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2011/11/21

【レビュー】Drive ドライヴ

「カー・アクション映画が受賞?」

今年のカンヌで本作が監督賞を獲ったとき、誰もが耳を疑った。この由緒正しき祭典では芸術性や作家性の高い映画こそ受賞にふさわしきものと思われていたからだ。

しかし映画をひと目見ればわかる。本作は確かにカーアクションを要所にフィーチャーしながらも、それ以上に確かな作家性と芸術性が同居し、眼前に迫り出してくる。"Drive"というタイトルは単に“走行する”というだけでなく、あたかも“人生”や“宿命”、“避けては通れない道”、"Survive"、“仁義”などという多義性を飲み込んで、主人公の人生から抽出される一つの観念のように思えてくる。

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「5分だ。5分間は何があろうと待ってる。だがそのリミットを過ぎれば、俺はもう待たないぜ」

それが決めゼリフ。

ライアン・ゴズリング演じる主人公は映画製作のカー・スタントマンとして日銭を稼ぐ傍ら、強盗の車両担当として逃走の手助けを担っている。

冒頭から緊張感がみなぎる。彼は5分間で仕事を済ませてきた覆面のふたりを後部座席に乗せ、警察無線を使って相手の動きを察知しながら、鮮やかなドライビング・テクニックでスルスルと出し抜いていく。

その不可思議な眼光を放つ目線がなにを見つめているのか分からない。ほとんど言葉を口にしない。トレードマークはサソリの刺繍を宿したジャンパー。ドライビング・グローブ。口元には楊枝。

そんな彼の人生を一変させたのは、アパートの同じ階に暮らす母子との出逢いだった。運命は常にエレベーターの開閉と共に訪れる。夫でもなく、恋人でもなく、主人公はいつしかこの母子の守護天使となることを決意する。そして彼らの平穏を脅かそうとする者が現れた時、彼は静かな激情を胸に宿し、無表情のまま、怒涛の抗戦に打って出ようとしていた―

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デンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン監督が織りなす時間と空間、それに淡い光源の使い方に魅了される。このところ北欧出身監督の世界進出が目覚ましいが、その多くが見慣れた風景を別物
へと変えてしまう才能に満ちているのではないかと思う。レフン監督が描くこの物語も、独特のフィルターをかぶせワン・ツー・スリーのカウントで別世界へと塗り替えられてしまったかのよう。舞台はLAなのに、まるでこれがヨーロッパや北欧ですよ、と言われてもそのまま頷いてしまうような雰囲気に満ちている。

そしてエレベーターや廊下、スーパーの商品棚といったお決まりの閉所にてスローモーションでたっぷりと間合いを取りながら描写されるシークエンスの数々も印象を刻む。なにしろこの映画ではライアン・ゴズリングがずっとポーカーフェイスを決め込んでいる。そこに感情の発露は読みとれない。でもそれゆえ、充分に時間をかけて観客の目線を惹きつけるこれらスローモーションの動きにこそ、実は注目すべき感情の流れがギュッと凝縮されているということを我々は逆説的に気づかされるのだ。

主人公の体型がマッチョでないのも良い。もともとこの役にはヒュー・ジャックマンも候補に挙がっていたのだとか。彼は確かに名優ではあるが、本作はどこか得体のしれない宇宙人的ゴズリングだったからこそ、役柄の内部により多くの未知数を培養することに成功しているのだろう。

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と油断してると、中盤から堰を切ったように血糊があふれだすのにも圧倒される。ちょっとした覚悟が必要だ。バイオレンスなんてものじゃない。さらに輪をかけたハイパー・バイオレンス。炸裂する鮮血は時にピンク色に見えたりも。なるほど本作のクレジットが黒字にピンクなのにはそういう暗喩もあったのか。

いずれにしてもこの『ドライヴ』は助走・疾走の過程を抜けて、最後はどの方向性においても容赦・加減なく加速し、突き抜けていく。この映画のボルテージの変化がそのまま(表向きはポーカーフェイスを決め込む)主人公の感情の遍歴でもあったことは言うまでもない。そして彼の、恐らく生涯にいちどあるかないかの感情の爆発する様を助手席でしかと見つめ併走することこそ、観客に与えられた大切な役割なのだ。

これほど車を大挙させ物語を紡いでみせたレフン監督。たいそう車オタクなのだろうと思いきや、実はまったく興味がないどころか、免許証さえ持ってないという(試験に8回も落ちたんだとか)。しかしながらこの映画に限って言えば、だからこそ『ワイルド・スピード』とは180度違う映画になり得たのだろうと思う。

常人からは見えない角度や視点、方法で物事を見つめることが作家性なのだとしたら、やはりこの『Drive』は正真正銘、素晴らしい作家主義に貫かれた映画なのだ。カンヌの監督賞に選出されたのも今なら大いに頷ける。

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