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2011/10/31

【TIFF】転山 KORA

空前の自転車ブームだという。11月には『僕たちのバイシクル・ロード』というドキュメンタリー映画の公開を控える中、ひと足早く東京国際映画祭にて中国の自転車映画がお披露目された。それがこの『転山』。若くして亡くなった兄の意志を継いで、大学を出たばかりの台湾人青年が自転車でチベットのラサを目指すロードムービーだ。

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原作は「KORA」という小説。そのタイトルは西チベットの聖山巡礼を意味する言葉なのだとか。

主人公のシューハオは最初のシーンからずっと俯き加減で、それが彼の元来の性格なのか、あるいは兄の死を悼む気持ちがそうさせるのか判然としない。しかしどう転んだとしても、彼が挑むのは麗江からラサまでのチベットの山々の激しい高低差を超えて突き進む1800キロ。多くの旅行記やロードムービーがそうであるように、彼もまた旅によって大きく成長する。そのバロメーターとして彼の表情がみるみる変わっていく様子が、まるで植物が水を得てみるみる生気をみなぎらせていくようにヴィヴィッドに描かれている。

そのきっかけとなるのが人との出逢いだ。人から騙されるという歯切れの悪いスタートを切ったシューハオはやがてひとりの中年男シャオチュアンと運命のめぐりあいを果たす。無口なシューハオに比べて、旅の大先輩たるシャオチュアンはよく檄を飛ばし、よくしゃべり、夢を語り、いつもポジティブで、笑顔を絶やさない。彼もまた旅によって大きく性格が変わったひとりだという。

15_1 また、ふたりが足を踏み入れるチベットの宿泊先では、ひとりのシングルマザーとその息子がシューハオに笑顔を授けてくれるのだった。人から慕われる喜びを改めて知った彼は、その後のペダルを漕ぐ足や上り坂の苦闘でも一段の力強さを見せるようになっていく。

そして彼らには最大の試練が。かつての兄と同じく、生命の危機に見舞われたりも。病院に担ぎ込まれたり、野良犬の群れに襲われたり、バラバラになりそうな部品を紐で括りつけたりもしながら進む旅路。くじけそうになる心を何度も奮い立たせて、もはや兄の追悼の想いを超えた、他ならぬ自分の限界との闘いへ突入していく。セリフも霧消させながら、映像の迫力だけで延々と続いていくこの時間。その孤独、強靭さ、意志の力―。

15_2_2 その変移を彩るあまりに雄大な景色もこの映画の重要な見どころのひとつだ。ロードムービーの醍醐味とは、主人公のみならずスタッフもキャストも同じ道のりを越えていく“旅人”であること。そしてチベットの牧歌的な村々から、標高5000メートルの岩肌、急勾配の下り道、アルプスを望む崖の淵に至るまで、映画というエンタテインメント装置で見られる内容としてはレベルの違いすぎるダイナミックな映像の数々が次々と提示され、驚きと共に享受されていく。

その意味でこの『転山』という物語の向こう側には、この映画作りにまつわるもう一枚の物語が複層を成して付着している。「どうやって撮ったんだろう?」 そんな観客の気持ちを察してか、エンディングにはその撮影の裏側までもが登場。この手の“おまけ”が無条件で許されるのは、ジャッキー・チェンとこの映画くらいのものだ。

それはそうと、本作のドウ・ジャーイー監督も、同じくコンペ部門に出品の『キツツキと雨』の沖田修一監督も、僕とおなじ77年生。同世代監督たちがこれら秀作のペダルを漕ぎ唯一無二の道程を築き上げていく姿に、こちらも大きく突き動かされる想いがする。

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