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2011/03/05

【レビュー】神々と男たち

舞台は90年代のアルジェリア。とある村の丘の上にフランス系の修道院があった。かつてはフランスの植民地だったこの国である。それに住民の多くはイスラム教徒。時代をさかのぼれば少しは対立もあったかもしれない。しかしいま、修道士たちは彼らと我をぶつけ合うあうわけでもなく、困ったときには互いに救いの手を差しのべあい、その暮らしはいつも互いの存在への尊敬と感謝と共にあった。

だが、この国の政情が不安定になるにつれ、過激派組織が動きをみせはじめる。不穏な空気は村にも伝わり、周辺では外国人の生命が脅かされる事件が多発。「これ以上この国に滞在しては生命が危ない」。本国からの帰還命令を受けて修道士たちは自らの活動の、信仰の源泉についてもう一度おのれに問いかける。かつては恋もした。神を疑ったこともあった。しかしいま私はこの地を選び、職務を全うすることに己の人生を賭けている―。

食卓を囲んだ修道士たちは、その日、一人ひとりの意見にじっくりと耳をかたむけあい、やがてひとつの結論に達する。何が起ころうとも運命を受け入れ、この国、この村のために祈りをささげつづけるのだ、と―。

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カンヌ映画祭にて本命と言われ(最高賞に輝いたのは奇しくも日本で同日公開の『ブンミおじさんの森』だった)、審査員特別賞(事実上の次点だが、カンヌではこれを“グランプリ”という名称でよぶ)を受賞、先日開催されたフランスのアカデミー賞と言うべき「セザール賞」でもすべての頂点たる作品賞に輝いている。が、この祈りと決断の物語はアメリカのアカデミー会員には届かず、アカデミー賞外国語映画部門ではギリギリのラインで候補入りが叶わなかった(『告白』と共に最終選考で落ちた、というわけだ)。

96年に起こった極めて凄惨な、そして謎の多いこの実話の結末を知る者にとっては、クライマックスで森の中に消えていく彼らの姿に断腸の思いを禁じ得ないだろう。おそらくここで交わされる言葉の数々も、かろうじて生命を救われた修道士たちの証言によって再現されている部分も多いのだろう。神につかえて生きてきた彼らの慎ましいばかりの人生が暴力によって脅かされるとき、彼らは無力であり、神はただ無言だ。しかし彼らの表情を見ていると俄かに恐怖が遠のいていくのを感じる。それぞれの葛藤を乗り越え、いまではしっかりと前を向き、以前にも増して自らの信仰に真向かおうと努力しているかに思える。そんな彼らを慈しむかのように窓からは神々しい光が差し込んでいる。それらはカタチとしては見えない何か崇高な存在を指し示しているのだろうか。

なるほど、グザヴィエ・ボーヴォワ監督は宗教上の対立によって世界の平穏が失われた2000年代を総括するかのように『神々と男たち』を奏でたのかもしれない。

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だが、一方で翻って言うなれば、これは宗教や国境、政治や肌の色など何も関係のない“私たちの物語”ということもできるのだろう。本作とは直接的には関係ないものの、先日来日したカズオイシグロ氏が自作「わたしを離さないで」についてこんなことを語っていたのを想いだす。

「人生とは考えているよりも短いもの。だからこそ、限られた時間の中で自分がいったいなにをすべきかを一生懸命に考え、行動してほしい。そういう願いをこめてこの作品を執筆しました」

もちろん『神々と男たち』と『わたしを離さないで』とはテーマも題材も作者も違うし、片や実話であり、もう片方はSFである。だが、修道士たちが与えられた極限状況に、僕は『わたしを離さないで』でキャシーたちの置かれた本当に短い人生のタイムリミットがシンクロして深く重なっていくのを感じたのだった。

そのうえでやはり本作も我々観客に問いかけてくるのだ。あなたはどう生きてますか?と。なにか人生を賭けて懸命に貫けるものはありますか?と。

なにも作り手は観客に対して“原理主義”的に貫けと言っているわけではない。ここに描かれる修道士たちはむしろ他者と価値を共有し、手を取り合って進んでいくことにこそ喜びを見出している。自分が傷つけられようとも、他人を傷つけることは決してない。そのような素朴でささやかな存在だからこそ、我々の目には彼らの生き方が逆に、圧倒的なまでの強靭さとして映るのだろう。

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