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2011/04/04

【レビュー】SOMEWHERE サムウェア

映画の見方が分からなくなってしまった。これっぽっちもだ。おそらく世の中には大きな物語と小さな物語とがあり、小さなものは小さいなりに、大きなものは大きいなりに、世界のどこか遠く遠くにいる誰かの心に届くように紡がれていくものだと思っていた。また自分でもそれらの物語にチューニングしてすぐさま感覚を埋没できるように、経験を重ねてきたつもりだった。その自負がいつしか自惚れにすり替わっていたのだろう。ソフィア・コッポラが描く『サムウェア』を観て激しく動揺した。僕の日常に突如として舞い降りてきたこの映画は、僕が丹念に耕してきたと思い込んできた感性の土壌に、全くと言っていいほど着地する場所を見出さなかった。

ソフィア・コッポラはこれまでにも「大きな事件ではない、日常の中のささやかなこと」への着眼を徹底してきた。あの歴史絵巻『マリー・アントワネット』でさえ、彼女の手にかかるとマリーの日常の「ささやかなこと」に着目したガーリーなムービーと成り得てしまった。またそこに巨匠フランシス・フォード・コッポラの娘として映画界、芸能界の酸いも甘いも見つめてきたソフィアならではの目線もシンクロして、大きな物語はごく個人的な、小さな小さな物語へと収束していった。彼女の映画はフィクションという“虚構”の渦中にありながら、究極的にはすべてが等身大の彼女の中に渦巻く“リアル”に端を発している。

そんなソフィアが『SOMEWHERE』では自分と同年齢ほどの男性の目線で世界を見つめる。スティーヴン・ド―フ演じるのは、芸能人御用達のホテル“シャトー・マーモント”に入り浸る、ひとりのハリウッド俳優。先の見えない、先を見つめない生活を送る彼のもとに、ある日、幼い娘がやってくる。いつでも父親ってわけではない。ほんのときどきだけ、父親として側にいてあげられる彼。そうやって娘と暮らしていくうちに、彼の中でも微かな心の変化が巻き起こってくる。ここで娘というファクターが生まれるのは、『マリー・アントワネット』から本作に至るまでの間でソフィア自身が母となったからなのだろう。

本作では冒頭からすべてがくるくると回転している。フェラーリも轟音を立てながらサーキット内をくるくる。ポールダンサー姉妹もふたりそろってくるくる。ダコタ・ファニングの妹、エル・ファニング演じる幼い娘もスケートリンク上でくるくると回転する。それらはすべて主人公の、まるで宇宙空間をゆっくりとキリモミしながら浮遊するかのような心境の投影にも思える。そんな彼がやがてその軌道から抜け出して、フェラーリのエンジンを切り、自分の足で歩きだそうとする。フェラーリやシャトー・マーモントは彼にとって繭のような存在だ。彼はいま、じっとしていれば自分の傷つくことのないその温床からついに羽ばたこうと…

実際にはこの書き方はフェアではない。世にある多くの映画は冒頭から終幕に向けて空気を流動させていく引力によって「いま自分がいる位置」を踏みしめながら観賞することができる。が、『サムウェア』では、あれ、いまどこにいるんだろう?と自分を見失う瞬間がしばしば存在した。そこでは物語の引力に身を任せることが叶わず、無風状態に漂う空気や景色に身を晒さねばならない。誤解を恐れずにいうならば、僕にはこれが恐ろしかった。何も考えずにこのシーンだけを抽出すれば、フォトジェニックな美しい一瞬なのかもしれない。だが僕には一つ間違えるとこれらの風景の中で足場を失い、その場にずっと閉じ込められてしまいそうな、宇宙的な“出口のない永遠”を感じてしまった。それはもう、絶望的といっていいほどに。

映画の見方がわからなくなった。まるで宇宙空間に何年も存在し、それでようやく地球上に戻ってきた飛行士のようだ。僕の中では決して好き嫌いに類別できる映画では無いが、それをあえて前向きにとらえてみることにする。

つまり、こうだ。

映画とはそもそも個人の嗜好では無く、自分自身を知るためのツールなのだ。そして本作のようないわば“未知との遭遇”によってこそ自分の中の秘めたる感性が微かなこれまでに奏でたことのない音響を発するのだ。くるくるから、キリモミから脱出しよう。フェラーリのエンジンをオフにしよう。ホテルからチェックアウトしよう。歩き出そう。そうしていざなわれる場所こそ、“サムウェア”と名付けられた聖域といえるのだろう。

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ソフィア・コッポラのパートナー、トーマス・マーズ率いるPhoenixの"Wolfgang Amadeus Phoenix"は、僕が2011になって最よく聴いているアルバムのひとつだ。『サムウェア』のサントラは洋邦問わずリリースされていないのだが、使用楽曲のいくつかはこのアルバムで耳にすることができる。お薦めの一枚。

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