« 【興行】北米週末Ranking Oct.28-30 | トップページ | 【予告編】We Need Talk About Kevin »

2011/11/01

【TIFF】デタッチメント

トニー・ケイという監督名に聞き覚えはあるだろうか?あの『アメリカン・ヒストリーX』を手掛けながら最終版をめぐってエドワード・ノートンと激しく対立し、自分のクレジットを「アラン・スミシー」(何らかの事情により作品から自分の名前を抹消したいとき、代わりにこの名前を用いる)に変えるよう協会に要請。しかしこの名前を使用する場合、その経緯について明らかにしないという暗黙のルールがあり、すでにこの顛末をマスコミに明かしていた彼の言い分は認められなかった。

そのトニー・ケイが新作『デタッチメント』を東京国際映画祭のコンペ部門へ送り込んできた。今度のテーマはなんと教育。オバマ政権下で幾度となく教育改革の必要性が訴えられ、また昨年には"Waiting for Superman"というドキュメンタリー映画(監督は『不都合な真実』のデイヴィス・グッゲンハイム)までもが大きな話題になったアメリカで、英国出身のケイ監督はいったいどんなストーリーを提示しようというのだろうか。

7
本作はひとりの代理教師の目線を通して、学校教育とその周辺の風景を事細かに映し出していく。

エイドリアン・ブロディ演じる教師ヘンリーは、前任のかなり荒くれた学校で、受け持った生徒たちの成績を上昇させることに成功したという。さあて、お手並み拝見。はたして新たな赴任先となるこのパブリックスクールでも前と同じやり方が通用しますかどうか。教卓の前に立った彼は諦念に満ちた表情でこう口火を切る。

「わたしに脅しは通用しない。やる気のない奴は即刻出ていってもらう」

7_1 熱血教師というわけではない。生徒への要求も多くはない。彼がこだわることといえば、生徒が目をそらしがちな現実に目を向けさせ、なぜ学ぶのか、どう未来を築いていくべきなのかを知る“チャンス”を与えてあげることだけ。

しかし学校というものは、他にも制御できない諸問題であふれている。生徒に舐められっぱなしのブライス・ハワード、カウンセラーのルーシー・リュ―、学生部長のジェームズ・カーン、校長のマーシャ・ゲイ・ハーデン。錚々たる顔触れを教職員室に並べ、それぞれが悩み、疲労し、精神に異常をきたし、それでも安定剤を服用しながら日々の業務にあたっている苦闘を浮き彫りにする。

ある教師は今日もまた「学校に行きたくないよ」と登校拒否の電話をかけてくる。ここは火のない戦場。生徒に愛情は通じない。彼らはテロのように問題を起こす。保護者は二言目には「それは学校の責任」。その実、我が子には無関心。もしかするとここはとてつもなくシュールなファンタジー・ランドなのかもしれない。

7_2 デジタルカメラを駆使したトニー・ケイは登場人物のクローズアップを基軸としながら、時にはイメージからイメージへ、ときには黒板にチョークでしたためたイラストレーションにも振れ幅を及ばせながら、まるで流動する思考体のように人間の意識の彷徨を自由自在に彩っていく。

美術セットに多用される“赤”も鮮烈だ。あたかもイマージェンシー・コールのようにそれぞれの人物の危険度合いを醸し出しているのかも。この映像の繋ぎ方をみてると、あの『アメリカン・ヒストリーX』の名場面や体温が蘇ってくる。結局あの頃はエドワード・ノートンひとりの手柄のように結論付けられてしまったが、本作を目の当たりにすると『ヒストリーX』がやはりトニー・ケイの才能の産物であったことがよく理解できる。

そしていつしか主人公ヘンリーは、亡き母、老人ホームで暮らす祖父をめぐる複雑な歴史をも紐解きながら、過去と現在、そして未来への可能性をこのカメラの一点において集約させていく。この動線もまた、テーマとフィールドは違えども、別の視点から挑んだ“もうひとつのアメリカン・ヒストリーX”と言えるのかもしれない。

主演エイドリアン・ブロディ自身は本作のエグゼクティヴ・プロデューサーをも兼任。またレオナルド・ディカプリオ率いる会社アッピアン・ウェイが製作を担っている。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

« 【興行】北米週末Ranking Oct.28-30 | トップページ | 【予告編】We Need Talk About Kevin »

awards」カテゴリの記事