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2011/11/07

【レビュー】僕たちのバイシクル・ロード~7大陸900日~

旅行記といえば、「東海道中膝栗毛」から沢木耕太郎の「深夜特急」、さらにはチェ・ゲバラの「モーターサイクル・ダイアリーズ」からジャック・ケルアックの「オン・ザ・ロード」や、果てには「水曜どうでしょう」の旅企画に至るまで、様々な名作が存在する。その中にこの長編映画を併記することはた多少なりとも無謀な行為なのかもしれない。

おそらく本作が名作であるか否かは今後の歴史の連なりがじっくりとその答えを熟成していくことになるのだろう。だが、歴史上の一瞬の通過者に過ぎない僕にとってこの映画は、まるで自分を夢と可能性とに満ち溢れた大学生のころに引きもどすかのような心の滋養強壮に満ちており、何よりも観終わった後に「ああ!旅に出たい!」という気持ちがとめどなく込み上げてくる。

Wheel02
『僕たちのバイシクル・ロード』は全くの無名の英国在住の若者たち(従兄どうし)が自転車に乗り込み、カメラを片手に、足掛け3年の月日を経て7大陸を横断していくドキュメンタリーだ。

取材班が同行しているわけではなく、最初から映画化の企画があったわけでもない。ギネスに挑戦しているわけでもないし、厳密にずーっと自転車移動というわけでもない(途中、余裕で列車移動を決め込んだりもする)。ルールは彼ら自身。自分で決めて、自分で実行する。カメラはそんな彼らの話し相手であり、観察眼であり、よきパートナーであり、守護天使。そんなところだ。すべては場当たり的な結果論であり、とりあえず彼らが無事に旅を成し終えたからこそ、今こうして旅日誌ならぬ旅映像の素材を編纂し、第三者(観客)に披露するという地点にまで辿りつけているのだ。

企画、発案、監督、編集、音楽、すべて俺たち。その意味でこれは究極のDIY旅行記といえるだろう。そして、ここでふと頭をよぎるのは、もしもゲバラやケルアックが現代を生きたなら、この若者たちと同じく、やっぱりビデオカメラを片手に旅に繰り出したんじゃないかという思いである。

Wheel03
“伝説の旅人”たちが筆や写真でその情景をヴィヴィッドに記録したように、ふたりの主人公たちが掲げるデジタルカメラは簡単なスイッチの切り替えだけで驚くべき世界の現状を切り取り、膨大な視覚情報を余すとこなく、しかも高画質で保存してくれる。一昔前まではアマチュアの映像をスクリーンで観賞するにはハード的にもクオリティ的にもとてもじゃないが耐えきれない場合が多かったが、今ではこんなにも生々しい世界の呼吸をダイレクトに伝えることができる。魂さえ燃やしていれば誰だってゲバラやケルアックになれる時代なのだ。

その肝心の映像にも見どころが詰まっている。ヨーロッパの幹線道路がやがて鬱蒼とした森林に飲みこまれ、それが再びロシアに近づくにつれ激しい交通量を獲得していく動線が、これまで観客が頭に描いていた地図とはまるで違う図法でもって世界を再生成していく。あの目線、あの角度で見上げた赤の広場。そこから中国へと南下し、テレビカメラも捉えたことの無いような名もなき村の、土砂崩れによって失われたライフラインを目の当たりにする。呆然と立ち尽くす二人。一方、その事態を当たり前のように寡黙に受け流す村人たち。

またどこの村を辿ろうとも、子供たちはいつも好奇心のかたまりのように群れでやって来て、なにを言ってるのかさっぱり分からない言葉と笑顔で旅の疲れをいやしてくれる。

旅はさらに南下し、シンガポールから無賃で船に乗りオーストラリアまで。

そこで金をはたいて、万策尽きたかと思いきや、今度は彼らはこれまでの旅の記録をリーフレットにまとめ、それを手売りして旅費を稼ぐ。その数、数万部(ちょっとした雑誌並みだ)。それが真実かどうかは分からない(すべては自己申告制なので)。だが、それを真っ正直に信じたくなる確たる目線や語り口がそこには存在する。DIY精神みなぎらせる彼らをいつの間にか旅の聖人列に加えてしまいたくなっている自分がいるのだ。この旅人と観客との心の距離のダイナミックな接近こそ、旅行記のもうひとつの醍醐味であることは言うまでもない。

Wheel01
またそのハイライトに位置するシークエンスとして、本作には南極大陸で自転車を走らせるというとんでもない映像が収められている。その隣をトコトコと並走するペンギン君たちのお戯れには、まるでここが全く違う惑星か何かではないかと思わせるほどの異様感というか浮遊感があふれ出る。こんな不思議な映像を体験させてくれて本当にありがとうと、素直にそう思える。

『僕たちのバイシクル・ロード』を観ながら、これだけ世界が瞬時に繋がる時代であっても、僕らにはまだ未体験の景色がおびただしいほど存在することに気づかされた。今の時代、「知ってる」気分になってることがあまりにも多すぎる。もちろんこの映画のスピリットや映像群もそれを実際に「知る」ことにはなりえないが、少なくとも自分が「知らない」ことを知り、それを楽しむ境地に立たせてくれる。

そしてその感動はやっぱり、ゲバラやケルアック、沢木耕太郎から大泉洋に至るまで、多くの先輩旅人たちがもたらしてくれた心の高揚と同種であったと、改めて気づかされるのだ。

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