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2011/06/30

【レビュー】マイティ・ソー

60年代にコミック・デビューしたマーヴェル・ヒーローが新たに映画界へと殴り込みをかけてきた。彼の名は“ソー”。彼のタイプを類別するのはいささか困難だ。突然変異型でもなければ、特殊能力型とも言い難い。かといってアイアンマンみたく自作自演型というわけでもない。なにしろ彼は神なのだ。全知全能の神、の息子の、やがて後を継いで神界を治めることになるであろう、まだ若くて横暴なプリンス。そんな彼が父の逆鱗に触れ、地球へと追放されたことから、地球上での“ヒーロー”たるきっかけが生じていく。

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アメコミに興味のない人には触手の動かない作品かもしれない。見てくれもやや野暮ったい。「これを観たから人生が救われた!生きてるって素晴らしい!」と感動するタイプでもさらさらない。しかし常にあらゆる作品をいったんは肯定的に受けとめることを自分に課した筆者にはとても面白く感じられた。今どき小学生も使わない表現を駆使すれば、ドキドキワクワク。なぜだろう。どうしてなんでしょう。

やっぱり僕は監督名でこの映画を観てたんだと思う。シェイクスピア俳優として、また自らも映画や舞台の演出を手掛けるケネス・ブラナーがいったいこのジャンルをどのように料理するのか?と。

確かにケネス・ブラナーは神々の世界においてまるでシェイクスピア劇に登場する王宮のような荘厳さを付与した。彼が「シェイクスピア劇に長けている」ということは、裏返してみるとアップデートの名手ということにもつながる。そういうコスチューム・プレイの面白さを、現代へと伝える策に長じているということだ。アンソニー・ホプキンスが片目に眼帯はめて腹の底からセリフを響かせたり、馬にまたがりその前足をヒヒヒンと上下させたりする威厳あふれる光景を、単なるオモシロ映像としてではなく、それなりの整合性を持って伝えられるのは、ちゃんと型を知ったブラナーならではだろう。少なくともジョン・ファヴロー(『アイアンマン』)やジョー・ジョンストン(『キャプテン・アメリカ』)、マーティン・キャンベル(『グリーン・ランタン』、こちらはDCコミックだが)にはできない芸当だ。

そうやってひとつの“神の世界”を成立させる一方で、ブラナーはもう二つの全く気色もテンションもスケールも異なる世界の創出にも挑む。ひとつは氷に閉ざされた敵地。ここでは神殿でのフラストレーションをぶちまけるかのように過剰なほどCG満載のバトルが無尽蔵に繰り広げられる。そしてもうひとつは我々の勝手知ったる地球(ここでようやくヒロイン役のナタリー・ポートマンが登場するわけだが)。そもそもこの三角関係こそ原作コミック「マイティ・ソー」の持ち味たる世界観なのだろうが、それをいざひとつの作品としてスクリーン上に成立させるとなると、これはかなりの至難のワザとなる。

また終盤のメインとなるこの地球では、今後のヒーロー総出演ムービー『アベンジャーズ』へと連なる人々もうごめく中(弓矢を持った隊員にも注目)、その3世界(これを伝統性、カタルシス性、現代性とでも言おうか)をいっしょくたに放り込んだかのような温度感の衝突が描かれる。

とりわけシェイクスピア的演技を地球人(現代人)の文脈で「ちょっと、どうしちゃったの…?」と不安気に見つめるシーンが多く見られる。実はこの『星の王子様ニューヨークへ行く』的な、「ハムレット、アメリカの田舎町へ墜ちる」こそ、実はケネス・ブラナーのいちばんやりたかったことではないだろうか。そこで加えられる「あの人、変わってるよね」的な笑いこそ、ブラナーが自分に捧げたセルフ・パロディ、つまりはシェイクスピアを現代に受け継ぐ表現者としてのメンタリティのように感じられた。

シェイクスピア劇のみならず、あらゆる劇作品で重要なのもそこだと思うのだ。伝統性とカタルシスと現代性、この三者が拮抗するところに物語は宿る。ただし、この領域を自在に行き来する際には、両者を隔てる開閉門の管理がとても重要となるのは言うまでもない。『マイティ・ソー』を観終わった後、無性にあの盲目の門番のことが思い出される理由も、実はそこのあたりにあるのかもしれない。

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