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2011/12/17

【レビュー】灼熱の魂

パワフルだ。その言葉に尽きる。久々にフィクションの力、映画が観客を物語の内部へと引きずり込む圧倒的なパワーに打ちのめされた。どんな結末に至ろうとも決して目を背けず、このパワフルさに最後まで寄り添ってみる。そうすることで未来へ連なる希望の石をまた一つ積み上げられるような気さえした。

冒頭、レディオヘッドの楽曲がその気だるい歌声を響かせ、武器を抱えた大人たちのそばであの少年がこちら側を見つめてくる。どこの国なのか、どの時代なのかもわからない。ただ無言で、あの少年の視線だけが、そこには横たわる。眼球の輝きには希望も絶望も読みとれない。そしてこの眼力こそがこれから観客を気の遠くなるほど過酷な旅路にいざなおうとしていることなど、僕らは露ほども知らない。

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驚かされるのは本作がカナダ映画だということだ。舞台のひとつがケベック州なので劇中の大部分ではフランス語が交わされる。前に映画祭で出逢ったとあるカナダ人監督が、「カナダ映画には2種類ある。ひとつはフランス語で製作されるもの。これはフランスからの支援などもあり、活況です。もうひとつは英語で製作されるもの。こちらは隣国アメリカのおびただしい作品と競合しなければならないので、なかなか大変です」と語っていたのを思い出す。つまり『灼熱の魂』は前者。フランス語を通じて世界を繋げる作品ということができる。ケベックの街から世界へ向けて開け放たれた“窓”として。

では冒頭の少年の目と、この現代のケベックはいったいどのように結びついていくのか。そこが偶然と運命とを綱渡りして連なりゆく最大のミステリーだ。

物語を紐解く役目を担うのは、このカナダで母を失ったばかりの双子の姉弟。

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母はふたりに文書で遺言を託していた。「ここに2通の手紙がある。1通はあなた方の父親に。もう1通はあなた方のお兄さんに手渡して」。父の存在も、兄の存在もふたりにとって全く寝耳に水の話だった。そしてかつて遠い国から移民としてやってきたという母には、どうやら我が子にも伝えていない複雑な過去がありそうだった。

まずは姉が立ち上がる。数学者でもある彼女は、まるで母の身に起こった数理学上の謎を解明するかのように、一路、中東へ。執念深く手掛かりをたどり、導き出されてくる更なる謎に対処しようとする。その旅路はちょうど数十年前に若き母が辿ったであろう魂の遍歴ともオーバーラップしていく。

難民、宗教、民族、紛争、学生運動、革命、テロリズム―。映画内に盛り込まれるこれらの事象をすべてここで明かすわけにはいかない。が、ひとつ言っておきたいのは、本作は“謎解き”をメインにする類の映画では無いということだ。真相は情け容赦なく突きつけられる。我々はそれらを双子の姉弟と共に共有しつつ(現代っ子である彼らは、いわば観客と目線の代理人だ)、最後には衝撃の事実に身を悶えさせ、声にならない悲鳴をあげることになるだろう。この結末を予測することは極めて困難だし、そこには推理の醍醐味など微塵も存在しない。

そこでふと気付かされる。製作者が抱いていたであろうこの映画の意図をひとつ挙げるならば、それはやはり我々現代人が、本作をきっかけに自らの想像も及ばない運命、そして悲劇に想いを馳せ、その地に向かって窓を開け放とうとする意志を持つことなのだと思う。

それはまるでギリシアの民が過去の過ちを忘れぬために神々の物語として紡ぎ出したギリシア悲劇が、ふたたびこの現代に降臨したかのような感触だった。この結末をメタファーとして捉えるとき、ともに隣人であり兄弟でもある人間が互いに血で血を洗ってきた歴史に改めて判然とさせられる。

そして冒頭の少年の眼差しはいつしか姉弟の目の輝きへと受け継がれている。そこには希望や絶望ではない、意志の力が見て取れる。その言葉を廃した説得力は、“後悔”、そして“再生”はいつどの時代においても遅くはないのだと、我々に訴えかけてくるかのようだ。

オリジナルは演劇作品だという。原案の中でも姉弟が旅立つ中東地域がどこなのかは明言を避けているそうだ。そこからも作り手の意図が伺える。『灼熱の魂』は時代と場所を特定せず、過去も未来も、“わたし”と“あなた”との分け隔ても必要としない。その意味で、世界のあらゆる悲劇を鎮魂し、生まれ来るすべての生命を祝福し、閉じられた窓をいついつまでもノックし続ける、いわば人類の輪廻の物語といえるのだろう。

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