2011年12月 3日 (土)

【レビュー】ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル

『M:I-3』から5年―。

ミッションの要となるイーサン・ハントはブダペストの刑務所にいた。そこでディーン・マーティンのゴージャスなナンバーを合図に巻き起こる暴動。そしてIMFチームによる大胆なる脱獄の手引き。それは新たな仕事の依頼だった。聞きなれたフレーズが耳に響く。

「例によって君やその部下が失敗しても当局は一切関知しないのでそのつもりで」

今回チームを組むのはガジェットからハッキングまで裏方作業を得意とするダン(サイモン・ペック)、ミッション中に愛する仲間を殺された女性諜報員カーター、それに古株のハント。ロシア側の核兵器の発射コードをめぐる謎を追いさっそくクレムリンに侵入した彼らだったが、そこで何者かの罠にはまり爆破テロの巻き添えを食らう。そのうえロシア側からはアメリカの差し金によるテロ実行犯と目され、ハント一味は一転して追われる身に。この事態を受けアメリカ大統領はIMFを国家機関から切り離す「ゴースト・プロトコル」を発令する。長官は言う。ハントらに残された道はふたつ。テロ実行犯として逮捕されるか、あるいは自分たちの手で真犯人を捕まえるか―。

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映画の潮流は刻々と変わる。いまやひとりの人気俳優の存在感で客を呼べる時代は終わり、コラボレーションの時代となった。

『アイアン・ジャイアント』、『レミーのおいしいレストラン』、『Mr.インクレディブル』で名高いブラッド・バードがこの監督を引き受けたのは正解だったと思う。彼にとっても念願の実写デビューだったわけだし、アメリカで人気が急落しているトム・クルーズを一人舞台の台座から“素材のひとつ”へと還元させることは、アニメーションのフィールドであらゆるキャラクターの持ち味を過不足なく発揮させてきたバード監督にとってまさに打ってつけの仕事だったと言える。

これまでは「裏切り者は誰だ?」という“疑心暗鬼の物語”に陥りがちだったこのシリーズ。だが本作ではあえて“信頼の物語”へと舵を切り返しており、4人のチーム・メンバーの個性をより肯定的に際立たせているのが特徴的だ。

とりわけ途中参入してくる分析官役のジェレミー・レナーはチームのもう一つの重みとなる。『ハート・ロッカー』で主演男優オスカー候補となり、現在製作中の『ボーン・アルティメイタム』に続く“ボーン”シリーズ新チャプターでも主演を担うこの男。当初、トム・クルーズだけでは映画の構成要素として物足りないと考えていたスタジオ側も、彼の起用でようやく首を縦に振ったと言われる。

そんな彼でさえ単独プレーに走ることなく、しっかりとチームのひとりとして他のメンバーとのコンビネーションにこそ魂を宿らせていくのが実にフェアに思える。そこで醸し出される雰囲気はシリーズ中でもっともクスクスした笑いに満ち、テレビシリーズの伝統を受け継ぐ「ありえないだろ!?」な秘密道具の活躍を散りばめ、やっぱり恒例となった“宙づり”シーンも盛り込み、それでいてシリーズ中でいちばんシビアな記憶をも打ち明け共有できる仲間意識に満ちている。

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また、今回はテロのシーンこそあるものの、アクション映画に付き物の爆破や火薬量がシリーズ中で最も少ないのではないだろうか。それは作り手が自らに課したハードルのようにも思えてならない。これを何なくこなして見せるのがブラッド・バードの凄いところだ。どの場面においてもグラフィック・ノベルを映像化したかのように画がキマっていて、盛り込まれるカットはつねに明快、かつ簡潔。

ドバイにそびえるあの超高層ビルに挑むトム・クルーズとその眼下に広がる緑と道路の幾何学模様とのコントラストが鮮烈な像を結んだかと思えば、今度は急転直下、地上では砂嵐で猛烈に視界の狭まる中、この世のものとは思えない幻想的なチェイスが展開したりもする。これらのシークエンスの各所が今もなお鮮明に記憶の中に焼きついているのは、積み上げてきた映像の連続性を「ドカーン」や「ズバーン」のカタルシスで霧消させていない証左と言えるのかもしれない。

思えば、アニメーションは実写に比べてその映像をゼロから築き上げていくものだ。それらを爆破などで吹き飛ばす描写にはあまりお目にかからない気がする(そう言いきれるほどたくさんのアニメを観ているわけではないが)。そんな現場で創作活動を続けてきたバード監督だからこそ、実写に場を移してもこれだけの計算され尽くしたビジュアリティを発揮できたのだろう。

あえてひとつだけ注文をつけるなら、悪役のキャラが紋切り型に終始していたことが気になった。このところ善と悪の境界線が引きずらいテーマを扱う作品が増えてきたが、久々に宇宙人的なまでに共感しようのないキャラを見た気がする(あとから考えると、同じことを画策した悪役が、最近のアメコミ・ヒーロー映画に存在した)。とくにスウェーデン版『ミレニアム』シリーズに主演したミカエル・ニクヴィストはセリフ控えめに、ただ逃げ回るだけ。あるいは、悪党そのものを“マクガフィン”として描くことこそ、ブラッド・バードの美学なのだろうか。

