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2011/12/01

【レビュー】タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密

実に『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』以来となるスピルバーグのカムバック。この瞬間をどれだけ待ちわびたことか。しかも今回は彼の初となる3Dアニメーション参入。同時代に生きる最高のイマジネーションの使い手によるビジュアリティを映像化すべく、ピーター・ジャクソン率いるWETAワークショップも『アバター』『猿の惑星』に更なる応用を加えたモーションキャプチャー技術で援護し、誰もが馴染み深いタンタン少年の冒険譚が装いも新たな次元感覚で眼前に蘇ってきた。

Tintin
3D技術を手にしたスピルバーグはまるで全く新しい遊び道具を手にした幼子のように活き活きとしている。タイトルバックではコミック特有の絵心をのこしつつ、コマ割り風にストーリーを弾ませ、ふと気付くと、ページをめくる時のあの斜めに迫り出してくる感覚さえもが立体で表現されている(これまでこんなことを3Dで表現しようと思った人はいなかっただろう)。

正直に告白すれば、僕が本作でいちばん高揚したのはジョン・ウィリアムスのジャジーな旋律に乗せて流れるこのタイトルバックだった。それはどこか『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』との連なりも感じさせる。

そしていよいよストーリーの幕開け。鏡を多用して主人公の姿を部分的に映し出し、街角の似顔絵描きがその絵を完成させた時点でようやく3Dのタンタンがお目見えする場面も、スピルバーグ的な正確な順番を追った高揚感の醸成が効いている。これらのナビゲーション経て、観客はスピルバーグの3D作法に自ずとチューニングすることができる。

そこから始まるのは、市場で手にした帆船模型にはじまる壮大なアドベンチャーだ。サブタイトルを「ユニコーン号の秘密」としながらも、その実態は「なぞのユニコーン号」「レッド・ラッカムの宝」「金のはさみのカニ」という3つの原作をスクラップ&リビルドしたものになっている。これらの脚本を担ったのは、先日NHKでも放映されて話題を呼んだBBC製作「シャーロック」の製作&脚本を手掛けたスティーヴン・モファット、『ホット・ファズ』や『スコット・ピルグリム』などでお馴染みのエドガー・ライト、そして今年"Attack the Block"で大きな話題となったジョー・コーニッシュから成る黄金チーム。これら英国を代表するクリエイター3人の名前が並んでいること自体が俄かには信じられないことだ。

また本作はゆっくりした序盤から徐々にギアを上げ、動作や背景をダイナミックなまでに絡ませていく。後半、いざモロッコの街中でアクションシークエンスが幕を開けると、スクリーンのいたるところで様々な細かな描写が地滑り的に勃発し、あれよあれよという間に、およそ人間の持つふたつの眼球を駆使した動体視力では把握しきれるはずもない怒涛のイメージが氾濫して襲いかかってくる。ブリューゲルの絵画を思わせるほど細部でいろんなことが巻き起こり、それらは一瞬一瞬かみしめる暇もなく、あっという間に過ぎ去っていく。

ここで観客の評価は二つにわかれるだろう。ひとつはこれまで2D実写における表現の限界があったからこそスピルバーグは輝いていたのだという見方。そしてもうひとつは、表現の限界なき3Dアニメーションにおいてスピルバーグは更なる高みに達したという見方。

とにかくスピルバーグは中盤からクライマックスにかけて際限なきイマジネーションでとことん趣向を詰め込んでくる。うっかりしているとこちらがパワー負けしてしまうくらい、とにかく「とことん」なのだ。そもそも映画とは1秒間に映し出される24コマの絵柄が目の残像により繋がって見えるトリック。これが3Dともなればもちろん更なる視覚のトリックを伴うこととなる。このスピルバーグの剛速球に振り落とされないためにも、ぜひ観賞前には目にしっかりと鋭気を与えてから臨んでほしい。

ところで、スピルバーグが娯楽に返り咲いた『クリスタル・スカル』、それに『タンタン』において、ひとつの気づきが僕の頭をもたげるのを覚えた。

「自分のリズムとは異なってきている」

これは実に不思議な感覚だった。べつにセルフ・パロディが鼻についたわけでもない。幼子のように好奇心旺盛な3D趣向も良いだろう。ちょっとばかしストーリーの統合力が削がれていようともそれらはスピルバーグのブランド力で軽々と挽回できるというものだ。ただそれらとはまた違い、これまで自分を魅了してくれた崇高な存在がふと繋いでいた手をほどき、さあ、あとは自分の足で歩きなさいと促しているような歩幅の違いを覚えたのだった。

僕がそれだけ歳をとったということだろうか。それともスピルバーグがそれだけの老齢に達しているということか。『フック』のピーター・パンがそうであったように、彼もまたひとりの人間として老いることを選び、いつまでも跳んだり跳ねたりすることは不可能なのだと暗に示しているのだろうか。

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