソン、オーランド・ブルーム、チョウ・ユンファが揃い踏みするそうだが、きっと更なる国際化の可能性を引き出してくれることだろう。

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2010年5月14日 (金)

パリより愛をこめて

タイトなアクションの詰まった『96時間』でスマッシュヒットを飛ばした監督ピエール・モレル&脚本リュック・ベッソンのコンビが、間髪いれずに新たなアクションを起動させた。前作ではリーアム・ニーソン演じる主人公が中盤からパリへ殴りこんできたが、今回は完全にパリのみが舞台となる。

さぞや大ヒットを飛ばすことだろう、と期待して全米ボックスオフィスの結果を眺めこんでみた。が。。。今回はかなりの不発だったようです。2月公開ながら、いまだ世界の興収を合わせても製作費の5200万ドルをカバーできていない。うーん、なにか重大な失敗をしでかしてしまったのだろうか???

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とまあ、観る前から半分“駄作”と踏んで臨んでしまった自分がいたのも事実だ。最初の方のややもたついた展開にも「ああ、やっぱりね」と何度もニヤついた。辛口を気取ってどんな欠点をも見逃さないぞという気分で95分をやり過ごした。そして出た結論は。。。これ、軽~く見る分には意外と面白い!

ジョナサン・リース・マイヤーズ演じる大使館員にはCIAエージェントとしての裏の顔がある。聞こえはカッコいいのだが、でも実際に回ってくる仕事は車のナンバープレートを取り換えたり、盗聴器を仕掛けたりと地味なのばっか。「もっとスゴイ仕事くださいよ~、オレ、ぜったいやりこなしてみせますから!」と必死でアピールする彼。その数日後、願いは叶った。携帯電話の指示では「すぐに空港へ行け」と言う。「お前のパートナーがやってくる。ふたりで任務を遂行せよ」と。

そこで出逢った相手こそ、このオッサン。

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コイツが出てきた瞬間にすべてのツジツマが合った。なぜ全米で沈没したか。それはジョン・トラヴォルタがあまりに濃すぎるキャラだからに決まってる。普段の容姿&演技でも濃いのに、本作ではなぜかスキンヘッド!これじゃあ『バトルフィールド・アース』並みじゃないか。みんな予告編やポスター見ただけで胃もたれして、心の中で「ムリ!ムリ!」と叫んだことだろう。

でもオッサン、がんばった。リース・マイヤーズだけだと単調だった流れが彼の登場でグングン勢いを増して暴走特急のように転がっていく。観光客の絶対に訪れないパリの危険地帯を、アジア系からアラブ系まで世界地図をめぐるみたいに西へ東へと大忙し。飛び散る弾丸。築かれる死体の山。もう『ブロークン・アロー』や『フェイス/オフ』のジョン・ウー演出をもう一度、ってな感じで、トラヴォルタが巨体をヨイショと浮かせながら、アクロバティックな銃撃戦を繰り広げる。わーこれはジョン・ウーの足元にも及ばないが。。。でも胃もたれを通り越して笑えてきた。そして気持ち良くなってきた。

まあ、確かにツッコミどころは多々あるが、常々バディ・ムービーの楽しさを忘れていた気がする。任務のためなら人殺しも辞さないアメリカ的なご都合主義=ひとつのファンタジーに身をゆだねる楽しさを忘れていた。これはたかが95分の身分相応のアクション映画でしかないが、どこか懐かしい香りさえ漂う。

気軽な「パリ裏街道の旅」と捉えればそれなりに楽しめるはず。間違っても『007/ロシアより愛をこめて』と比較しないで。タイトルで意識はしていても全くの別物だから。

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2010年5月11日 (火)

グリーン・ゾーン

“ジェイソン・ボーン”シリーズの最強タッグ、再び。本作は“ジェイソン・ボーン”シリーズの続編ではないものの、そこで培った手法や息遣いを更に進化させた戦争アクションであり、アメリカ主導で突入したイラク戦争で「大量破壊兵器はなかった」という結論に至るまでに“ありえたかもしれない物語”を付与したリアリティに満ちたフィクションでもある。

