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2011/07/03

【レビュー】ラスト・ターゲット

U2のアルバム・ジャケットをはじめとする数多くのアーティストを被写体としたアートワーク、また独創性あふれるミュージック・ビデオの演出などでも知られるアントン・コービン。彼が監督第一弾に選んだ『コントロール』は、これまで自分の見つめ続けてきたミュージシャンの肖像をモノクロームの魔法で彩り、世界中から多くの賞賛を集めた。あれから2年、ついに監督第二弾が届けられる。今回は全編カラー。ひとりの殺し屋をめぐる物語だという。まさに助走から大いなる羽ばたきへとフォーメーションを変えたコービンの勝負どころの一本。その出来栄えのほどは、いかに。

American

原題は"The American"。ひとりのアメリカ人の殺し屋が、潜伏先の北欧で命を狙われる。どこからか情報が漏れたのか。「カステルヴェッキオで連絡をまて」。そう指示された彼は、中世の雰囲気を今なお讃えるこの美しい街で、北欧とは違う、眩しすぎるほどの陽光に身をさらしながら静かな毎日をやり過ごす。

最初はよそよそしかった住人たちとも少しずつ打ちとけていく。しかしそれでいて、いつまで経っても「おい、アメリカ人」などと呼ばれたりもする。彼は少しはイタリア語が話せるかもしれない。が、究極的には異邦人だであることには変わりなかった。そんな中、彼はひとりの娼婦と出逢い、徐々に惹かれていく。と、機を同じくして、もうひとりの女が登場。彼女はアメリカ人に銃の調達を依頼するのだが。。。

蝶が葉に止まった束の間を描いたかのような本作で、クルーニーは寡黙すぎるほどに言葉を発しない(アメリカ人なのに!)。どこからか感じる視線。後をつけてくる男の影。俺は命を狙われているのかいないのか。焦燥感だけが募る毎日。ときどきストイックに筋トレに精を出したりするものの(身体の引き締まり方がまるでスティーヴ・マックイーンのようだ)、ふと今度はストイックな目つきで外出するのでどこ行くのかと思いきや、なんとまあ、彼も人間ゆえ、不安を紛らすべく娼館に行きますわなあ。またここで惜しげもなく全裸をさらすネーチャンの、見るからにフワリとしたオシリのカタチには思わずため息がこぼれる。これだけで1800円払ってもいいくらいだ(俺も思い切ったこと言うなあ…)。

しかし主人公が殺し屋だからって、常に拳銃をバキュンバキュンと撃ちあう映画を思い描くと手痛い失敗をする。これは極めてアーティーなサスペンスだ。まるでLimboの世界で、もっと根源的な命のやりとりが行われているかのよう。美しさ&幻想性に包まれた街並みを背景に、最初から最後まで線をピンと張られた静謐感が身を浸す。きっとカステルベッキオ自体が主人公の心理を投影した箱庭的存在なのだ。そこに眩い光が満ちていれば彼の心にも光があふれる。彼の動線によって細かな道筋が分かり始め、いつしかこの街の全景が頭に思い浮かぶようになる。主人公が今日はどの道を通るかによって、その秘めたる目論見が伝わってくる。また、街が徐々に祝祭的雰囲気に包まれていくの従い、映画も、主人公も、ハイライトの到来を感じとり、じっと運命の瞬きを待ち続ける。

それ以上でも以下でもない。そんなミニマルなつくりだが、ラストはひとつの旅を終えたかのような感慨に包みこんでくれる。写真家がひとつのフレーム内に世界を閉じ込めるように、本作でもコービンは見事に生を凝縮してみせた。

なお、飛び立つ蝶に呼応するかのように、つい先日、アントン・コービンの監督第3弾が発表された。スパイ小説で名高いジョン・ル・カレのポリティカル・サスペンス"A Most Wanted Man"だ(詳しくはこちら)。この未知なる素材をどのように料理するのか。コービンの采配に期待したい。

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