【レビュー】 インシディアス
insidious―(形容詞)狡猾な、邪悪な、知らぬ間に進行する
血が一滴も流れないホラーが成立するのか?この答えとなるのが映画『インシディアス』だ。米ハロウィン興行の代名詞たる『パラノーマル・アクティビティ』と『ソウ』の創始者どうしがライバルとしての垣根を越えて強力タッグを組み、送り出すこのビックリおばけ屋敷。厳密に血が流れなかったかどうかは定かではないが、少なくともスプラッターシーンは皆無だ。腕がモゲたり、首が飛んだりもしない。まるでクリエイターたちが自らに足枷を付け、制限の中でいかに恐怖を演出するかのお化け博覧会に繰り出したかのようなアイディアの数々。
本作は製作費150万ドルというハリウッド映画にしては格安な仕込みながら、世界興収9000万ドルという数字を叩き出した。単純計算で原価の60倍の売り上げ(ちなみに『パラノーマル・アクティビティ』は製作費15000ドルで世界興収1億9300万ドルを記録)、この利益率は2011年の映画界において最高レベルとされている。
僕自身、かなり怖がりな人間ではあるのだが、それでも目を覆うようなシーンはなかった。前半こそ『パラノーマル』的な家の異変を徐々に醸成していき、中盤からはお化けたちが次々に家で知覚されていく。とくに印象深かったのは、何かを察知して外に飛び出したヒロインがあらためて家の中を見やると、そこでハワイアンのようなヒュルヒュルした音楽に合わせて、異形の者が楽しそうに身をくねらせてダンスに興じている場面だ。その者はヒロインの視線に気づくと「へへへ!」と言い残して逃げ去っていく。これは“インシディアス”と呼ぶにはあまりに楽しすぎるシークエンスだった。ちょっと怖かったけれど。
後半はさらにツイストに磨きがかかる。手に負えなくなった夫婦の依頼を受けてゴーストバスターズのようなチームが投入されるのだ。小柄のメガネ男と大柄のヒゲ男の二人組は、ひとりがそこで耳にした言葉を事細かに書き取り、もう一人がそれらを映像として記録する。さも二つの特性が融合したところに“映画”という文化が成立するのだと言わんばかり。この細かな趣向もニクイ。
そして彼らのもとにどんな恐怖をも吹き飛ばす最大の“邪悪者”が現れる。
(以下の画像はアメリカ版予告編でも使われていたものです。ネタばれは勘弁って方はご遠慮ください)
| 固定リンク