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2011年12月 1日 (木)

【レビュー】タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密

実に『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』以来となるスピルバーグのカムバック。この瞬間をどれだけ待ちわびたことか。しかも今回は彼の初となる3Dアニメーション参入。同時代に生きる最高のイマジネーションの使い手によるビジュアリティを映像化すべく、ピーター・ジャクソン率いるWETAワークショップも『アバター』『猿の惑星』に更なる応用を加えたモーションキャプチャー技術で援護し、誰もが馴染み深いタンタン少年の冒険譚が装いも新たな次元感覚で眼前に蘇ってきた。

Tintin
3D技術を手にしたスピルバーグはまるで全く新しい遊び道具を手にした幼子のように活き活きとしている。タイトルバックではコミック特有の絵心をのこしつつ、コマ割り風にストーリーを弾ませ、ふと気付くと、ページをめくる時のあの斜めに迫り出してくる感覚さえもが立体で表現されている(これまでこんなことを3Dで表現しようと思った人はいなかっただろう)。

正直に告白すれば、僕が本作でいちばん高揚したのはジョン・ウィリアムスのジャジーな旋律に乗せて流れるこのタイトルバックだった。それはどこか『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』との連なりも感じさせる。

そしていよいよストーリーの幕開け。鏡を多用して主人公の姿を部分的に映し出し、街角の似顔絵描きがその絵を完成させた時点でようやく3Dのタンタンがお目見えする場面も、スピルバーグ的な正確な順番を追った高揚感の醸成が効いている。これらのナビゲーション経て、観客はスピルバーグの3D作法に自ずとチューニングすることができる。

そこから始まるのは、市場で手にした帆船模型にはじまる壮大なアドベンチャーだ。サブタイトルを「ユニコーン号の秘密」としながらも、その実態は「なぞのユニコーン号」「レッド・ラッカムの宝」「金のはさみのカニ」という3つの原作をスクラップ&リビルドしたものになっている。これらの脚本を担ったのは、先日NHKでも放映されて話題を呼んだBBC製作「シャーロック」の製作&脚本を手掛けたスティーヴン・モファット、『ホット・ファズ』や『スコット・ピルグリム』などでお馴染みのエドガー・ライト、そして今年"Attack the Block"で大きな話題となったジョー・コーニッシュから成る黄金チーム。これら英国を代表するクリエイター3人の名前が並んでいること自体が俄かには信じられないことだ。

また本作はゆっくりした序盤から徐々にギアを上げ、動作や背景をダイナミックなまでに絡ませていく。後半、いざモロッコの街中でアクションシークエンスが幕を開けると、スクリーンのいたるところで様々な細かな描写が地滑り的に勃発し、あれよあれよという間に、およそ人間の持つふたつの眼球を駆使した動体視力では把握しきれるはずもない怒涛のイメージが氾濫して襲いかかってくる。ブリューゲルの絵画を思わせるほど細部でいろんなことが巻き起こり、それらは一瞬一瞬かみしめる暇もなく、あっという間に過ぎ去っていく。

ここで観客の評価は二つにわかれるだろう。ひとつはこれまで2D実写における表現の限界があったからこそスピルバーグは輝いていたのだという見方。そしてもうひとつは、表現の限界なき3Dアニメーションにおいてスピルバーグは更なる高みに達したという見方。

とにかくスピルバーグは中盤からクライマックスにかけて際限なきイマジネーションでとことん趣向を詰め込んでくる。うっかりしているとこちらがパワー負けしてしまうくらい、とにかく「とことん」なのだ。そもそも映画とは1秒間に映し出される24コマの絵柄が目の残像により繋がって見えるトリック。これが3Dともなればもちろん更なる視覚のトリックを伴うこととなる。このスピルバーグの剛速球に振り落とされないためにも、ぜひ観賞前には目にしっかりと鋭気を与えてから臨んでほしい。

ところで、スピルバーグが娯楽に返り咲いた『クリスタル・スカル』、それに『タンタン』において、ひとつの気づきが僕の頭をもたげるのを覚えた。

「自分のリズムとは異なってきている」

これは実に不思議な感覚だった。べつにセルフ・パロディが鼻についたわけでもない。幼子のように好奇心旺盛な3D趣向も良いだろう。ちょっとばかしストーリーの統合力が削がれていようともそれらはスピルバーグのブランド力で軽々と挽回できるというものだ。ただそれらとはまた違い、これまで自分を魅了してくれた崇高な存在がふと繋いでいた手をほどき、さあ、あとは自分の足で歩きなさいと促しているような歩幅の違いを覚えたのだった。

僕がそれだけ歳をとったということだろうか。それともスピルバーグがそれだけの老齢に達しているということか。『フック』のピーター・パンがそうであったように、彼もまたひとりの人間として老いることを選び、いつまでも跳んだり跳ねたりすることは不可能なのだと暗に示しているのだろうか。

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