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2011/08/07

【レビュー】 モールス "Let Me In"

*本編をご覧になった方のみ、お入りください。

オリジナルの壁はそう易々と越えられない。仮に作り手が思い上がってオリジナルの上手に立とうとすると、その基本形がバラバラになって、成立するはずのものも成立しなくなる。シェイクスピア劇の翻案ならまだしも、つくづくリメイクに野心は禁物なのだ。所詮、人類が創造主に挑もうとすること自体、おこがましい。

それがスウェーデン映画"Let the Right One In"(邦題『ぼくのエリ/200歳の少女』)のリメイクとあってはなおさらのこと。すでにその基本線が美しい流線型を描いているので、あえてひねりを加える必要もない。リメイク版監督マット・リーヴスに出来ることは、ただただ謙虚な気持ちに浸りつつ、あの子供たちの旅立ちを笑顔で祝福してあげることだけだ。

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そこのところ、さすがにリーヴスは分かっている。自己主張のかたまりのような人材渦巻くハリウッドでこれほど謙虚で良いんだろうか、と心配になるほど、マット・リーヴスは身の丈をよくわきまえている。それは彼自身がオリジナル映画へと注ぐ限りない愛情と、畏怖心の表われだろう。オリジナルは越えられない。それなら自分にできることを精一杯やろう。英語圏にこの物語の素晴らしいエッセンスを伝えよう。

そこで踏み出す第一歩として、彼はオリジナルとは趣向を変え、こんな場面から映画を起動させる。

おぼろげな光が見える。やがてそれは赤い回転灯が列を成して車道を走る姿だとわかる。緊急車両がどこかへ向かっている。何か事件が起こったらしい―。

ファーストカットの時点でちょうどストーリーの半分が経過している。まるで昔の「観客入れ替えなし」の映画館で、途中入場して映画を見始めたときのような、ループ感覚。こうやって物語は唐突にはじまり、そこでいったん間を置いてから、あらためてフラッシュバックのように前半の記憶が呼び覚まされていく。

マット・リーヴスがどれほど確信犯的にやっているのか分からないが、実はこの語り口こそ、オリジナル版に込められた息吹を、リメイクする意義へと繋げる一つの重要なポイントといえる。

というのも、ヴァンパイア版『小さな恋のメロディ』とも言われるオリジナル版で、大人たちを魅了するのもまた、本作を彩るループ=輪廻の香りだったからだ。

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そもそも、この映画は劇中にタイムマシンのような劇的構造を宿している。あの“少女の父親”と思しき人物がいったい誰だったのか。詳述はされなくとも彼の目線でハッキリとわかる。原作「モールス」では少年とあの“父親”の動線が対比して描かれる部分が多数あり、彼らに何かしらの共通点があることを示唆している。同一人物とは言わない。が、明らかに似た立場ではある。片や「あり得たかもしれない過去」であり、片や「あり得るかもしれない未来」。老人はやがて去りゆく運命にある。そして新たな少年があの娘の守護者となる。歴史は繰り返される。ループ。そして役割の輪廻。

リメイク版であの父親を演じるのは『扉をたたく人』でアカデミー賞主演男優賞候補になったリチャード・ジェンキンスだ。いまいちばん油の乗っている名優をあの役にキャスティングすること自体、そこに重きを置き、観客の視線を自ずと導こうとしている証拠である。

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思い返せば、スウェーデン版オリジナルのクライマックス、少年と少女は二人で列車に乗り、次なる新たな住処を目指して旅に繰り出した。その到着地が北欧内でなきゃならない決まりは何もない。ヨーロッパでも、そしてこのリメイク版で描かれたアメリカでも一向に構わない。と考えたとき、今回の『モールス』は、リメイクというよりむしろ彼らが辿りついた矢先で巻き起こる“続編”だったのではないかとする見立ても成り立つ。同様にこれをオリジナルへ連なる“プリークエル”とする見方だって可能だ。

本作のエンディングでも少年と少女はまた二人して旅に出る。その先は南米?アフリカ?アジア?はたまた日本であったって全然構わないのだろう。どこだってこの物語は大いに成立する。そして行きつく先がどこであっても、いつの日か少年は、またバトンを、あの愛する少女を誰かに託そうとするだろう。この物語を貫くループはなおも延々と続いていく。かつて途中入場して観た映画のように、幾たびも冒頭の風景へと舞い戻り、物語を奏でていく。

マット・リーヴスは謙虚過ぎる映像作家かもしれない。けれど彼はここに「リメイクする意味」を見出し、それを理解する人々に対してのみ、壁ごしにひそやかな合図を送り続けている。

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あのモールス信号のように。

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