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先に事実に触れておいた方がいいだろう。本作は全米公開時に大コケした。製作費1億ドルの大作なのにもかかわらず、米国内だけでカバーできた興収が3500万ドル。世界興収も累計8000万ドル未満にとどまっている。

この結果に関係者は大いに落胆したという。作品が当たらなかったから、というよりは、批評家や各メディアにより作品の評価は高く保証されていたのに肝心の観客が振り向いてくれなかったからだ。ここにはまず「イラク戦争モノは当たらない」とする消費者傾向がそのまま反映され、なおかつ3月中旬の全米公開当初はオスカーを獲得した『ハート・ロッカー』が旋風を巻き起こしている時期でもあり、「第2の戦争モノ」など眼中にも入らなかった、と言えるのかもしれない。(『ハート・ロッカー』も歴代オスカー受賞作の中では最低興収を記録していると言われている)

作品の評価は時流やジンクスを越えられなかった。だが製作者らにとってもこれが厳しい戦いとなることは初めから分かっていたはずだ。それでも切り込まざるを得なかったのはそのキャリアをジャーナリストとして始動させ、世界の紛争地域を取材してきたポール・グリーングラスの条件反射とも言える決断にあったのだろう。つまり、この戦争を描かずには前に進めなかったのだ。

グリーングラスと言えば映像の仕事はもとより、執筆の仕事でも英国諜報部の極秘事項に迫った書籍を出版し、見事に発禁処分を食らったりもしているツワモノである。そんな彼が時流やシンクスにひるむわけがない。

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彼の語り口はいつも被写体と受け手とのあいだにある壁を取りはらい、観客をこれまでにないほどの臨場感へと突き落とす。ドキュメンタリー・タッチの社会派サスペンス『ブラディ・サンデー』『ユナイテッド93』、それにアクション映画に革命を起こした『ボーン・スプレマシー』&『ボーン・アルティメイタム』(リンクはすべて拙ブログ記事へ飛びます)。どちらも臨場感は群を抜き、たとえ作りものであろうとも、そこに醸しだされる真実の空気を活写しようとする気概が感じられる。まさに『グリーン・ゾーン』はそれらのドキュメンタリー+アクションを融合させた迫真の映像になり得ている。現代の最重要映像作家のひとりに数えられる彼の最新作でけに、観て損は無い。

ただし、すべてにおいてグリーングラスの肩を持つわけではない。『ユナイテッド93』や『ハートロッカー』で撮影監督を務めたバリー・アクロイドの映像はクライマックスのチェイスなどでかなり手ブレが激しく、臨場感は充分すぎるほど伝わるものの、やや目が疲弊する。“ジェイソン・ボーン”シリーズの撮影監督オリバー・ウッドならばこれに巧く対処できたのではないだろうか。

また未だに混沌の続くイラクにおいて、その映像は見事であるものの、どこかプロット的な技巧が先行してしまうきらいがあり、かねてより映像から感情を呼び覚ましてきたグリーングラスなだけに、今回は意図せずしてあらかじめ決められていた着地点を踏んでしまった感が否めない部分もある。戦争モノを描くにあたってのこのジレンマは今後も検証されていかねばなるまい。

何はともあれ、本作もやはり時代の影響を強く受けたアクションに仕上がった。時代の求める映像がここにあろうと、なかろうと、今後の戦争orアクションを語るのに欠かせない一本であることに変わりはない。

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2010年5月 8日 (土)

ホームレス・ワールドカップ

6月に南アフリカで開催されるサッカー・ワールドカップのことは誰もが知っている。
では、ホームレス・ワールドカップはご存じだろうか?

