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2011/06/26

【レビュー】兄兄兄妹

かつて『シンク』という作品でPFFグランプリを受賞した村松正浩監督の中編『兄兄兄妹』と『グレイト・グランマ・イズ・スティル・アライブ』が、シネマート六本木にて開催中のインディーズ映画祭「映画太郎」にて上映される(6月26日、19:30~)。

とっておきの映画、知る人ぞ知る映画を見つける喜びとは、このようなことを言うのだろう。

2年ほど前、僕は渋谷で行われた上映会でこの『兄兄兄妹』を観て、なんだこりゃ!と仰け反った。物語は「ある日、自分の兄が3人に見えるようになった妹」を語り手に進んでいく。「お兄ちゃん」と声をかけると、いっせいに振り返る3人の男。いや、実質的には一人なのだが、見える人には3人に見えるのだ。そして彼らはどうやら3者それぞれに役割を持ち、相談したり、シチュエーションに合わせて代わる代わる前に出たり引っ込んだりしながら日々の暮らしを送る。つまりはその総和が“お兄ちゃん”ということらしかった。

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ひとの心の奥底は誰にも見えないもの。が、これをあえてスクリーン上に手のひらを拡げるかのように見せてしまうのが『兄兄兄妹』の類稀なるマジック・リアリズムだ。このジャンルにおいては、あくまでリアルを追究する手法として“超現実”のスイッチが押される。この境界線が滑らかであればあるほど、観客はそれがこっち側なのかあっち側なのか判別がつかず、その蛇行する線上において滑らかにリアルの間口を広げ、心地よく受け入れてしまう。

これは古典的に見れば舞台上の役者が自問自答したり、善なる自分と悪なる自分とを闘わせたりすうようなごく伝統的な表現方法なのかもしれない。しかし、この製作から数年の月日が経過し、ひとりの人間がインターネット上で「フェイスブック」「mixi」「ツイッター」とその都度“複数の自分”を使い分けるようになった昨今、この概念・設定が以前にも増して、よりリアルに社会を映し出していることにハッとさせられる。

そしてどうやらこの世界では、お兄ちゃんのほかにも大勢のひとたちが、それぞれの“複数の自分”を引き連れて生きているらしい。とくに村の集会所で開かれる合コンの場面は出色だ。畳部屋にまばらにしか存在しない参加者の姿を映し出し、カメラが玄関口へとパンする。そこで参加者のやり取りがいくらか盛り込まれたあと、再びカメラが元の場所にパンすると、今度は単眼から複眼へと切り替えられたかのように、畳部屋に入りきらないくらいの人々が大勢ひしめきあっている。個人戦は突如として団体戦となる。複数の自分を抱えた者どうしが、まるで群舞のように身体を駆使しながら、擬人化された細かなディテールの衝突を描き込んでいく。

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またこんな荒波の中で、気の弱そうな“3人の兄”が最もありえない女性に恋をする。会社の陸上部に所属し、ライバルに勝てないからという理由で「あの子、車とかで轢いちゃわない?」とか平気で言う女だ。あだ名をつけるなら、「泥棒猫」とか「いちばん口汚い女囚」とか、そんな感じだ。どうしてこんな子を好きになっちゃったのか。ふと口にされる妹の推察が鋭い。なるほど、と得心した。人間の相性なんてパズルのように複雑かと思いきや、一方でこんなにまで単純明快に噛み合ってしまうのか。ここの描写も実にリアルだ。

かつて香港アクション映画の巨匠ジョニー・トーは、『マッド探偵』という作品で“個人の複数性”を描いた。が、当の村松監督にしてみれば、この映画を観た経験はないそうだ。これはむしろ村松監督が講師を務める映画講座の生徒を大量に活用するという名目で生み出された苦肉、転じて画期的な策(つまり、主役級が増える)と言えるのだろう。

観客にとっても一目で理解可能な、それほどまでに我々の感覚に沁み込んだ手法でありながら、その複眼性について従来よりもさらに突き詰め、人間社会を構成する最小単位の、更にその先を切り開いてみせる力作。

そこに何か声高に訴えかけたいテーマがあるわけではないが、むしろそのささやかな“気づき”が、静謐な透明性を讃える映像と相俟って、とても心地よく、また有意義な映像体験として胸に沁み込んできた。

*『兄兄兄妹』はシネマート六本木にて開催中の「映画太郎」という映画祭の中の、6月26日(日)19:30~のGプログラムで上映されます。同時上映は村松正浩監督の『グレイト・グランマ・イズ・スティル・アライブ』と、今年のカンヌ映画祭短編部門で日本からエントリーを果たした若干24歳の田村恵美監督による『ふたつのウーテル』。この貴重な機会をお見逃しなく!

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