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2011/06/25

【レビュー】SUPER 8

1979年、夏―。悲しい事故が起こった。オープニング・シークエンスがセリフなくしてそのことをさりげなく観客に伝える。そのとき、側にいるべき保安官の父は、少年との間に距離をおこうとした。いま少年の心の隙間を埋められるもの、それは同じ学校の親友同士でつくる8ミリ映画でしかありえなかった。

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「映画祭に出そうと思うんだ!」と誰かが声をあげる。オーソン・ウェルズにも似た太っちょが仲間を扱き使いながら監督を務め、メガネ君はセリフを覚えるのに必死で、もうひとりの男の子は笑うと矯正歯がニュッと突きでる。そして今夜の撮影には新たな仲間が。女優として美しい女の子が参加を快諾してくれたのだ。

線路わきのロケ地でスタンバイ中、主人公の少年は少女にメイクを施す。筆ごしに触れる彼女の透き通るような肌。その視線の漂い。「アクション!」の掛け声と共にリハーサルがはじまる。彼女がセリフを口にした瞬間、少年の心は魔法にかかり、どこか遠い世界へ浮遊して飛び出したかのようだった。息が止まる。瞬きもせずにじっと見つめる。

そしていざ迎えた本番。フィルムが回り始めると、今度は遠くから電車の近づく気配が伝わってくる。オーソン・ウェルズが気を狂わさんばかりに叫ぶ。「いいぞ!状況に奥行きが増す!」。接近してくる電車の姿を盛り込みながら撮影は進む。轟音がセリフをかき消す。風圧が髪を逆立てる。そしてようやく過ぎ去ったかと思ったその矢先、先頭車両の付近で大爆発が巻き起こる。

大破する車両、燃え盛る炎。うごめく謎の生命体。

それはこの、もう二度とは戻ってこない夏休み数日間の、ほんの幕開けに過ぎなかった―。

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彼らのことを昔から知っている。次に踏み出す第一歩も、いまその表情で何を考えているのかも手に取るように分かる。J.J.エイブラムス監督の描く主人公たちの遺伝子は間違いなく、かつて70年代~80年代のスピルバーグ系の映画によって、視覚的に僕らの体内に組み込まれたものであり、それゆえ映画の面白さとはまた別に、まるで遠い昔の自分を眺めやるような不可思議な感覚を禁じえない。

髪や肌の色もまったく違うし、あんなスイートな恋物語なんて縁もゆかりもなかったはずだが、それでも彼らを媒介として、今の自分と昔の自分とが映画の中で対峙を果たす。本作に付随するノスタルジーは恐らくそのような場所からふっと滲みでるものなのだろう。

期せずしてスピルバーグ(『SUPER 8』のプロデューサーでもある)の『未知との遭遇』を見直してみると、かの有名な宇宙との交信音を耳にしたヒロインが、ふと懐かしい情景を再訪するかのように"I know・・・(知ってる)"と口にする。その表情は『SUPER 8』を体感した僕らが浮かべる特殊な柔らかさに包まれていたかもしれない。

『未知との遭遇』『E.T.』『ジュラシック・パーク』『宇宙戦争』『グーニーズ』・・・この映画を的確に伝えるためには、感想よりもこれらの作品名を連ねるのがいちばん手っ取り早い。さながら心の痛みを抱えた主人公は、『グーニーズ』のマイキーか、『E.T.』のエリオット少年のようだ。彼らの存在は、かつて僕らがあんなに巨大で、その暗闇が無限に続くかに見えた映画館で感情移入し、その体内に入り込んで自ら大冒険を繰り広げた―そんな思いを可能にしてくれた、まさに“アバター”のような存在だった。

この3D全盛期、なぜJ.J.エイブラムスはこの作品を3Dで撮らなかったのかとの声を聴く。しかし思い出してほしい。あの列車事故にまつわるリアルな現場を“背景”に、少年たちはその“前景”でカメラを回しフィクションを紡ぐ。同一のフレームに二種類の次元が同居する、この不可思議な二重性。つまりはすべてあの太っちょオーソン・ウェルズ少年が言うように、この時点すでに「奥行きが増す!」ということなのだろう。すでに立体的である構造に、3D技術なんて必要ない。

また、このシーンに象徴されるように、主人公の心の痛みは同一フレームで“リアル”と“イマジネーション”を拮抗させ、この通過儀礼を乗り越えることで、いつしかカメラのレンズを通さない形でキュアの次元へと導かれていく。ある意味、この物語は少年の心象風景をSFとしてスクリーンに投影したもの。と同時に“怪物”に込められた意味も限定されるべきものではなく、あらゆる可能性に向けて開かれている。究極的には一番遠い存在、なおかつ一番近い存在=少年自身でさえあり得るのだろう。

そして、夢のような2時間が過ぎ去り場内が明るくなって、ふうと一息呼吸をおいてから、自分の両手を見つめる。さっきまでスクリーンを駆けまわっていた自分が、もはやあの頃の少年ではないことに打ちのめされる。むしろあの子供たちの親たちと同じ世代になっている。

いつのまにか僕は、あの子たちの想像も及ばないような遠く遠く、それこそあの光が飛翔していく、その更にずっと先まで、やってきてしまったようだ。

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