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こんな大会があったなんて全く知らなかった。2001年に発案されたこの大会は各国のホームレス男女によるミニサッカー国際大会である。5月8日より渋谷ライズXにて公開となるドキュメンタリー『ホームレス・ワールドカップ』はその2006年大会の模様を追いかけた作品。48もの国の代表選手500人が南アフリカのケープタウンへ集い己の限界を越えていく様を記録している。

「なぜ、ホームレスにサッカーを。。。?」 おそらく皆がそう思うだろう。その理由について本作はあまり声高に主張しない。言葉で説明するよりも、まずこの過程を見てくれて言わんばかりに、各国のホームレスたちが集団に属しチームプレーに徹することを学び、勝利の喜び&敗北の悔しさを全身で体現する姿を見つめ続ける。

路上で生活するということはある意味“サバイバル”だ。ピッチに立つ彼らははじめ、敵にも仲間にもひどくケンカ腰にあたる。その攻撃性こそ彼らを路上で生きながらえさせてきた原動力といっても過言ではない。しかしコーチたちは「ここではそうはいかない」と言う。

「相手や仲間とやりあっても意味がないぞ!良い試合に徹することを覚えるんだ!」

選手から次第に怒りが消滅していく。対戦相手やチームメイトへの尊敬の念が芽生え始める。そして何より勝ちたい、這い上がりたいと望むようになる。ケニア、アメリカ、アフガニスタン、アイルランド、ロシア、スペイン。。。ピックアップされる代表選手はそれぞれにバックグラウンドが違うが、それぞれのやり方で国家の重みを背中に感じてベストを尽くす。その姿は淡々としていながら、仄かな闘志を感じる。

またもやドキュメンタリー作品が、ほんの小さな壁穴から全く見知らぬ世界を垣間見せてくれた。

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2010年5月 6日 (木)

9 <ナイン>9番目の奇妙な人形

あなたの背番号は、何番ですか?
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アメリカでは2009年9月9日に封切られたこの風変わりなアニメーションがいよいよ日本にも上陸。

きっかけはひとりの男が卒業制作として手掛けた11分の短編アニメーションだった。その独創性とクオリティの高さに魅せられ、ダーク・ワールド大好きなティムール・ベクマンベトフ(『ウォンテッド』『ナイトウォッチ』)やティム・バートンらはすぐさま自らの手で長編映画化しようと考えた。しかしすぐにそれは得策ではないと思い至る。むしろこの30代の新人シェーン・アッカーという才能を世に紹介すべきではないか、と。そうしてベクマンベトフ&バートンが製作として関わる中、ひたすら陰影の濃い長編アニメとして生まれ変わったのが『9 ナイン』である。

目覚めると、世界は滅亡していた。

人類は死に絶え、空には暗雲が垂れこめている。この不気味に荒廃した世界を、自分が何者かもわからない奇妙なキャラクターがトボトボ歩く。胸元には大きなチャック。背中には「9」という謎の番号。

やがて彼は自分と似た造型の仲間たちと出逢う。名前を持たず、互いを「1」から「8」までの数字で呼び合う彼らは、「9」と同じく、生まれつきその数字を背中に宿していた。そしてふと気を緩めると、彼らを狙って恐ろしい機械仕掛けのモンスターらが容赦なく襲い来る。。。

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確固たるヴィジュアリティに支えられた終末論的な世界観に加え、この戦闘シーンがひとつの見せ場となる。モンスターの動きや仕掛けにも様々な趣向が詰めこまれ、観客が予想だにしない大胆なカメラワークで攻守を描く。彼らは人間ではないゆえ、ボロボロに傷つきながら、なかばぶっ壊れそうになりながらもまだ闘える。その安全装置を解除したようなスピード感と予想不可能性の連続が次第にボディブローのように効いてくる。他のアニメーションとちょっと違うぞという想いが確信へと変わる。

暗黒にうごめく緑色の蛍光色。そのコントラストが『マトリックス』を彷彿とさせる。アクション面では紅一点「7」(VC:ジェニファー・コネリー)の身のこなし&シルエットが『鉄コン筋クリート』のクロと重なって見える。また闘う仲間が9人という設定はまさに「サイボーグ009」のお家芸だが、クリストファー・プラマーがヴォイスキャストを務める爺さんキャラ「1」には、どこか『七人の侍』の志村喬を思い起こさせる佇まいもある。

至るところに過去の名作のエッセンスを感じるが、それが嫌味として照射されることはない。むしろ新人らしい諸先輩たちへの溢れんばかりのリスペクトとして受け止めた。本作もこの先、先人の志を継ごうとする者たちにとっての力強い灯火として輝き続けることだろう。

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