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2011/08/18

【レビュー】 おじいさんと草原の小学校

BBCワールド・ニュースを観ていたときのこと。ふいに映画の話題となり、リポーターが「ここ、ロンドンでは―」と切り出した(世界向けのニュースゆえ、“ロンドンのいま”を伝えているのだ)。

「"The First Grader"という新作が話題になっています。これは小学校教育が一律無料化されたケニアで、84歳のオジイサンが読み書きを習おうと、子供たちに交じって日々学校へ通う物語です」

リポートに合わせて劇中場面が映し出される。子供たちと同じ制服を着たオジイサンが草原をぐんぐん歩いて、一路、小学校を目指している。そしていざ授業が始まると、子供たちよりも懸命に教師の話に耳を傾け、必死にノートをとる。

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たったそれだけで「観たい!」と思った。そう思わせるパワーが、オジイサンの放つ無言のオーラが、この映像にはふんだんに詰まっていた。

こんな映画が日本で公開されるといいな、そう願いつつ、溜まっている試写状の整理をしていたら、あれれ、見覚えのあるビジュアルが一枚。たくさんの子供たちが頭上を向いて歓声を上げる中、ひとりだけオジイサンの姿。こ…これは!

というわけで、思いがけずも"The First Grader"は『おじいさんと草原の小学校』という邦題で日本公開が決まっていた。『ブーリン家の姉妹』で英国史に残る事件を情感豊かに描き出したジャスティン・チャドウィックの監督作。

映画はやがて、ひ孫ほどの子供らと机を並べるおじいさんが、実は50年近く前、イギリスの植民地だったこの国に独立運動の火を付けるきっかけとなったマウマウ団の一員で、祖国のために多くのものを犠牲にして生きてきた男ということが分かってくる。そして、やがてこの「84歳の小学生」のニュースが広まるにつれ、世界中がこの場所に熱い視線を注ぎ、ケニア政府の高官までもが「この国を有名にしてくれたありがとう」と表敬訪問するまでに。Thefirstgrader4hr

たしかに舞台はひとつの村、ひとつの小学校かもしれない。しかし、子供たちに象徴されるこの国の未来は、おじいさんの出現によってこの場に居ながらにして過去の記憶と邂逅を遂げる。なおかつ、世界の果てであったはずのこの地は、「84歳の小学生」のニュースが広まるにつれ、世界中の注目を集め、政府高官までもが「この国を有名にしてくれてありがとう」と表敬訪問するまでになる。つまり惑星直結のごとく何らかの縦軸横軸がこの小学校の頭上で見事に交錯するわけだ。それでいて、この国を覆う偏見や汚職といったものを添えることも忘れない。

これらの歴史を全く知らなかった僕には、とても意義深い映画探訪となった。そしてクライマックスに巻き起こる、おじいさん、校長先生(『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『28日後』のナオミ・ハリス演じる)、子供たちといったまさに3世代によるそれぞれの奮闘には映画的な高揚を禁じ得ない。

Firstgrader
先のBBCのリポーターはこうも語る。

「やや抒情的過ぎるとの意見もあるようですが―」

確かにそうかもしれない。でも、未知なるものを伝えるとき、抒情性に訴えかけることは、ひとつの効果的な手段でさえある。それよりも僕らは、この映画がケニア人ではない、英国人のチャドウィック監督によって作られたことに注目すべきなのかもしれない。その姿勢にはいくばくかの贖罪の意味も読みとれる。人は自分が被った痛みは生涯忘れないが、与えた痛みに関してはすぐに忘却してしまう。僕らと等しく、英国人にとってもこれは未知なる歴史、未知なる物語なのかもしれない。

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