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2011/03/02

【レビュー】アンノウン

今度のリーアム・ニーソンは身元不明だ。渡航先のベルリンでふと目覚めた彼は何者でもなくなっていた。身元を証明できるものを何も持たず、妻であったはずの女性からは「あんた誰?」と言われてしまう。妻の真横には全く見知らぬ男が親しげに寄り添っており、インターネットで自分の名前を検索すると、まさにその男の顔写真がデカデカと表示される始末。俺があいつで!?あいつが俺で!?何かがおかしい。いや、おかしいのは俺の頭の中か?リーアムおじさん、眉毛を八の字しながら、必死に真相を探ろうと奔走する。で、やっぱり俺のほうがおかしいんだな、うん・・・と納得しかかったその矢先、驚愕の展開が彼に、観客に襲い来る!

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『GOAL!2』というどうしようもない作品を残しつつも、ハウメ・コジェ=セラ監督という名前を聴いただけで僕らがいやがおうにも身構えてしまうのは、ひとえに『エスター』という怪作が存在するからだ。すぐに難癖つけたがる評論家の心さえもくすぐり、彼らの多くに「びっくりした!」と言わしめた男である。資料を紐解くと彼の出身はスペインのバルセロナ。10代後半でロスに移り住み、映画製作を学んだとのこと。彼の映像から醸し出される異様な透明感は、あたかも漂白剤かなにかで大切なものを意図的に拭い去ったかのような心地がする。その空気に触れただけで観客の生存本能が無条件にゾワゾワと警戒心を起動させるというか。

本作に限って言えば、そこがベルリンの街だから、というのもあるのだろう。その光景を観ているだけで観光気分に浸れる。と同時に、なにかこの街に刻まれてきた歴史、その上に塗り固められた記憶、というものが暗喩として組み込まれているのも感じる。そう僕らは記憶の上に記憶を塗り重ねて、そうやって生きている。

街を彷徨うリーアム・ニーソンは、いつしかひとりの女性と、そしてひとりの老人に巡りあう。ひとりはハリウッド映画でもお馴染みのダイアン・クルーガー。もうひとりはあの名優、ブルーノ・ガンツ。

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かつてヴィム・ベンダースの『ベルリン 天使の詩』の天使役で、まだ壁が東西を隔てていた頃の街並みを優しく包み込み、また『ヒトラー/最期の7日間』では誰もが恐怖してやまないタイトルロールを体現した彼が、壁が崩れてかなりの年月が経過した今、本作では旧東独の元凄腕スパイという役どころで飄々と登場する。酸いも甘いも嗅ぎ分けた経験と知識、そしてアナログなネットワークを駆使して、迷える子羊たつ主人公を穴から救い出そうとする。それほど出番は多くないものの、彼がただそこに存在するだけでこの「ベルリンの物語」の意味合いは大きく変わる。ブルーノ・ガンツという人間は、この街の記憶でもある。

そして主演のリーアム・ニーソン。つねづね彼は「人を導く役」の王者と言われてきた。が、『アンノウン』ではこの特性を全くの逆手にとり、この人間を無造作に路上へと放り出してみせる。本当に彼が「導く」に足る人間であるかを再びゼロから検証するかのように。

そして我々はこのミステリアスな物語が、彼の持ち味をもっと的確に浮き上がらせてくれるのをありがたく享受することだろう。つまり、この俳優の最大の武器は「導き」を突きつめたところにある、「説得力」なのである。

人間としての説得力。ゆえに我々は路上でオロオロと情けなく途方に暮れるこの男を「どうしたものか」と見つめながらも、どこかで彼の演技に素直に説得させられている自分を感じる。

『身元不明』はある意味、そういうリーアム・ニーソンの唯一無二の特質を濃厚に引き出し、なおかつ絶妙に使いこなした作品といえるだろう。

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