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2011/11/27

【レビュー】J.エドガー

年に一度、今年もイーストウッドが撒いた種が実り、収穫の季節がめぐってきた。昨年のスピリチュアル・ドラマ『ヒアアフター』とは一線を画し、今回はFBIの創始者にして50年以上に渡りその長官の座を守り抜いてきたJ.エドガー・フーバーの人生に焦点をあて、1910年代から70年代に至るむせ返るほどの時代の香りを醸成しつつ、その複雑怪奇な人間性、ベールに隠された私生活に迫っていく。

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物語はイーストウッド作品ではお馴染みとなったピアノ音の響きで幕を開ける。

冒頭、「私の物語を語る時がきた」というセリフに続き、執務室にて自伝を口述しはじめるエドガーの姿(室内にはそれをタイプし、話に相槌を加える広報係のみ)。その述懐の起点となるのはエドガーがまだ20代の頃、パーマー司法長官の自宅が何者かによって爆破された事件だった。その日アメリカでは同時刻、8か所にて同じ爆破事件が起こり、パーマー宅に自転車で駆け付けたエドガーは、現場を無惨に踏み散らし証拠物件を台無しにする警察の姿に「これではダメだ。この状況をなんとか変えなければ」と感じたと言う。当時はまだ科学捜査が浸透しておらず、警察が捜査のために拳銃を携帯することも許されていなかった。

やがて、共産主義の台頭に目を光らせる司法省は友人や妻子を持たない若きエドガーを新設部門のトップに据える。異例の抜擢だった。彼はFBIの前進として船出したこの部門の舵をとりながら、時にはやり過ぎとも思える強権を振りかざし、大物政治家の秘密さえも掌握しながら、激動のアメリカ史を突き進んでいくことになる。

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『ミルク』のダスティン・ランス・ブラックが手掛けた脚本は、この最初期からの回想の流れに加えて「自伝を語る現在の老エドガー(60~70年代)」をもうひとつの流れとして提示する。つまり本作は50年にも及ぶ彼の在職期間をふたつの時間軸を往来することによって網羅していく。これらの社会と文化の激変期をひとつの大河の流れのごとく重厚に移ろわせ、なおかつその深部に仄光る感情の沈殿にも視線を注ぐ。その手際の良さは、さすが30年生まれのイーストウッドのなせる技。これはその時代の空気を「知っている」という強みなのか、それとも彼の語り部としての熟練ぶりゆえなのか。

本作はこれらの史実に加えて、私生活で徹底した秘密主義を貫いたエドガーの感情面に深く分け入っていく。イーストウッド作品の中で主人公は常に孤独だ。愛に飢えている。人間性の影を讃えている。それを「アウトサイダー」と呼ぶならば、エドガーもそのひとりに編入されるのだろうか。

ただしここでは重要な守護天使が3人も絡まってくる。エドガーが多大な信頼を寄せた個人秘書ヘレン・ガンディ(ナオミ・ワッツ)、副長官として公私ともに彼を支えたクライド・ネルソン(アーミー・ハマー)。そして必要以上に「成功を掴みとれ」「弱音を吐くな」と叱咤激励する強靭なる母(ジュディ・デンチ)。

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とりわけ一つの見せ場となるのはクライドとのホモセクシャルな関係性だろう。間違ってもイーストウッド映画なのだから、ふたりの男が裸で抱き合ったりするくだりは用意されていないが、それにも増して濃厚な、なんだか観ているこちらが照れてしまいそうなくらい激しくも純愛なシーンが用意されており、会場のあちこちで笑いが起こっていた。が、それは一瞬の過ちなどではない。その関係性はずっと続くわけである。20年、30年、40年。彼らがしわくちゃのおじいちゃんになるまで、二人は一緒なのだ。そこまでいくと神々しさすら感じる。なんだかその光景を見ているだけで心が絆されてしまう。

なおかつ特殊メイクを施したディカプリオ演じる老エドガーが、時おり『グラン・トリノ』の頑固爺さんのように見えてくるホームドラマ的な瞬間も泣かせる。老いて具合の優れない相棒クライドとのやり取りの数々。「今日はどこが痛い」だの、「もぐもぐ言わずにちゃんと喋れ」だの、「すっかり老いぼれてしまいよって」だの。そういった些細なセリフのいちいちを受け入れてくれる相手がいることの尊さがとても胸に沁みた。

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その意味でも本作はアーミー・ハマーやナオミ・ワッツの存在が効いているのかもしれない。彼らは目撃者であり、併走者でもあった。ディカプリオの鋭い眼光がスクリーンを貫こうとも、それを脇で誠心誠意フォローする彼らの姿がクッションとなり、観客との橋渡しになってくれる。これは同じ伝記映画にしてディカプリオの単独飛行映画と化していたマーティン・スコセッシ監督作『アビエイター』では見られなかったことではないだろうか。

ただし、本作は良くも悪くも伝記映画である。

映画に対してなんらかのストーリー的緩急を期待する人にとってはどこに感情をチューニングしてよいのか若干戸惑いを感じる節もあるだろう。よって観客側がこれを充分に堪能するためにはJ.エドガー・フーバーに関する簡単な略歴なり、アメリカ近代史なり頭に入れておいた方が無難だ。時間があればマイケル・マン監督作『パブリック・エネミーズ』を観てその時代への理解を深めておくのもひとつの手だろう。

そのほうが大河の水流が昇ったり下ったりする中で自分の居場所を常に把握しておける。安心してその移ろいに身を任せていられる。

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