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2011/06/14

【レビュー】テンペスト

「テンペスト」がこの世に生を受けるのは、映画の発明から遡ること300年前。その後、幾度となく舞台として上演され、映画の原作としても名を残してきたこのシェイクスピアの系譜に、新たな作品が加わった。それも「ライオン・キング」をはじめとする舞台作品で名高いジュリー・テイモアが監督を務めているのだから、観客としては古典の域にとどまらぬスタイリッシュな創造性を期待せずにはいられない。それこそ彼女の初監督作でシェイクスピア物『タイタス』が見事な映像的興奮を獲得していたように。

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物語は“テンペスト(嵐)”と共に始まる。手のひらに形作られた砂の城が雨に打たれ象徴的に崩壊する。雨粒はなおも激しく地を這い、それに抗おうと身をくねらせる洋上の船はやがて大きな破裂音と共に木端微塵となる。しかし命を落とした者はいなかった。高貴な身なりの男たちはバラバラに区分され、近くの島へと流れ着く。目を覚ましたその地で彼らは命拾いしたことに歓喜するかもしれない。だがここはかつて彼らに追放されし女王の住む島。彼女は魔法を使う。科学も使う。もちろん一連の嵐だって彼女が意図的に起こしたものだ。さあ、役者はすべて揃った。「LOST」のごとく不思議な現象の多発するこの島で、女王プロスペローが秘かにたくらむものとは―。

セリフはほぼ原文のままだという。だが決定的な違いとして、科学と魔法を操る主人公プロスペローは本作ではジュリー・テイモア監督と同じ“女性”となり(注意・性転換したという意味では無い!)、アカデミー賞女優ヘレン・ミレンがこの役を凄まじい執念で生ききってみせる。さすが英国俳優、シェイクスピアは基礎の基礎だ。身体にセリフが沁み込んでいる。吐き出すその一言に炎の揺らめきが見える。

また、原作では「怪獣」と称される奇妙な生き物を、ここでは黒人俳優のジャイモン・フンスウが演じる。おそらくアフリカ系の観客が本作を目の当たりにしたなら、やや表情を歪めてしまうだろう。テイモアはシェイクスピア以前も以降も人類が変わらず歩んできた植民地支配の略奪と憎悪の記憶を、ここにそのまま刻み込もうとしているからだ。やがてこの映画の出演者たちは大団円を迎えるかもしれない。だが、この怪物だけは蚊帳の外だ。最後まで掠奪者との間に和解が成し遂げられることはない。

が、ヘレン・ミレンが彼を見つめる視線に、僅かに感情の揺らめきが見えたのも事実だ。それは果たして贖罪だったのか、我が子を想うかのような親しみだったのか、あるいは人間になりきれない存在に対する憐れみか、永遠に相いれない絶望的な隔たりだったのか。個人的にはここらの曖昧な描写が意味深に思えたり、あるいは言葉足らずに感じられたり(しかしこれ以上描いてしまうと、本筋が原文から逸脱してしまう。ここがジュリー・テイモアが盛り込み得るギリギリの限界だったのだろう)。

かくもジュリー・テイモア版『テンペスト』は、シェイクスピア時代の通低観念に基づいて書かれたこの原作の細部を実験的に入れ替えることにより、そこを貫く言葉の槍でもって現代さえも見事に突き通してみせる。我々は過去のコスチューム・プレイを眺めながら、そこに自分たちにとってごく身近な観念さえもが乱反射して映り込む様を発見するだろう。そして嵐のあと、プロスペローが魔法と科学を駆使した怒りの矛を収め、皆が朗らかな笑顔に包まれる瞬間に、震災を経た日本の姿、近い未来そうなってほしいと願わずにはいられない姿さえもが映り込んでいる気がして、思わず胸が悲鳴をあげそうになった。

そこで「新世界へ!」という言葉が耳にこだまする。

シェイクスピアの作品ではお馴染みのこの言葉に、これほど希望を込めて心が呼応したのは今回が初めてだったかもしれない。

僕の耳にはこれが「新しい時代へ!」という意味に聴こえたのだ。

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